コロナ禍で増えた「加湿器肺」 加湿器の水を何日放置すると危ない?
さて、気温と湿度が低くなってきました。特にコロナ禍以降、家の中で加湿器を使う人が増えていますが、加湿器の水の中に繁殖する病原微生物によって起こる「加湿器肺」の患者さんが増えています。
「加湿器肺」とは
加湿器の売り上げはコロナ禍に入ってから急速に増え、その後も安定して売り上げを維持しています。また、例年1~3月頃はインフルエンザの流行がピークとなる時期で、また、春先はスギ花粉が飛散するため、そろそろ加湿器が本格稼働しているところも多いのではないでしょうか。
相対湿度が低いと、気道の免疫が障害されたり、空気中にウイルスなどの微生物が浮遊しやすくなります(図1)。なので、適正な湿度というものはとても大事です。
さて、加湿器のタンクの中に繁殖した真菌(カビ)や細菌などの微生物が、エアロゾルによって部屋に噴霧され、それを吸うことによって肺炎が起こることがあります。これを「加湿器肺」と呼びます。ネットでは分かりやすく「加湿器肺炎」と書かれていることもあります。
新型コロナの流行後、加湿器肺の患者数が増加しています(1)。これはおそらく、自宅で過ごす時間が長くなり、加湿器を使用するようになったためと考えられます。
水の交換後4~5日目から注意
この病気、あくまでアレルギー性の肺炎で、感染症ではないことを知ってください。微生物の細胞壁に含まれる「エンドトキシン」という物質が悪さをしているのではないかという報告もあります(2)。いかにも悪そうな名前ですよね。
加湿空気と加湿器の水のエンドトキシン濃度は、4~5日目から指数関数的に上昇することが分かっています(3)(図2)。また、加湿器の水を入れ換えても、入れ換え後5日目には加湿器内に残存した微生物が増殖し、入れ換え前と変わらない水準に汚染されることも明らかになっています(4)。
つまり、この日数を超えて放置している場合、決して「清潔な加湿空気」とは言えないため、「加湿器肺」のリスクも高くなる可能性があります。
加湿器の水はどのくらいの頻度で交換するべき?
加湿器の水は、定期的に交換することが望ましいとされています。タンクの水を毎日交換して洗浄できればよいのでしょうが、なかなかそんな時間はありませんよね。
先ほどのデータをふまえ、加湿器肺の研究成果を多数発表している複十字病院呼吸器センターの下田真史医師にうかがったところ、「少なくとも4日に1回は加湿器の水を入れ替えるのが良いです。個人的には毎日の水洗いと水の交換、加えて週に1回の洗剤による洗浄がおすすめです」とのことでした。
次亜塩素酸ナトリウムの消毒が効果的というデータもありますが、肺にとってはあまりよくない次亜塩素酸ナトリウムを吸入してしまうリスクがあることから、個人的にも通常の洗剤でよいと考えます。
加湿器の水そのものは、塩素処理されている水道水の使用が推奨されます。微生物が増殖しにくいためです。
超音波式や気化式は微生物が増殖しやすい
加湿器には、「気化式」、「スチーム式」、「超音波式」の基本3つに加えて、「スチーム+超音波式のハイブリッド式」、「温風気化+気化式のハイブリッド式」の合計5つの方式があります(図3)。
「加熱しているから決して安全というわけではありませんが、超音波式や気化式はスチーム式と比べて微生物が増殖しやすいというデータがあります」と下田医師。
加湿器肺の症状や治療は?
汚染された加湿器を使用している人で、咳や息切れなどの症状が悪化する場合に加湿器肺を疑う必要があります。加湿器肺を発症する人はほんの一部なので、過度に心配する必要はありません。
胸部の画像検査では、左右両方の肺に陰影が出てくることが多いです(図4)。
加湿器肺の治療は、とにかく「抗原回避」が重要です。原因となっている加湿器の使用をやめることが重要で、呼吸器症状がしんどい場合、いったん避難のために入院することもあります。
まとめ
病原微生物やその成分であるエンドトキシンによって、「加湿器肺」というアレルギー性の肺炎を起こすことがあります。汚染された加湿器を使っている人は、呼吸器症状が出てきた場合、注意してください。
加湿器の水は4~5日目から指数関数的に汚染されていくので注意してください。水はできれば毎日交換し、週に1回程度は洗浄するよう心がけましょう。
(参考)
(1) Shimoda M, et al. Respir Investig. 2021; 59(5): 706-7.
(2) 仲谷善彰, 他. 日胸疾会誌. 1997; 35: 1232-37.
(3) 金勲, 他. 空気調和・衛星工学大会学術講演論文集. 2018. 7. A-32.
(4) 小椋正道, 他. 環境感染. 2006; 21(2): 109-14.