イスラエルで開催されている「ホロコースト生存者の美人コンテスト」を描いたドキュメンタリー映画
第2次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人やロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。ホロコーストの生存者や当時の様子など実話に基づいた映画やドラマは毎年欧米で制作されている。
2012年からイスラエルで「ホロコースト生存者の美人コンテスト」が開催されている(2020年は新型コロナウイルス感染拡大で中止)。ホロコースト生存者なので、出場する女性たちも80代と90代がほとんどである。ホロコースト生存者は幼少期や子供、青年時代に自由や女性らしさを奪われていた。現在の生存者らは、戦後も生きていくのに精いっぱいで美人コンテスト参加どこではなかった。今でもイスラエルで暮らしているホロコースト生存者の4人に1人は貧困線以下で暮らしている。
参加者はホロコースト生存者であり、これから若返ることもないし、いずれゼロになってしまう。参加者らはステージでホロコーストの思い出を語っている。このコンテストは日本ではほとんど報じられていないが会場は毎年満員になっている。そしてイスラエルだけでなく欧米ではテレビ、新聞だけでなくソーシャルメディアやネットなど、あらゆるメディアで世界中に発信されている。
その「ホロコースト生存者の美人コンテスト」をテーマにしたドイツで制作されたドキュメンタリー映画「MISS HOLOCAUST SURVIVOR」のオフィシャルトレーラーが公開された。2023年11月にドイツで公開される。
▼「MISS HOLOCAUST SURVIVOR」オフィシャルトレーラー
従来のホロコースト映画とは毛色が違うドキュメンタリーだが、ホロコーストを伝える記憶のデジタル化
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
映画「MISS HOLOCAUST SURVIVOR」は広い意味での「ホロコースト映画」でドキュメンタリーだが、現在に生きるホロコースト生存者の美人コンテストを描いた作品である。ホロコースト生存者が当時の思い出や経験、記憶を伝えるシーンはあるが、生々しい映像や強制収容所など残虐なシーンが出てくるホロコースト映画とは毛色が異なる。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。
映画「MISS HOLOCAUST SURVIVOR」に登場するホロコースト生存者らの高齢の女性たちもホロコースト時代の経験や記憶をステージで伝えており、デジタル化された映像で世界中に配信され後世にも残る。映画の英語での宣伝文は「„Stand here, smile to the people and show them we‘re alive.“(ステージに立ちなさい。人々に笑いかけて、"私たちは今でも生きている"ところを見せつけなさい)」である。
デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく観るという大人も多い。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。