「選択肢のある未来を届けたい。」アフリカに経営者自ら足を運び、エシカルへの取り組みを行う企業を追った
2023年度の文部科学省の「学校基本調査」によると、通信制を含めた日本の高校進学率は98.7%(※1)、高等教育機関(大学・短期大学・高等専門学校4年生・専門学校)への進学率は84.0%(※2)といずれも上昇傾向にある。
そんな日本で暮らしていると、教育を受けることも、物資に恵まれた目の前の生活も当たり前のように享受しがちで、「サスティナブル」や「エシカル」への取り組みも、どこか上辺だけのように感じられることがある。
そのような中、エイジングスキンケアブランド「VIRCHE(ヴァーチェ)」の真摯なエシカルへの取り組みを知り、取材した。
ヴァーチェのエシカルへの取り組みとは?
VIRCHE(ヴァーチェ)は、2014年に誕生したエイジング世代に向けたスキンケアブランド。その主力商品は、「ヴァーチェ マルラオイル」という美容オイルだ。
マルラとはアフリカ南部に生息するウルシ科に属する植物のことで、アフリカでは「神の木」と呼ばれ、厳しい自然を生き抜く強い生命力を持つ。
「ヴァーチェ マルラオイル」は、マルラの木の実の種から圧搾して作られるマルラオイル100%で作られている。
ビタミンE、オレイン酸、オメガ3・6、ポリフェノールを含有し、日本で人気のアルガンオイルと比較しても約3.6倍、オリーブオイルと比較すると約10倍と群を抜くほど高い抗酸化作用を持つ点が最大の魅力だ。
加えて、「ヴァーチェ マルラオイル」は保湿力と浸透力にも優れており、その誕生から10年を迎えたロングセラー商品だ。
VIRCHE(ヴァーチェ)では、マルラオイルをコールドプレス製法で栄養を壊さずに抽出し、国内で非常に厳しい基準を設け、小ロットで生産している。大量在庫を持たない理由は、いつもフレッシュな状態で顧客に届けるためだという。
エシカルへの取り組みとして、2024年9月のリブランドを機に、ラベルレス・シュリンクレスのほか、飲料容器古紙100%再生紙を採用している。
加えて、配送資材を簡素化することでプラスチックをカット。ポストインできる配送を目的としてボトルをスリムな形状に見直した。
このほか、アフリカ大地のインスピレーションを視覚化するためにロゴマークをマルラの実、オイルドロップをイメージしたものに変更するなどプロダクトデザインを変更する取り組みも行った。
エシカルへの大きな取り組みとして最も注目したいのは、2024年10月現在アフリカで700人を超える女性の雇用を生んでいることだ。
詳しい話を実際に現地にまで足を運んだ経験を持つ、「VIRCHE(ヴァーチェ)」を展開する株式会社ヴァーチェの代表取締役 藤原友香さんに伺った。
<藤原 友香さんのプロフィール>
1986年生まれ。大学中退をしたのち(株)リクルートに入社。その後広告代理店への転職を経て化粧品会社へ入社。2014年にエイジングケアブランド「VIRCHE(ヴァーチェ)」を立ち上げ、その後(株)ヴァーチェとして法人化し、現在に至る。
「選択肢のある未来を届けたい」〜藤原友香さんインタビュー〜
Q1.アフリカで雇用を生むに至った経緯と、どのくらいの期間の取り組みかお聞かせください。
A1.2014年2月にマルラオイルが発売開始になりましたが、その半年ほど前から原料としてマルラに注目していました。
けれど、その頃はまだ原料としての安全性やスペックなどに惹かれて発売を決めただけで、アフリカの現地貢献については頭にありませんでした。
それが、通販サイトを立ち上げるにあたって担当してくれたデザイナーさんに、「(株式会社ヴァーチェの活動は)アフリカの現地貢献しているんじゃないですか?」と意見をいただいて。
調べてみると、マルラが採取されるのは、アフリカ南部の貧困地帯。昔から採取されて、果実はジュースやお酒にしたりと使われてきましたが、現地の方がどのように関わってマルラオイルが作られているのかを含め、広くは知られていませんでした。
現地の情報を詳しく調べていくなかで、マルラの実の採取や仁をくり抜く作業は現地の女性が行っていることを知りました。
そして、読み書きができず、都会に働きに出てしっかりとした収入を得ることができない彼女たちの大事な収入源となっていることを知ったのです。
この10年間で事業が拡大していく中、現地の雇用も順調に拡大。雇用している現地の女性は、3年前で500人ほど、直近の調査では700人を超えていることが確認されています。
Q2.藤原さん自ら現地に足を運んだと伺いました。その目的は?
A2.子どもを働かせていないかといった労働環境の確認が第一でした。
それから、どうしてもマルラは天然のものなので、ワインのように毎年出来にばらつきがあります。しかし、それが製品に影響してしまってはお客様に満足いただけるものは提供できません。
品質と原価のコントロールを行う方法を模索する目的も兼ねて現地に足を運びました。2023年と2024年のことです。
とはいえ、私が足を運んだのは、モザンビーク共和国の南部から北部のエリア。危険なエリアと言えますが、2度訪問しました。
企業の人間が実際に足を運ぶことは、非常にレアなことだと思います。リスクが伴うのと、ワクチンを打つ必要もあるので。
ちなみに、私が現地に行くために打ったワクチンは、12、3本です。
Q3.現地の女性と触れ合った中で、特に印象に残っているエピソードがあればお聞かせください。
A3.現地の人、特に女性はすごく明るいです。そして、フランク。アジア人自体が珍しいので、町でいきなり肩を抱かれて、「かわいいわね。」と言われてキスされたりして驚かされました。
あくまでも私の印象ですが、お金がなくとも悲壮感が漂っていないのは、現地の方が明るい気質であることと、カラフルな服装の影響もあるかもしれません。
あちらの方は皆さんオシャレで、服は比較的安価でどこでも売られているので、古着の支援などは喜ばれないという話も聞きました。
Q4.現地の女性が得た報酬をご自身のお子さんの教育のために使いたいと考えていると聞きました。現地の教育事情についてご存知のことをお聞かせください。
A4.マルラの実が採取できるのは、村のようなエリアなのですが、現地の多くの女性は、読み書きができません。というのも、現地では今の成人の方が子どものとき就学率が50%を切り、女性に限定するとさらに就学率は低くなるためです。
現地の女性は読み書きができないことをとても嫌悪していて、自分の子どもにはそのような思いをさせたくないと考えています。
そのエリアでは、日本における小学校や中学校にあたる学校に通うこと自体は無償ですが、制服などにはお金がかかります。
また、現地の子どもたちで学校に通えていない子は、家の手伝いをしなければならないなどの理由で学校に通えていないのだと聞きます。
現在は日本の小学校や中学校にあたる学校は、昼と夜の部に分かれていて10年前よりは通いやすい状態。エリアによってまちまちですが、学校に通えていないのは5〜10人に1人程度のようです。
この10〜20年で子どもたちの教育環境は大きく改善したようです。
その一方で、先生の数がかなり少なく、それは、現地のNGOの方や、現地を知る日本人から聞きました。
私が足を運んだモザンビークの南部では、大学に進学したお子さんの話は聞いたことがなく、実際のところ大学に進学するお子さんは滅多にいないと聞きます。
日本でいう高校にあたる学校に通っているのも、現地のとあるコミュニティで出会ったお子さんでは1人だけ。その子のおじさんがお金持ちだから町に出て高等教育を受けられているのだと聞きました。
Q5.現地の賃金事情などについてお聞かせください。
A5.弊社のマルラオイルに関わる労働賃金は人によって異なります。というのも、その人の作業量によるからです。
要領が良いなどの理由でたくさんマルラの実を集めて仁をくり抜く人は、数日〜1週間ほどで買取額で200〜300メティカル分(2024年10月11日現在の日本円で233.46 円)の作業ができるようです。これは、現地でどのくらい価値があるかというと、子どもの制服が1着買える程度です。
要領がそれほど良くない人でも同じくらいの期間で100メティカル程だと思います。2、3日マルラの仕事に携われば、子どもの制服1着が買えることになります。
現地の女性が言うにはマルラの仕事は、仁の買い手さえいれば、いい仕事なのだそう。というのも、マルラの木は野生で強い木です。虫がついて駆除をしたり、水をやったりなど世話をする必要もなく、伐採したり、木の実を獲ったりする必要もありません。
家畜などのように元手の資金は必要なく、自然に実った果実の加工でお金を得ることができるからです。
Q6.今後のブランドの展望、アフリカで雇用している方々や御社の製品を手に取る方に、どんな未来を提供されたいかお聞かせください。
A6.スキンケアブランド「VIRCHE(ヴァーチェ)」を運営する株式会社ヴァーチェとしてのビジョンは、偉そうに聞こえるかもしれませんが、「選択肢のある未来」というのをひとつキーワードとして持っています。
アフリカの現地では、女性が収入を直接得ることで女性自身の選択肢はもちろん、子どもたちの将来のためにお金を使うことができるようになることをサポートするといったことも含めています。
また、手に取ってくださったお客様の肌が美しくなり、ハッピーになる。気持ちが前向きになることで、その方の新たなチャレンジを後押しし、その方の歩む道の選択肢が増える、そんな選択肢のある未来をつくることが企業としての願いであり、目標です。
株式会社ヴァーチェのエシカルへの取り組みは、ラベルレス・シュリンクレス、飲料容器古紙100%再生紙を採用しているといったことだけではない。アフリカの現地で多くの女性を雇用し、その子どもたちの未来に光を照らしている。
「現地の話を詳しく聞いて、もうこの事業は絶対にやめられないなと思っています。」そう笑いながら語る藤原さんの横顔に、人としての温かさと、経営者としての確かな覚悟を感じた。
編集後記
今回の取材を通して、いくつかの学びがあった。
ひとつは、日本で暮らしていると、他国からの支援を求める国に個人ができることといえば募金や古着の支援くらいのように思いがち。けれど、「ヴァーチェ マルラオイル」のように購入することが思いがけず現地の社会貢献につながることもあるということ。
それから、藤原さんのお話で印象的だったのが、古着の支援活動をよく見かけるものの、これは国や地域によって決して喜ばれるものではないということだ。
つまりこれは他国に限らず、被災者支援などにも共通するところだが、相手が何を必要としているかをまず知り、それに合わせた柔軟な支援が必要が求められているということになる。
今一度広い意味でエシカルへの取り組みについて見直したい、そんな想いを強くした。
<編集・校正を含む執筆者プロフィール>
エイジング美容研究家・美容ライター 遠藤幸子
アットコスメ編集部の公認のビューティストに認定されたのを足掛かりに、2014年よりエイジング美容研究家・美容ライターとして活動を開始。スキンケア・アンチエイジング両アドバイザーの資格を保持し、All About化粧品・コスメ ガイドも務める。雑誌や企業のウェブサイト、ウェブメディアなどにて美容記事の執筆・監修を行うほか、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、コスメブランドのインフォマーシャル、広告などにも出演。
【画像提供元】
「ヴァーチェ マルラオイル」の画像以外は、株式会社ヴァーチェ