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「カニの女王様」が教える営業の極意【柏惠子×倉重公太朗】第4回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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仕事をしている人の中には、会社に対する愚痴を言う人もいれば、楽しく自己実現している人もいます。もし人よりも早く成長したいと思ったら、どのようなマインドセットでいると良いのでしょうか。ピグマリオンの代表として、人の可能性を信じ、「多くの事を成し遂げる人」を育てるサポートをしている柏惠子さんに伺いました。

<ポイント>

・会社の経営理念が合わないときはどうするか

・目標は下世話なものを書けばいい

・人の気持ちを動かすには「ジャパネットたかた方式」が有効

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■説得を受けるよりも、自分で気づくことが大事

倉重:ここからは参加者からの質問のコーナーです。

A:きょうお伺いした話の中で、いろいろな見方ができると思っています。

一番驚いたのは、大学で40人にプレゼンして30数名が入りたいと言ったということです。

共創ができない環境だし、初見なので信頼関係もゼロの状態ですよね。

セミナー系のコンサルの申し込みは、最大でも7人までだと言われています。

大学の申し込みは40人ちかくだから、6倍です。

柏:そうですよね、すごい数字で私も驚きました。実際の説明会には80人ぐらいいて、アンケート回収できたのが40名、そのうちの37名が入学希望でした。恐らく兎に角共感ということを意識した結果ではないかと思いますが、どうでしょうか。説明会では、冒頭から同じだという感覚を感じて頂く為に「皆さん、こんにちは。私はこんなところに偉そうに出てきましたが、実はこの4月に入学したばかりで、この間までは皆さんと同じように、自分のお金をどこの学校に投資しようかと血まなこになっていたのです」というふうに話し始めました。

倉重:それはもう共感の嵐ですね。

柏:それから壇上ではなく、参加者の中にどんどん入って行きました。

80人のど真ん中ぐらいにいて、一人ひとりの顔を見ながら話をしていきます。

「自分は子どもも主人もいるし、夕飯を作らなければいけないし、仕事は残業が多いし、でも仕事はトップなのですが」という自慢もちょくちょく入れながら話をしました。

だから、何人いても、共感は作れると思うのです。

A:その共感というのは、「あなたはどうですか?」と質問してトークするという意味ですか。

柏:それもあります。インタラクティブなやり取りはとても重要なポイントです。

A:双方向なコミュニケーションとして、話をしたり、意見をもらったりしながら会話するということですね。

柏:はい、その通りです。個人的には、どなたか一人の目を見て話して、その方が頷いたり、ちょっと感情が動いたりしたら、その方はOKという事で次の方を見てお話します。返事が返って来なくても何か投げかけて見て反応を確認するという繰り返しですね。是非、沢山の方に大量の合意を頂く為に、聴いて下さる方の真ん中で話をしてみるというのを試してみてください。

B:次は、経営理念に関しての質問です。経営理念は、おっしゃるとおりとても大事だと思うし、なるべく沿ったほうがいいということは分かります。ただ、中には自分に合わない場合があると思います。「今の会社の経営理念が合わない」と思ったときの行動パターンは、合わせようと努力をするか、見切って辞めるという2つです。

嫌いな経営理念に対して合わせようと努力することが果して正なのか。それとも、すぐに見切ったほうがいいのでしょうか。

柏:とてもいい質問です。

経営理念を一緒に作ることによって、多くの方の気持ちが変わっていきます。

例えば、「とにかく優秀な人が辞めて困っている。経営理念を書き換えるワークショップを通じて離職率を下げてください」というオーダーを頂きます。

「絶対に辞める」と言っていそうな方も、ばんばん集めて頂いて結構ですと参加者を決めて、実際の理念策定ワークショップをすると、「自分と、この会社のやりたかったことは近いんだな」と気づく方が多いのです。不思議ですよね。

見切る、見切らないではなく、もう一回フラットな気持ちになれるのだと思います。

そういうときの研修タイトルは、経営理念刷新などではなく「共に働く基準を作る」というものにしています。会社の為ではなく、自分たちの為、会社に言われた事をするのではなく、自分たちで行動は決めるという考え方です。

そこからミッションを作って、行動指針まで一緒に考えると、「働き方を変えていいのならば、もう少しこの会社にいるか」というふうに、やる気が出てきます。

アンケートデータで集計しているのですが、研修前のやる気が10段階中5でも、ひょいと8に上がってしまう訳です。先日の理念改定ワークショップのアンケートでも「会社に入ってこの仕事が一番楽しい」と書いている方もいたので、辞める、辞めないを、超越できるのかもしれません。

倉重:説得を受けるよりも、自分で気づくことが大事なのですね。

B:先ほどおっしゃったように、自分が作ったから、やらなければいけなくなりますよね?

柏:強制はしていません。

「自分の得になるか得にならないかだけを考えてください」と言っています。

A:実は僕も、ミッション、ビジョン、バリューは全否定派なのです。

たくさん本も読んでいるので、価値も知っているし、自分の会社のものを作ったこともあります。

僕がお聞きしたいのは、そういう研修の2~3年後もモチベーションを維持しているのかという部分です。

ミッションやビジョンは、数字目標であればいいのですが、言語の場合は勘違いやディスコミュニケーションが起きると認識しています。

それよりも会社の「文化」が守られるべき領域ではないかと思います。

実際にミッション、ビジョン、バリューを作って、数年後の浸透具合はどうなのかをお聞きしたいです。

柏:残念ながら、今会社をつくって3年目なので、それ以降のデータはありません。

経営理念を作って2年目の会社は、まだモチベーションは上がり続けています。

「今度は、前回は参加しなかった工場の従業員全員参加でやりたい」という話が出るくらいです。今とてもいいポイントだったのが、「文化を変える」ということです。

実はある会社で、「今まで良かった文化と悪い文化」を考える演習をしました。

経営理念を作るのではなく、「働きやすくするために、文化を変えてしまおう」と考えたのです。

A:文化は変えられるのですか。そこが聞きたいです。

柏:文化は変えられます。どう行動すれば良いのか、判るようにすれば良いのか判るようにすれば良いのです。

経営理念はどのようなものを作っても良いのですが、変えたい文化をまず特定して、それを変える行動を促す行動指針を作りましょうとお伝えしています。具体的な手法として、「名詞と動詞を組み合わせた行動指針を作ってください」とお願いしています。

たとえば「信頼」や「誠実」だけでは、行動に繋げるには曖昧な部分が残ります。

ですから、必ずその横にどう行動したら良いか短い文をつけて貰います。因みに覚えられないから5個までね」と言っています。

そういう形にしてあげると、使いやすいし、少しずつ社内用語になっていきます。

ある会社では、ウェイのようなものを作りましたが、部門毎に「ウェイに沿った行動を共有する」という展開で盛り上がり続けているそうです。現在進行中の会社では、参加したメンバーが次世代リーダーとしてこのワークショップで凄く成長したと経営者の方に喜んで頂いています。私ではなく、皆の頑張りでうまくいっているのだと思います。

倉重:文化は行動の積み重ねです。

今も働き改革に合わせて、「働く文化を変える」という仕事が多いのです。

やはり、一つ一つの行動、文章、会議の発言の仕方、仕事の命じ方、これを全部変えて、積み重ねていかないと変わりません。

「働きやすい職場にしよう」というお題目だけでは絶対に変わらないと思います。

■欲しいものは、リアルに想像する

B:少し話が変わって、「自分がありたい姿を掲げると」という話を先ほどしてくださったのですが、これはなかなか難しいと思います。

ありたい姿を決めるときに、どういうところをポイントにしているのでしょうか。

またそれをどのように他人に伝えているのでしょうか。

柏:「目標などなくても生きていける」という人はいますし、それはそれで全然構わないと思います。

でも、人生を振り返ったときに、自分が本当にやりたかったことと、今までしてきたことがずれていたら、少し寂しく感じると思います。

だったら、最初からやりたいことを土台にして、毎日を生きたほうが幸せになりますよね。

「目標をうまく書けない」というのは皆が言うことです。

私は「下世話に書け」と言っています。

「これが欲しい、これがしたい」ということを書くと、だんだんどこに行きたいかが分かってきます。

私も、「こういう大島の着物が欲しい」「寝そべれる椅子が欲しい」ということを書いていました。

ビジョンとは、テレビジョンのビジョンと一緒で、映像という意味です。

自分の手の上に乗っているかのように、ありありと想像できるものがいいですね。

例えば、Aさんは何となく「リンゴが欲しい」と思っていて、Bさんは、すごく大きくてぴかぴかで真っ赤なリンゴが欲しいと願っていたとします。

そこにチャンスの神様が来て、「いつも頑張っているAさんとBさんに、今から2秒間だけリンゴの木を出しますから、お好きなリンゴをおひとつどうぞ」と言いました。

Aさんは「2秒」と言われて焦ってしまい、ぱっと取ったら青いリンゴでした。

でも、Bさんはいつもイメージしているから、2秒でぴかぴかの真っ赤なリンゴを選べるわけです。

倉重:普段から考えている人にしかチャンスは訪れないということですね。

柏:そうですね、チャンスをつかむ確率の問題です。

倉重:確率は上がりますね。

ちなみに、「やりたいことが見つからない」と悩んでいる人はどうすれば良いですか。

柏:今見つからなくても、一生懸命考えたほうがいいと思います。

バーッときれいに晴れている真っすぐな道路を車で走るのと、霧の中を運転するのではスピードの出し方も変わってきます。

皆さんが早く成功したり、うまく成長したりすることを考えたら、目的地を最初に設定したほうが得ではないですか。

倉重:結果的に遠くにいけます。

柏:はい、私は損得でしか考えない、いきなり30億なもので。

モチベーションが上がるか上がらないかは、全部数字です。

倉重:一番説得力があって、分かりやすいです。続いて、Cさん。

C:先ほど、ストーリーテリングをテーマにした研修の話をされていました。

お話を聞くと、結構比喩を使われたりしています。

メタファーは有効だという話に、具体的なエピソードはありますか。

柏:ストーリーテリングとは、プレゼン等で自分の話を少し入れることによって、説得力が上がるという手法です。

メタファーはちょこちょこ入れていただきたいと思います。

タラバガニの話をするのも、「人生にはたくさん失敗や挫折があるけれども、ビジョンを持つのは得だ」と思っていただくための手法です。

ですから、プレゼンテーションや研修ではよくその話をします。

落語では、「ひょいとそこを見ると、まぁ大きな」というふうに、あたかもそこにあるような感じで話しますよね。これを仕方話というのですが、そうすると相手に伝わりやすいので、その手法をお伝えします。

C:大勢の方を共感させつつ引き込むということですね。

柏:そうです。

資料作りでも、いきなりパワーポイントを操作するより、絵コンテを描いて、順番を決めて作ったほうが、納得感が出ます。

ビジネスでは、結論を言うのが最も有効と言われますが、人の気持ちを動かすときには結論からでは駄目なのです。

投げかけから始めて、最後に未来を見せるというのが有効です。

私はジャパネットたかた方式と言っています。

「皆さん、梅雨時のお布団、じめじめして気持ち悪くないですか?」という問いかけから始めて「このお布団なら、ご家族の皆さんぐっすりお休みになれますよ」という未来を見せないといけません。

倉重:買いたくなってしまいます。

柏:ストーリーテリングという言葉は恰好いいですが、単純化すると

「ジャパネットたかた方式」なのです。

C:イメージしているストーリーテリングと一緒でした。

柏:そういうふうにシンプルに理解されていると、話の中でも使えますよね。

日常で使えるような単純化を目指しています。

A:先ほどの話で、「最後は自分だ」ということをおっしゃっていました。

個人にフォーカスされている割に、今されている仕事は会社の研修などB to Bです。

なぜB to Cをやらないのかと疑問に思いました。

柏:ワークはワーク、ライフはライフとドライに分けるのはもったいないと思っています。私は、組織の中でいろいろな経験をしたり、失敗をしたりしながら成長したので、組織の中でどのように生きるかをお伝えしたかったのです。

倉重:B to Bのほうが、結果的に大勢に響くのではないかと思います。

本当にミクロで見るかマクロで見るかだけの違いで、していることは同じです。

「最大公約数的な効果を出すにはどちらがいいか」という話です。

弁護士にも、労働者側と会社側の立場がいるので、私も「全然人権を守っていない」と言われるときがあります。

それは結局、多数の社員を守るのか、一人の解雇される人を守るかの違いであって、本質は同じなのです。

A:社長が変わると社員が変わるから、個人が一番変わるという理屈だったら分かるのだけれども、最初に個人が出てくるのは不思議だと思います。

柏:やはり最終的には個人のモチベーションだと思います。

手前みそですが、研修のアンケートでも、「始まって10分で柏さんが私たちの味方だと分かった」などと書いて頂けます。

そういうふうに思って頂くことが大事です。

A:柏さんとしては、ビジネスとして考えたときに、法人に入っていくのが得意で効率が良いからB to Bにしているだけで、伝えたいメッセージは一人一人同じだということですね。

柏:こちらのほうが、たくさんの人に早く浸透するだろうなと思っています。

講演ですと500とか、先日も800人に講演しましたけれど、多ければ多い程燃えますね

倉重:そのほうが、結果的には柏さんの思いが多くの人に伝わるのだろうと思いました。

私も同じなので分かります。

柏:多分倉重さんのほうが、年間の講演本数は多いと思います。

倉重:私は100回ちょっとです。

柏:私はコンサルとして相手企業の会議に入る事も多いので、研修や講演は50回ぐらいしかできません。

倉重:でも、コロナでだいぶ吹っ飛びました。

A:8割、9割減ですね。

倉重:皆さんもそうだと思います。

だからこそ、今できることをやろうという感じですね。

柏:はい。倉重さんが、本当にみなさんに必要な情報をタイムリーに出されていて感動しています。私も、出来ることを頑張ります。

倉重:今日は長時間ありがとうございました。ポストコロナ時代の営業手法について、改めて対談させてください。

(おわり)

【対談協力】

柏恵子(かしわ けいこ)

人材育成コンサルタント・研修講師

株式会社ピグマリオン代表取締役社長

明治大学専門職大学院 グローバルビジネス研究科 経営学修士(MBA)

経営理念の浸透に関する論文が、優秀論文に選出される

「経営理念の浸透レベルの違いが組織成員に与える影響について~「理念への共感」に着目した経営理念浸透~

2005~2016年 フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社 シニアコンサルタント

シニアコンサルタントとして2000人以上の経営層、人事責任者と人材育成の仕事に携わる。

1988年~2004年 株式会社ノースイ

三井物産系食品メーカーである同社の水産営業部門で、チームリーダー(課長職)として冷凍水産物の輸入・加工・販売に携わる。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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