「劇場版モノノ怪」は、日本のアニメの映画化の新しい可能性をひらくか
7月26日に公開された「劇場版モノノ怪」が、様々な形で話題になっています。
筆者も公開初日に鑑賞したのですが、まずビックリしたのがエンドロールに入る前に「二章・火鼠へつづく」という文字が表示されたこと。
映画公開後に実は全3章で構成され、第2章が3月14日に公開されることが発表されたのです。
さらに、その映像表現の高さなどが評価され、カナダで開催中の「第28回ファンタジア国際映画祭」で最優秀長編アニメーション賞を受賞したことも発表されています。
参考:「劇場版モノノ怪」は全3章、第2章「火鼠」3月14日公開 「唐傘」が今敏賞を受賞
今回の「劇場版モノノ怪」は日本のアニメの映画化において、新しいルートをひらく存在になる可能性がありますので、詳細をご紹介したいと思います。
深夜枠の人気アニメが17年たって映画化
「モノノ怪」は、もともとは2006年からフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放映された作品です。
2020年に行われたノイタミナ歴代70作品を対象とした投票企画「あなたが選ぶ想い出の3作品」(2005〜2009年度製作部門)にて1位を獲得するなど、テレビ放送終了から17年たった現在でも多くのファンがいる人気アニメです。
なにしろ、和紙の質感をテクスチャーと取り入れた、和風をベースにした独特な世界観は、一度みたら忘れないと思いますし、唯一無二の存在と言えます。
ただ、今回の映画化が、テレビ放送から17年かかっていることから分かるように、トントン拍子で映画化が実現したわけではありません。
通常はアニメ放送中やアニメ放送直後に映画化が実施される作品が多いことを考えると、これだけテレビ放送から間が空いて映画化が行われるのは珍しいと言うこともできるでしょう。
そんな「劇場版モノノ怪」のプロジェクトが発表されたのは2年前に開催されたモノノ怪十五周年記念祭でした。
この際に、「劇場版モノノ怪」の2023年公開と、クラウドファンディング、そして「モノノ怪」の舞台制作など、新しい取り組みが一挙に公開されたわけです。
ツインエンジン単独出資での挑戦
まずこのプロジェクトの興味深いのは、この「劇場版モノノ怪」がいわゆる製作委員会方式で複数の大手企業によって支えられている企画ではなく、ツインエンジン単独出資での企画になっている点です。
ツインエンジンは、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」の編集長を務めていた山本幸治さんが2014年に設立した会社で、「自ら創り、自ら届ける」というキャッチコピーを掲げているのが非常に象徴的な点であると言えます。
特に今回の「劇場版モノノ怪」は約90分の上映時間で、約2600カットと通常のアニメ映画の2倍のカット数での映像表現となっていますが、こうした手間のかかる挑戦ができているのが、1社企画ならではと言えるでしょう。
ファンを巻き込んだクラウドファンディング
さらに「劇場版モノノ怪」の興味深いのは映画の発表をしたタイミングでクラウドファンディングを実施し、予定金額の1000万円を大幅に上回り6000万円近い金額を集めてしまっている点でしょう。
本当に多くのファンが「モノノ怪」の映画を楽しみにしていたことが良く分かりますし、実際に「劇場版モノノ怪」をみるとクレジットにたくさんのクラウドファンディングの支援者の名前が表示されることに驚かれる方も少なくないと思います。
クラウドファンディングでの映画化というと、2016年に公開された「この世界の片隅に」が4000万円近くあつめた事例が有名ですが、「劇場版モノノ怪」はその1.5倍の金額を集めてしまったことになります。
こうしたファンの熱量が公開日にも明らかに出たことで「劇場版モノノ怪」は公開初日に関連キーワードがXのトレンドにもランク入りする結果になったようです。
製作委員会方式でできない映画化の成功例になるか
ツインエンジンの山本さんは、アニメ公開後に映画化の検討を何度もされてきたそうですが、映画業界の関係者から「ずっとモノノ怪は低い評価を受けていた」と、十五周年記念祭の時に吐露されていました。
現実問題として製作委員会方式で製作されるような映画のほとんどは、現在進行形で大勢のファンがマンガやアニメを楽しんでいる作品が中心です。
「モノノ怪」のようにコアファンはいても昔の作品は、なかなか映画化が難しいというのが現状のようです。
それが、「モノノ怪」十五周年企画のタイミングでツイッターアカウントを開設し、5日間で10万フォロワーが増えたり、2日間にわたってトレンド入りしたりした結果、業界関係者の目の色が変わるという体験をされたそうです。
そうした経験がクラウドファンディングにも活かされており、そうしたファンと一緒に映画を作ろうという姿勢がファンにも届いた結果、「劇場版モノノ怪」は様々なトラブルも乗り越え、公開当日にトレンド入りするなどの話題を巻き起こすことができていると言えるでしょう。
現在、日本の映画業界はコロナ禍の減少を乗り越えて再び活況を迎えていると言われていますが、一方で大ヒットするのは人気マンガのアニメ化作品が中心で、知名度が低い作品や、中堅企業の映画は上映館数の確保も難しいという現状があるように聞きます。
今回、ツインエンジンがクラウドファンディングを組み合わせて単独出資で製作した「劇場版モノノ怪」のアプローチは、これまでのそうした大作偏重の映画界の状況を突破する一つの選択肢になり得るかもしれません。
まずは「劇場版モノノ怪」のファンの熱量が、どこまで拡がりを見せるか、注目したいと思います。