【恵庭OL殺害事件】間接事実と「可能性」で再審認めず
再審の扉は、やはり固くて重かった。
札幌地裁(加藤学裁判長)は、恵庭OL殺害事件の再審請求を棄却した。
間接事実で高度な「推認」
弁護側は、炎の目撃者P子さんの事件直後の警察官調書から、いったん小さくなった炎が再び大きくなっているとして、犯人は遺体焼却の現場にとどまって燃料を補給したと主張。「完全なるアリバイが成立する」としてきたが、地裁決定は「(P子供述の)変遷している部分を組み合わせたに過ぎず、いったん小さくなった炎が(午後11時42分頃に)大きくなったとは認めることができない」とした。
そのうえで、アリバイの当否はいったんペンディングにして、確定判決が有罪の根拠にした間接事実9点を検討。うち3点は確定審の判断を否定したものの、1)携帯電波の電波を捕捉した基地局を見ていくと、犯人が持ち去ったと考えられる、殺害後の被害者の携帯電話の大まかな位置と請求人の動きが一致する、2)請求人が本件直前に購入した灯油が発見されておらず、それについての弁解が不自然、3)結婚を意識していた男性と交際するようになった被害者に悪感情ないし憎悪の気持ちを抱いており、無言電話をするなどもしていて、動機がある――などを挙げ、「これだけの間接事実が偶然に重なるとはとうてい考えがたい」「請求人が犯人であるとの推認の程度は高度なものがある」とした。
「可能性」「可能性」「可能性」…
その後に、再びアリバイを検討。P子さんが見た大きな炎は「炎上部の微粒子による光の反射を含めて炎と誤信した可能性もある」「目撃した炎はさほど大きなものではなく、燃料投下直後のものではない可能性も十分あり」「死体焼損現場からガソリンスタンドまでの所要時間についてももっと短い可能性もある」……など、いくつもの「可能性」を挙げて、アリバイを否定した。
請求人が犯人ではない「可能性」は?
原審でも、アリバイについてはギリギリ成立しない、というきわどい判断だった。そういう状況だからこそ、検察はガソリンスタンドの防犯カメラの映像を隠し、GS到着時刻を裁判所に誤解させるようなこともした。P子さんの初期供述も伏せた。このような経緯があって出てきた初期供述。着火後の炎の大きさの変化についての専門家の証言も含めると、それをこんなにあっさりと排斥していいのだろうか。決定では、検察の証拠隠しについては何も言及がない。しかも最後は、P子初期供述の意味を否定する方向での「可能性」をあれこれ持ち出して、アリバイを否定する。請求人に有利な「可能性」は考えず、不利な「可能性」ばかりを検察側主張などから拾い集めた印象だ。
決定では、P子さんが遅い段階で見た炎について、遺体の脂肪が燃焼したためという「可能性」も挙げている。ただ、遺体は頸部と陰部がとりわけひどく焼けて炭化していた、という。体の脂肪の燃焼ということで、その説明がつくのだろうか、という疑問も湧く。この点に関しては、遺体の足が開いた状態だったことも含めて、性犯罪の可能性がある、とする弁護人の指摘が、私は今でも気になっている。捜査機関や裁判所は、そのような、請求人が犯人ではない「可能性」については、果たしてどれほど考えたり調べたり検討したりしたのだろうか。
状況証拠をどう評価するか
しかも、状況証拠を集めて認定された有罪判決は、いくつかの状況証拠の証明力を減殺させても決定打にはならず、再審のハードルはとりわけ高いようだ。裁判官のマインドが「確定判決を守る」方向に向いている限り、真犯人が現れるなど、請求人が犯人である「可能性」が完全否定されなければ、残った状況証拠を評価し、請求人に不利な「可能性」を持ち出せば、再審の扉を閉ざしっぱなしにしておける。
2010年4月、最高裁は「情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要するものというべきである」と判示した。しかし、今回の札幌地裁決定には、これについての言及はない。再審請求には、状況証拠による事実認定に慎重な姿勢は無関係、ということなのだろうか。
主任弁護人の伊東秀子弁護士は、この決定を受けて「とうてい受け入れられない」と述べたという。弁護団としては即時抗告をするのだろう。今回の決定を読んで感じた違和感に、札幌高裁はどういう答えを出すのか、引き続き注目していきたい。