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イタリアに「墓場の静けさ」もたらしたアキレス腱断裂、スピナッツォーラの妻が照らす救いの道筋

中村大晃カルチョ・ライター
6月16日、EURO2020スイス戦でのスピナッツォーラ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

好事魔多し、のひと言では片付けられないほどのショックだ。絶好調だったからだけではない。レオナルド・スピナッツォーラは、並々ならぬ想いでEURO2020に臨んでいた。夢半ばで倒れた落胆は計り知れない。

7月2日に行われた準々決勝ベルギー戦で、スピナッツォーラは左足を負傷。すぐに交代を要請し、ピッチに倒れこむと、涙を流しながら担架で運び出された。翌日の検査で、直後から報じられていたように、アキレス腱の皮下断裂と診断された。

スピナッツォーラは、好調イタリアでひときわ輝いていたひとりだ。決勝トーナメント進出が決まっていたグループステージ最終節を除き、全試合で先発出場。2試合でマン・オブ・ザ・マッチに輝いた。

以前から、その能力は確かに評価されてきた。ただ、肉体の問題に苦しめられてきた彼にとって、これまでの道のりは決して平たんではなかった。

◆入念なケアで大会へ

2018年春のひざ前十字じん帯損傷で長期離脱を余儀なくされたスピナッツォーラは、ユヴェントス復帰後も序盤戦を棒に振り、ほとんど出場機会を得られず。翌年ローマに移籍した。

2019-20シーズン途中には、インテルへの移籍に近づき、メディカルチェックまで受けたにもかかわらず、ひざの状態を懸念され、マッテオ・ポリターノとのトレードが成立寸前で破談となっている。

ローマで奮闘を続け、今季は序盤からたびたび活躍してきたスピナッツォーラだが、4月に太ももの筋肉を負傷。戦列を離れたまま閉幕を迎え、一時はEURO出場も危ぶまれた。

フィジカルの問題に絶えず悩まされてきただけに、スピナッツォーラは大会に向け、入念な肉体管理に努めてきた。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は、この2カ月のスピナッツォーラを「小さな兵士」と評している。

体を早く回復させるための早めの就寝はもちろん、ケガ予防のために食事に関する細部に気を配り、共通のパーソナルトレーナーを抱える元バレリーナの妻と自宅でもトレーニングに励んだ。スピナッツォーラは以前、歯並びも矯正したと明かしている。

EUROでの躍進は、日々の努力の賜物だったのだ。

◆敗戦時のようだったロッカールーム

だからこそ、チームの悲しみも大きい。サッカー連盟のガブリエレ・グラヴィーナ会長は、ロッカールームが敗戦時のような雰囲気で、「墓場のような静けさ」を感じたと話している。

同会長は、それが今大会のイタリアの団結力を示していると述べた。実際、アッズーリの面々は、遠征から戻る飛行機の中から、仲間にエールを送っている。

一夜明け、スピナッツォーラがキャンプ地を離脱する際も、ロベルト・マンチーニ監督や主将ジョルジョ・キエッリーニをはじめ、全員が一人ひとり抱きしめて激励した。

◆前を向くスピナッツォーラ夫妻

確かに、大切なのはこれからだ。そばでスピナッツォーラを見てきた妻も、前を向こうと励ました。誰よりも彼の心情を知り、胸を痛めているに違いないミリアム夫人が、インスタグラムに長文を投稿している。以下、拙訳だがご紹介したい。

「あなたがどれほどこのEUROを想像し、夢に見たか、誰も知らない。でも今日、あなたの列車はここで止まってしまった。あなたが導いた有名な列車が、止まってしまった。私たちは、あなたのおかげで忘れられない、素晴らしい20日間を過ごせた。あなたを知る人は、あなたの価値がどれだけか知っている。この日々で、あなたはそれを欧州全土に示した」

「これからは別の闘いがあなたを待っている。でも、あなたは乗り越えてきた。あなたは強い。ハートとガッツ、そして笑顔で、堂々と乗り越えられる。人生はあなたにちょっと厳しい試験を課しすぎだけど、どんなことも、誰であろうと、あなたからその素晴らしい笑顔は奪えない。絶対に!」

「すぐにまたあなたはピッチに立ち、仲間たちと喜ぶわ」

「最後に、でも一番大切なこと。あなたはみんなを誇らしくさせた。でも何より、まだ3歳の私たちの息子マッティアは、最初から最後までパパのことを誇っているわ。これ(試合に臨もうとしているテレビ画面の父を指さす息子)の前に、つけ加えることは何もないと思う」

「嵐の後には、必ず太陽がある。私たちはそれをよく知っている。愛するあなた、あなたは強い。前よりも強い。いつも、あなたとともに」

繰り返すが、落胆は計り知れない。心身の傷が癒えるには、時間が必要だろう(戦列復帰まで4カ月と言われる)。だが、愛する妻と息子、そしてまだ小さい娘の存在が、きっとスピナッツォーラの視線を前に向けてくれるはずだ。

3日、スピナッツォーラはインスタグラムで「残念ながら、知ってのとおりとなった。でも、僕たちのアッズーロの夢は続く。このグループなら不可能はない。僕に言えるのは、早く復帰するということだけだ!それは確信しているよ」と、笑顔と力こぶの絵文字つきで投稿した。

そのときを、多くの人が待っている。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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