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成田悠輔氏「高齢者は集団自決」発言 マスメディアは許容でチェック機能喪失の危機

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
成田悠輔氏ツイッターより(筆者撮影)

 イェール大学アシスタント・プロフェッサー成田悠輔氏の「高齢者は集団自決を」発言が批判されていますが、マスメディアは「彼の持論であり、問題提起だ」として受け入れる構えです。日本は過激な発言を受け入れる社会になっていくのでしょうか。それとも、マスメディアは完全にチェック機能を失ったととらえればいいのでしょうか。成田氏の問題発言を巡るマスメディアの様相をチェック機能の観点から考察します。

1年以上前からの発言

 今年になって注目されて問題視されている成田氏の発言は、実は1年以上前の2021年12月17日インターネットテレビ局ABEMA Primeで、日本の高齢化問題についての討議の際に出たものです。「唯一の解決策ははっきりしている。高齢者の集団自決、集団切腹みたいなのしかないんじゃないか。別に物理的な切腹ではなくて、社会的な切腹でもいい」と発言。ウィキペディアに最近加わった情報としては、これより3年前のグロービスが主催したパネル討議(2019年2月9日)でも同じような発言をしていますが、3年前も1年前もこれほど話題になりませんでした。さらに昨年の2022年1月17日公開された経済メディアNewsPicksでは、批判ではなく公式な「問題提起」として番組内で議論*1されました。批判に転ずるのは、世界中に広まった今年2月13日NYタイムズ一面での掲載。「これ以上ないほど過激」と報道されてから。*2

 なぜ批判されず、問題提起と受け止められたのか。高齢者社会に不満を持った人たちが集まっていたからなのか、若い人たちが視聴している番組だったからなのか、「たとえ話」だったから流されたのか、学者だったからか、当時は今ほど成田氏が著名ではなかったからなのか。クライシスコミュニケーションの観点からすると失言は社会的地位を失う大きなダメージとなりますから、この理由を深く考え込んでしまいました。

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信頼よりも視聴率

 過去の問題発言と比較してみます。昨年4月16日。吉野家の伊東正明常務取締役が、大学の社会人向け講座の中で、若い女性に吉野家のファンになってもらうための戦略を「生娘シャブ漬け戦略」と解説。この講座の参加者がSNSに投稿して炎上。マスメディアでも報道され、吉野家の株価は急落。二日後の18日付けで伊東常務は解任されました。発言は講座の中であり、限られた受講生でしたし、「生娘シャブ漬け戦略」はマーケティング戦略のことであり、「たとえ話」でしたが、批判され、企業もご本人にとっても信頼失墜となりました。

 昨年11月9日夜、葉梨法務大臣は、自民党岸田派国会議員のパーティーで、法務大臣の職務に関連して「朝、死刑のはんこを押して、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職だ」と発言。撤回謝罪したものの、二日後の11日には辞任に追い込まれ、事実上の更迭。

 荒井総理大臣秘書官は今年の2月3日、総理官邸にて記者団から同性婚について質問されたことに対して「マイナスだ。秘書官もみんな反対している。僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいたらやっぱり嫌だ」と発言。翌日の4日には、岸田総理から「政府の方針と相いれない」として更迭されました。他にも過去において「東日本大震災は東北でよかった」(今村復興大臣が講演中に発言。辞任)、「原爆投下もしょうがない」(久間防衛大臣が発言。辞任)などがあります。差別や死を軽視する姿勢は批判され、発言直後から炎上し、解任や辞任、更迭となっています。

 一方、今回の成田氏の発言は、高齢者という年齢差別と死を軽視する姿勢があり、明らかな問題発言で反人道的です。たとえ話であっても吉野家の常務は解任されています。しかし、成田氏は、大企業の経営者や政治家でもなく、株価下落、有権者離反、といったダメージが彼自身に起こらない。イェール大学の指導教授に怒られる程度。学者の発言に関して社会の許容度が高いということになるのでしょうか。

 そうはいっても、成田氏本人は日経テレ東大学とABEMA Primeを引退することを表明し、「22世紀に会いましょう」とツイッターで書いたことから(2月9日:NTタイムズの前だが取材があったことは予想できる)、持論だから撤回はしないが、今後は発言せず研究活動に専念する、といった方向性が見えました。ここで収束するかと思ったところ、事態は異なる方向へ。大炎上している最中であっても、成田氏は3月12日にTBS「サンデージャポン」に出演、さらに、4月スタートのテレビ朝日新番組「ソレいる?六本木会議」でもMCを務めます。今後はウェブ番組ではなく、より影響力のある地上波で活動することになったのです。

 つまり、インターネットメディアだけではなく、既存のマスメディアも成田氏の発言は「問題提起」として受け入れていく、差別発言、過激な発言を許容し、視聴率を稼ごうということになってしまった。せめて、「たとえ話であっても言い過ぎだった」「もっと適切な表現をすべきだった」などの釈明プロセスを経るべきではないでしょうか。マスメディアで反人道的な発言をしたり、それを批判せずに許容してしまったりすると子供達が大きな影響を受けてしまいます。*3 

 成田氏の発言を巡る一連の展開は、個人の問題ではなく、マスメディアのチェック機能のなさを露呈したといえます。これをきっかけに、性や年齢、民族といった特定の集団をひとくくりにした差別発言が過激化しても許容され、批判されない社会になってしまうリスクを感じざるを得ません。

<参考サイト>

*1

成田悠輔「高齢者は集団自決すればいい」物議 イェール大「意見は彼個人のもの」公式サイトに明記(2/2 ページ) - ねとらぼ (itmedia.co.jp)

*NewsPicks番組での動画掲載

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2302/16/news101.html 

*2

成田悠輔さんが「集団自決」発言でNYタイムズに登場 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

https://agora-web.jp/archives/230213033507.html

*3

成田悠輔“老人が自動でいなくなるシステム”子供への指南が再燃「恐ろしい」「刷り込むな」

https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/jisin/nation/jisin-https_jisin.jp_p_2180374?redirect=1

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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