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北朝鮮女性「吊し上げの刑」見せしめショーの流出映像

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市で10月、韓流ドラマや映画などを視聴し、拡散させたとして摘発された高校生ら3人が公開処刑されたとの情報があることについては、すでに本欄で言及した。

 韓流コンテンツのまん延など反社会主義・非社会主義行為を取り締まる82連合指揮部は、飛行場の滑走路に群衆を集めて公開裁判を実施。銃殺刑を即決で執行したという。

 北朝鮮では、銃殺刑には至らないケースも含めて、まず大勢の前で「吊し上げの刑」にし、見せしめにするのための公開裁判が頻繁に行われている。

 韓国のKBSは最近、北朝鮮の某所で行われた公開裁判の映像を入手し、放映した(下)。

 その中ではひとりの女性について、次のような罪状が読み上げられている。

「〇〇〇女、25歳。数次にわたり淫蕩な方法で不当な性的関係を持ちながら、社会的物議を醸し、犯罪を強行した」

 この女性がどのような罰を受けたかは明かされていないが、恐らくは労働教化(懲役)刑などに処されたものと推定される。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 このような「見せしめショー」でさらし者にされる対象者の中には、多数の女性に鬼畜行為を働いた幹部など、罪に問われるべきケースもある。

 だが、いま北朝鮮社会で性売買が増えているのは、多かれ少なかれ経済難が影響しているはずなのだ。追い込まれて性売買に走った女性らの行動が、「見せしめ」にされるような罪であるとはとうてい思えない。

 北朝鮮当局は、公開処刑や公開裁判で、人々に恐怖や恥辱を与えればその行動を統制できると考えているのだろう。ある程度はそのとおりだろう。

 だが、そのような行為を数限りなく繰り返してきたのに、いっこうになくならない理由についても考えて見るべきだ。

 人間はやむにやまれぬ状況になれば、恐怖心も羞恥心もかなぐり捨てて行動を起こすこともあるのだ。

 そうした現実に目を向けることは、金正恩体制の維持にとっても有益なはずだ。いくら恐怖政治で大衆の思考をしばったつもりでも、人々がある重大な局面で、当局の意図に反する行動を取ることもあり得るということだからだ。

 金正恩総書記が自らの独裁体制を長持ちさせたいなら、国民が人間として最低限の尊厳を保てるよう、制度を改善することも必要だろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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