小田和正 Xマスから季節はめぐり、春、“特別”な場所で“約束”を果たす「風のようにうたが流れていた」
「風のようにうたが流れていた」とは?
小田和正が毎年クリスマスの時期に、様々なアーティストをゲストに迎え、一夜限りのセッションを繰り広げ、音楽の素晴らしさを伝え続けている人気番組『クリスマスの約束』(TBS系)が、昨年は“延期”という形がとられ、ファンをやきもきさせた。オフィシャルサイトには、番組制作スタッフから「収録と放送を少しだけ延期して、それに代わるものを出来るだけ早くお届けしよう、と言う結論に至りました」というコメントが掲載された。
その“約束”は、クリスマスから、季節が少し進んだ、春の訪れとともに実現した。3月6日、小田の母校、横浜・聖光学院中学高等学校・ラムネホールで、『風のようにうたが流れていた』(TBS系/3月29日深夜24時20分から放送)の公開収録が行われた。『風のように~』は、小田の初レギュラー音楽番組(2004年10月~12月/TBS系)のタイトルだ。ファンにとっては嬉しい復活だ。さらに、番組の舞台は小田の母校という、季節外れのクリスマスプレゼントとでもいうべき内容になった。
母校の、元オフコースメンバーが設計したホールで歌う
JR根岸線「山手」駅。改札を抜け左に行くと、すぐに、割と急な坂道が始まる。この坂道を小田少年も登っていったのだろうか。そんなことを考えながら、静かな住宅街の中の坂道をひたすら登っていくと、右手に聖光学院の尖塔の鐘楼、瀟洒な建物とグラウンドが現れる。この「場所」で小田が歌うというだけで、ファンにとっても小田にとっても特別な日になるはずだ。さらに収録が行われる同学院のラムネホールは、小田の同級生であり、初期のオフコースのメンバーだった、建築家・地主道夫氏が設計したという、オフコースのコアファンにとっては、それだけでグッときてしまうシチュエーションだ。
「春の雰囲気が伝わるようなコンサートができれば」
いつもの「クリ約」のように、ステージに設置された客席の間から、小田が大きな拍手に迎えられ「ど~も~」と登場。「今日は私の母校であります、ここ横浜・聖光学院のラムネホールと名付けられた講堂からお送りしたいと思います。根岸の桜並木の坂、聖光学院の校庭の桜、オンエアされる頃には満開になっているかと思います。そんな春の雰囲気が伝わるようなコンサートができればと思っています」と挨拶。この日のゲストとして、小田と初共演の杏、そして熊木杏里、佐藤竹善(SING LIKE TALKING)、JUJU、スキマスイッチ(大橋卓弥、常田真太郎)、根本要(STARDUST REVUE)、水野良樹(いきものがかり)、矢井田瞳、和田唱(TRICERATOPS)が登場。佐藤は「山手駅を利用して大学に通っていた。近くの公園でオフコースの「秋の気配」とかをまんざらでもない感じで歌っていた(笑)」と、まさにオフコースに影響を受けたアーティスト、ファンにとってここはやはり特別な「場所」であることが伝わってくる。
ステージのグランドピアノの前に立った小田が「みなさんもきっと喜んでもらえると思います、私もとても嬉しいです」と、この日のためだけにニューヨークから駆け付けた矢野顕子を呼びこむと、客席からどよめきが起こる。昔、オフコースの「Yes-No」を矢野がカバーしたことがあり、「ちょっと弾いて」とリクエストすると、矢野は「Yes-No」を即興で披露。一瞬で矢野の「Yes-No」になり、客席を魅了する。当時、それを聴いた小田が「こんな「Yes-No」があるのかと、怒らなかったけどびっくりした」という裏話を披露し、ファンを喜ばせた。続いて矢野が「David」を披露すると、その優しくしなやかなピアノと歌にひきこまれる。矢野の音楽は、ふんわりと温かく、でもどこかせつなく、心地いい時間を作りだしてくれる。
「クリ約」でもおなじみの「小委員会」メンバーが今回も数々の名曲の数々を、美しいハーモニーと共に聴かせてくれた。まずは、スキマスイッチの大橋卓弥が、この日の舞台のことを考え、「放課後の教室でワイワイやっているみたいな曲はどうか?」と提案した「青春の輝き」(カーペンターズ)だ。歌詞を見た時に「これは私の曲だわ」と思ったというJUJUがメインボーカルを担当した。このスタンダードナンバーの甘酸っぱさと切なさを、原曲に近い、でもこの日限りのオリジナルアレンジで伝える。バックバンドの山本拓夫のフルートが、曲に彩りを与えている。
水野が「いかにも春らしい女の子の歌をあえて男だけでやろうと決めた」と小田、スキマスイッチ、根本と共に、世代を問わず多くの人に愛されている竹内まりやの名曲「元気を出して」を歌うと、客席に感動が広がっていくのが伝わってきた。
続いて、小田が「ちょっと変わった歌を歌う人をみつけた」と紹介され、杏が登場。小田のリクエストで松田聖子の「SWEET MEMORIES」を和田、小田のギターで披露した。伸びやかな声は、低音部分は艶やかで、特に説得力を持った高音は美しく、この曲が持つブルースの部分にしっかり光を当て、まさに名演。大きな拍手が沸き起こった。
小田と和田が前回の「クリ約」でも好評だった、“映画音楽メドレー”の春版を披露。誰もが一度は聴いたことがある映画の名曲をつなぎ、二人の美しい声が重なると、その美しいメロディがより際立つ。途中、客席も巻き込み、一緒に歌い盛り上げると、いよいよクライマックスが近づいてくる。オフコースの「YES-YES-YES」だ。小田と佐藤からはじまり、大橋と和田が続き、女性陣のコーラスとアーティストたちが声を重ねて、そしてつなげていく。客席も総立ちになり大合唱だ。涙を流しながら歌っているファンもいる。
“丘の上の特別な場所”、「my home town」で歌う奇跡の一夜
すべての収録が終わると小田は集まったファンに感謝の言葉を述べ、「my home town」の一節を口ずさんだ。歌詞に登場する“丘の上”がまさにこの日の舞台、聖光学院だ。小田は「この場所ね」と足元を指して、ステージを後にした。ほんの一瞬のできごとだったが、ファンには忘れられない一シーンになったはずだ。
小田と出演者、制作スタッフとの信頼、絆が“熱”となって、視聴者に伝わる
「クリ約」、そして今回の「風のようにうたが流れていた」は共に、小田と出演者たちの信頼や絆と、互いへのリスペクトが大きなテーマとして流れている。そして音楽への愛情。小田を始め、どんなにキャリアを重ねようと、音楽と常に真摯に向き合い、歌を心から愛するアーティストが集まる。そしてその思いと、とにかく“伝えたい”という強い気持ちを、次の世代へと“歌いつないでいく”。そんな出演者と、制作チームの“熱さ”が伝わり、観ている人の心を打つのだと思う。
このライヴの模様は3月29日(金)深夜24時20分から放送される。また動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信されることが決定している(配信日時は後日発表)。
■BAND 木村万作(Dr/Per)、栗尾直樹(Key)、稲葉政裕(G)、有賀啓雄(B)、山本拓夫(Sax/Flute)、金原千恵子(1st Violin)、吉田翔平(2nd Violin)、徳高真奈美(Viola)、笠原あやの(Cello)