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アーモンドアイの仔アロンズロッド入厩。思いもしなかった母子の似ている面とは?!

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
アーモンドアイの仔アロンズロッドに跨るC・ルメール騎手

 美浦所属の2歳馬を意味する緑地にオレンジのナンバーが描かれているゼッケン。
 その331番がアロンズロッドだ。

アロンズロッドとルメール騎手
アロンズロッドとルメール騎手

 父エピファネイア、そして、母はあのアーモンドアイ。史上初めて、そして現在では唯一のJRA平地GⅠ9冠馬。そんな名牝を母に持つアロンズロッドは、母と同じ国枝栄厩舎に入厩。担当も同じ根岸真彦調教厩務員。5月15日には、クリストフ・ルメールが初めて跨った。母の主戦を務めたルメールは言う。
 「ゲートと坂路を軽くやった程度でしたけど、お母さんと似た大きなストライドで、良いフットワークでした」
 アーモンドアイのフットワークに関しては、彼女の現役時代に次のように語っていた。

ルメール騎手が乗る現役時代のアーモンドアイ
ルメール騎手が乗る現役時代のアーモンドアイ

 「デビュー戦は2着に負けてしまったけど、その時からフットワークの素晴らしさは感じる事が出来ました。具体的には前脚を上に振り上げるような脚運び。とくに、手前を変える時は獲物に襲いかかるのか?というくらい脚を上げている感覚を受けました。まるで波に乗っているというのでしょうか。こんな感触を受けた馬は今までに1頭もいませんでした」
 そう言うと、牝馬三冠を決めた秋華賞(GⅠ)で繰り出した末脚には、乗っていても驚いたと続けた。
 「当時はスタートが安定せず、後ろからの競馬になりました。秋華賞の舞台となる京都の内回りコースではかなり苦しいと言わざるを得ない位置取りで、勝負どころに差し掛かった時には正直『今回は厳しいかな……』って思いました。ところが最後に追うと想像以上の脚を披露して、結果的には悠々と差し切ってくれました」

もの凄い末脚で秋華賞(GⅠ)を制した際のアーモンドアイ
もの凄い末脚で秋華賞(GⅠ)を制した際のアーモンドアイ

思いもしなかった母と似たところ

 アロンズロッドがそんな母にも似たフットワークの持ち主だとすれば、当然、期待は膨らむばかりだが、これにはルメールが「でもまだ幼いですから、これからの成長次第です」と言えば、根岸も「まだ話題にするには早過ぎますよ」と冷静に言う。
 では、どのような点で幼さを感じたか?を問うと、ルメールは笑いながら答えた。
 「影でジャンプしていました」
 その様子を見ていた根岸も「はい。飛んでいましたね」と言った後、更に続けた。
 「アーモンドアイも最初に来た時、同じように影を見てジャンプしていました」

アロンズロッドと根岸真彦調教厩務員
アロンズロッドと根岸真彦調教厩務員

 そんな面まで似るものなのか?!と感じた後、ある1頭の馬が頭に浮かんだ。オールドファンで、且つ海外競馬にも興味のある人はデイジュールという名のスプリンターに記憶はないだろうか。1989年にイギリスでデビューすると、翌90年、ナンソープS(GⅠ)やアベイユドロンシャン賞(GⅠ)等、ヨーロッパの短距離GⅠを次々と制覇。秋にはアメリカへ渡りブリーダーズCスプリント(GⅠ)に挑んだ。ここは初めてのダートにもかかわらず、持ち前のスピードを発揮。完全に勝ったと思える競馬をしたが、直線で思わぬアクシデントが起きた。ベルモントパーク競馬場のスタンドの影を見て2回もジャンプ。その度に後れを取り、結果クビ差の2着に敗れてしまったのだ。

ベルモントパーク競馬場のスタンド前。時期と時間帯によってスタンドの影が落ちる
ベルモントパーク競馬場のスタンド前。時期と時間帯によってスタンドの影が落ちる


 それでもこの年のヨーロッパの年度代表馬に選定された彼は、その後、種牡馬となる。日本では98年に京成杯オータムH(GⅢ)他を勝利したシンコウスプレンダがこの馬の子供だが、世界的に話題になったのはトレモントS(GⅢ)2着の他、8勝を挙げたジャンプザシャドウという馬。勿論、ブリーダーズCスプリントでの出来事を元に名付けられたわけではあるが、今回のアーモンドアイとアロンズロッドが「共に影でジャンプした」というエピソードを聞いて、そんな事を思い出すと共に、今回の母子も、デイジュール同様、親子で名馬になる事を期待したいと改めて感じたものだ。
 ちなみに国枝によると「ゲート試験にも受かっているので、この後は1度、ノーザンファーム天栄に戻し、母と同じ新潟でのデビューを目指して再入厩させる」との事。その時にはもう影を飛ぶ幼さは無くなっているのだろうか。注目したい。

国枝調教師とアロンズロッド
国枝調教師とアロンズロッド

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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