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海自護衛艦が台湾海峡を初通過 遅きに失した感のある岸田首相の決断 #専門家のまとめ

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
海自艦艇として初めて台湾海峡を通航した護衛艦「さざなみ」(海上自衛隊)

1954年創設の海上自衛隊の艦艇が初めて台湾海峡を通過した。この前例なき動きはなぜ今起きたのか。中国が領空侵犯を含む日本周辺での軍事的強硬姿勢を強めていることに、岸田政権が自衛隊を活用してついに対抗せざるを得なくなったためだ。日本メディアは、岸田首相が中国に対し毅然とした態度を示すため、初の海自艦による台湾海峡通過を決断したと好意的に報じているが、その決断は遅すぎたのではないか。検証が必要だ。

ココがポイント

中国に対し毅然(きぜん)とした態度を示すため、岸田文雄首相は初の海自艦による台湾海峡通過を決断した。
出典:産経新聞 2024/9/26(木)

「航行の自由」を強調することで、日本周辺で軍事活動を活発化させている中国をけん制する狙いがあるとみられる。
出典:共同通信 2024/9/26(木)

ニュージーランドのコリンズ国防相は26日、同国とオーストラリアの海軍艦艇が25日に台湾海峡を通過したと発表した。
出典:ロイター通信 2024/9/26(木)

中国外務省は「越えてはならないレッドラインだ」と反発、日本側に抗議したことを明らかにしました。
出典:TBS NEWS DIG 2024/9/26(木)

エキスパートの補足・見解

国際海峡である台湾海峡の通過は本来は問題はない。これまでに米、英、仏、加、蘭、豪州、新、独といった国々の海軍が、国際法に基づく公海上の航行の自由をアピールするために台湾海峡を通航してきた。しかし、海自艦艇が通航したことはこれまで一度もなかった。日本政府が中国の反発を恐れてきたためだ。しかし、その一方で、岸田首相は、中国を念頭に国際法に違反して力で現状変更を試みるいかなる行為も決して容認しないと繰り返し述べてきた。

ならば、国際法の規範力を示すために、なぜもっと前から海自艦艇に台湾海峡を通過させなかったのか。言行不一致があった。航行の自由は本来、貿易立国の日本にとってシーレーン確保という大事な国家の基盤であるはずだ。

2022年4月の岸田首相の記者会見で、筆者は「今後を見据えて、台湾海峡を通過して、日本が政治的メッセージとして毅然と国際法を遵守する国家、そういう政治的シグナルを発するということは考えられないでしょうか」と問うた。首相は「御指摘のような具体的な行動については、現在、何も考えておりませんし、予定はしておりません」ときっぱりと答えた。なぜ今頃になって考え方を変えたのか。中国を牽制するのに遅きに失した感はないだろうか。

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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