【フランクフルトモーターショー】メーカー展示に見るモータースポーツへの各社の姿勢。流れはEVに?
「ポルシェ」のWEC(世界耐久選手権)LMP1からの撤退。「メルセデス・ベンツ」のDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)からの撤退。両社のフォーミュラE参戦表明。2017年はモータースポーツ界の中心に居るドイツの自動車メーカーから衝撃的なニュースが相次いでいる。
ドイツのモータースポーツへのアプローチが明確に変わり始め、既存の自動車レースは今まさに「転換期」にある。そんな中で開催のドイツ・フランクフルトモーターショーに行ってきた。これからモータースポーツ、自動車レースはどこへ向かうのか?フランクフルトモーターショーをレポートする。
電気自動車、自動運転に舵を切るドイツメーカー
フランクフルトモーターショーは2年に1度開催される世界最大級の自動車ショー。「BMW」「メルセデス・ベンツ」「アウディ」「フォルクスワーゲン」などドイツメーカーのお膝元での開催とあって、各メーカーの力の入れようは東京モーターショーの比ではない。
2017年のフランクフルトモーターショーでは母国ドイツのメーカーが「電気自動車」「自動運転」といった自動車の未来形をユーザーに示す展示を競い合う。未来の新商品に対する関心はとても高く、モーターショーの花、コンセプトモデルの展示エリアには常に黒山の人だかりができていた。
2015年に「フォルクスワーゲン」によるディーゼルエンジンの不正が発覚。ヨーロッパは「電気自動車」の普及に向け一気に舵を切った。ドイツは2030年、フランスとイギリスは2040年までに内燃機関(エンジン)自動車の販売を禁止。このままの流れで行くと、禁止のリミットよりも早く「電気自動車」などゼロ・エミッション・ビークルによる社会が到来しそうだ。そして、モータースポーツでは「ポルシェ」「メルセデス・ベンツ」「BMW」が電気自動車レース「フォーミュラE」への参戦を表明したことはまさにこの流れの中にある。
モータースポーツへの関心はトーンダウン?
モーターショーでは元々モータースポーツ関連の展示がそれほど多いわけではないが、今回のフランクフルトショーではF1などのモータースポーツの花形と言えるマシンがかなり隅に追いやられているのが印象に残った。
F1を展示していたのは「メルセデス」「ルノー」「フェラーリ」。しかしながら、そのどれもが非常に見えにくい場所、目立たない場所に展示。ドイツとF1といえば、「メルセデス」が参戦し、ニコ・ロズベルグ、セバスチャン・ベッテルら近年のワールドチャンピオンを多数輩出している国だ。にも関わらず、「ドイツGP」は今季消滅。ドイツ国内でのトーンはかなり低い。
一方で、各メーカーが積極的に展示を行うのが電気自動車の「フォーミュラE」。既に参戦している「アウディ」「ルノー」そして「ジャガー」がマシンの展示を行い、中でも「アウディ」と「ジャガー」の展示はかなり印象に残るものだった。ハイスペック、最新技術の象徴であったF1マシンがかつて展示されていた目立つポジションに、今は「フォーミュラE」のマシンが鎮座する。近年、「フォーミュラE」には世界中のメーカーが参戦しているものの、既存のモータースポーツファンの関心という意味ではまだまだ盛り上がりに欠く。それでも、相次ぐドイツメーカーの参戦表明により、「フォーミュラE」の存在感はこれまで以上に成長。今後は「フォーミュラE」が時代の主流となっていくのだろうか?
ハイスペックブランドの展示も人気
電気自動車の展示に注目が集まる一方で、「ポルシェ」などハイスペック車を売りにするブランドのブースにも多くの人だかりができていた。今季をもってWEC(世界耐久選手権)のLMP1クラスから撤退する「ポルシェ」はLMP1カーの「ポルシェ919・ハイブリッド」を高所に展示し、モータースポーツと共にあるブランドであることをアピール。6月に発表された700馬力のハイスペックモデル「ポルシェ911 GT2 RS」のプロモーション映像にはティモ・ベルンハルドなどのポルシェワークスドライバーが出演するなど、ブランド戦略としてモータースポーツとの関わりはやはり外さないのが「ポルシェ」である。
「ポルシェ」は来季以降もLM-GTE クラスには「ポルシェ911 RSR」でのワークス参戦を継続。「フォーミュラE」には2019年から参戦するプランを示す一方で、昨今はF1参戦の噂も浮上。ドイツ・モータースポーツの代名詞的なブランドは今後どの方向を向いて進んでいくことになるのだろう。まだ方向性は定まっていない。
ポルシェと同じフォルクスワーゲン傘下にある「ブガッティ」のブースでは1500馬力の超ハイスペックマシン「ブガッティ・シロン」に人だかりが絶えなかった。元F1ドライバーでインディカードライバーのファン・パブロ・モントーヤが「ブガッティ・シロン」をドライブし、0-400m加速の世界記録42秒を達成。そのプロモーションビデオと3億円の超高級車を多くの人が見つめる。まだまだとんでもないハイスペック車への関心は無くならないようだ。
また、「BMW」は来季よりWECのLM-GTEクラスに参戦する「BMW M8 GTE」をフランクフルトモーターショーのプレスカンファレンスで発表(残念ながら発表のみでM8の展示は行われなかった)。「フェラーリ」「アストンマーチン」「ポルシェ」「フォード」のメーカー対決の舞台であるGTクラスは来年さらに面白くなりそうだ。米国メーカーもフランクフルトモーターショーの欠席が相次ぐ中、「フォード」は同クラスに参戦する「フォードGT」の展示で、モータースポーツへの積極的なアプローチをアピールしていた。
日本メーカーは独自路線。合わせるか、貫くか?
世界最大級のフランクフルトモーターショーには日本のメーカーも数多く出展する。しかしながら、今年は日産、三菱などがブース出展を見合わせた。日本車はヨーロッパのマーケットで苦戦している。欠席はヨーロッパよりも世界最大のマーケットである中国、アジアへの投資に注力したいということだろう。
先日、日本で「GR」ブランドを発表して話題を呼んだ「トヨタ」はブース内で「TOYOTA GAZOO Racing」として参戦するWRCの「ヤリス」、WECの「トヨタTS050」を展示してモータースポーツへの参戦をアピール。そして、「ホンダ」はFIA GT3規定レーシングカーの「ホンダNSX GT3」を展示。その横にはロードカーの新型「シビック」を展示し、モータースポーツと車作りをリンクさせたアピールをおこなっていた。電気自動車祭りのヨーロッパとは雰囲気が真逆だ。
モータースポーツを通じてヨーロッパでのブランド戦略を行う「トヨタ」と「ホンダ」だが、共に世界選手権レースでは岐路に立たされている。WECのLMP1クラスでは来季、ポルシェが撤退し、このままだとメーカー参戦は「トヨタ」の1社だけに=マニュファクチャラー(自動車メーカー)の選手権は成立しなくなる。ライバル不在で来季も継続して参戦か、撤退か、あるいはル・マンで勝つまで限定的にやり続けるか、トヨタの今後発表される選択肢に注目が集まる。
そして、「ホンダ」はマクラーレンとの離別が決定。来季はトロロッソと組んで戦うことになったが、まさに崖っぷちにある。F1としても「ホンダ」に撤退されるとさらなるメーカーの撤退を招きかねないマイナス要素になるため、撤退回避に向けあの手この手で取り組んだ。結局、「マクラーレン・ルノー」「トロロッソ・ホンダ」というパワーユニットトレードに落ち着き、ホンダは参戦継続。トロロッソとの提携の先にはトップチーム「レッドブル」への供給があると言われていたが、来季も「ルノー」のパワーユニットを使用する「レッドブル」は「アストンマーチン」がバッヂスポンサーとして就任することを発表。また流れが変わってしまった。
「電気自動車」の時代が足音を立てて到来するヨーロッパ。そして人が運転しない「自動運転」をも人々が受け入れようとしている今、日本のメーカーが先進技術よりもヨーロッパのメーカーと異なる視点で独自のアプローチを続けている。人が運転し、楽しさを感じられるクルマづくりだ。その部分やモータースポーツは企業活動のごく一部分ではあるとはいえ、フランクフルトモーターショーはまさに「水と油」のごとく海外メーカーとの視点の違いを感じることができた。今のところ、日本のメーカーの「フォーミュラE」への参戦プランは聞こえてこない。その潮流に乗る時は来るのだろうか。