山川穂高とトレバー・バウアー騒動から考えるMLBとNPBの明確な違い
【山川選手騒動にまったく介入しないNPB】
NPBは先週から交流戦に突入し各地で熱戦が繰り広げられる中、雑誌系メディアを中心に今も山川穂高選手関連の報道が賑わっている。
先月11日に「文春オンライン」で知人女性への強制性交疑惑が報じられたのを機に人々から大きな注目を集め、翌12日に西武は山川選手の出場選手登録を抹消し、事実上の謹慎処分の状態に置かれている。
また知人女性から被害届が提出されたことで、事情聴取を行っていた警視庁は同23日に書類送検したようで、山川選手の去就については検察の判断を待って決まっていくことになりそうだ。
ここまでの一連の流れを見ていく中で、長年MLB取材を続けてきた筆者は多少の違和感を抱いている。ここまでまったくNPBが介入していないからだ。
【バウアー投手の騒動はすべてMLB主導で対応】
今回山川選手の疑惑が報じられた時点で、MLBに詳しい人なら誰もがあるケースに類似していると認識しているはずだ。現在DeNAに在籍しているトレバー・バウアー投手による知人女性への性的暴行騒動だ。
バウアー投手はドジャース在籍時の2021年7月に、サンディエゴ在住の女性からバウアー投手の自宅で性的暴行を受けたとの被害届が警察に提出されたのを機に、今回の山川選手同様に渦中の人となった。
これを受け、選手会とともに家庭内暴力(DV)と性的暴行に関する規約を策定していたMLBは即座にバウアー投手を謹慎リストに入れ、警察及び検察の判断を待った。
最終的に被害現場となったバウアー投手の自宅がある地元検察は2022年2月、事件性はないとして不起訴としたが、MLBはこれとは別に独自調査の継続を発表。約2ヶ月後の4月29日になり、リーグ規約違反を理由にバウアー投手に対し、2シーズンにわたる史上最長324試合の出場停止処分を決定している。
その後バウアー投手のアピールが認められ194試合に軽減され、12月22日に処分は解除。同投手との契約を残していたドジャースが今年1月に解雇処分したことで、FA選手となったバウアー投手は現在日本でプレーしているというわけだ。
つまりバウアー投手の騒動に関しては、ずっとMLBが主導していたことが理解できるだろう。
【一般社会の動向に適応しようとするMLBのガバナンス力】
もちろんMLBとNPBには決定的な違いがある。前述通りMLBではDV及び性的暴行に関する規約が策定されているが、NPBには存在していない。
リーグとしての規約が存在していない以上、山川選手の一件に関してNPBは管轄外ということになり、行方を見守るしかない立場といえるだろう。
だがMLBにしても、元々規約など存在していなかった。DVや性的暴行が社会問題として騒がれるようになった社会情勢に適応するため、選手会と協議した上で2015年に策定されたものだ。
ちなみに規約が策定されて以降、バウアー投手だけでなくヤンキースのドミンゴ・ヘルマン投手など数選手が厳しい処分を受けている。
こうした規約策定の背景には、米国を代表するプロリーグの1つとして一般社会の動向に適応していこうとする、MLBのガバナンス力があるからだろう。
DVや性的暴行が社会問題として取り沙汰されるようになっている状況は、ここ最近の日本でも変わらないはずだ。単にNPBがそうした動きに対し、MLBほど敏感ではないということではないだろうか。
【球団主導では選手の復帰にも影響がでる?】
山川選手に対し今後西武がどのような判断を下すのか定かではないが、MLBのケースとはいえバウアー投手の例があるように、検察が不起訴にしたとしても何らかの処分は必要になってくるように思う。
だがその一方で、DeNAがバウアー投手を受け入れているように、処分後の山川選手に対ししっかり復帰の道が用意されるべきだろう。
ただ西武が厳しい処分を下し、山川選手がチームを去るようなことになった場合、他チームがすぐに獲得に動くのは難しいだろうし、たとえ獲得に乗り出したとしても、球団マターで山川選手の復帰時期を決めるという難しい判断を迫られることにもなる。
ならばMLBのようにNPBがリーグとして処分を決定してくれた方が、山川選手の復帰時期が明確になるし、西武だけでなく他チームも対応しやすくなるのではないだろうか。
NPBはこのまま静観しているだけでいいのだろうか。