少子化はもう止められない 「出生数90万人割れ」へ 少子化が加速する社会の課題とは
少子化が加速しています。
出生数90万人割れへ 19年、推計より2年早く(日本経済新聞社 2019年10月7日)
現在の少子化の進行ペースは、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」と比較すれば、高位推計・中位推計よりは早く、低位推計よりは少し遅いペースになっています(図1)。
そもそも、これまでのわが国の将来人口推計の歴史は、過大推計の連続でした。つまり、実際の人口が政府の将来予測を下回って少子化がどんどん進行していったのです。
それが、前々回と前回の将来人口推計に見られるように、団塊ジュニア世代の晩産化の影響で、一時的に出生率が改善したため、例外的に政府の予測と実際の人口の推移のずれが少なく見えたに過ぎなかったのです。
加えて、政府の将来推計は、年金の将来予測にも使われていますので、現実の少子化の推移よりも上振れしてきたというのもあります。なぜなら、少子化があまり進まない世界では高齢化も深刻化せず、したがって、明るい年金の未来を描けるからです。楽観的な見通しを示していれば、年金当局にっては、誰かに負担増を迫る面倒な政策を考えなくても済んだのです。
ですから、現実が政府の想定を上回るスピードで少子化が進むというのはよくあることとも言えます。
ただし、団塊ジュニア世代の出産期が終焉しつつあるこの時点での少子化の加速は、日本にとって非常に重要な意味を持つと考えられます。
これまで出生率がやや改善していたように見えたのは、下記の通り、団塊ジュニア世代の晩産化によるところが大きかったといえます。
少子化のトレンドを正確に把握するには、一人の女性が何歳で子供を産むかというタイミング(テンポ効果)と、一人の女性が生涯に何人の子供を産むかという出生力(カンタム効果)に分けて考える必要があります。
2006年から2015年に至るまでの少子化の反転(つまり出生率の上昇)は、雇用の不安定化や晩婚化で出産のタイミングを遅らせてきた団塊ジュニア世代にとって、子供を産むためにはもう後がない状態になったことで出産を始めたというテンポ効果によってもたらされたものでした。
これは、世代別(出生年別)の出生力(累積出生率)の推移を見れば明らかです(図2)。世代を経るごとに出生率は低下していますし、少子化対策が実行され始めて以降の世代の出生力にもほとんど変化がないからです。
しかし、持続的な出生数の増加(出生率の上昇)のためには、カンタム要因の向上こそが必要なのです。なぜなら、出産のタイミングがずれることで見せかけの出生数(率)が上がったとしても、出生力が不変であれば、結局生涯で持つ子供数には変化がなく、少子化に歯止めがかからないからです。
要するに、1990年の1.57ショックを受けて1994年に取りまとめられた「エンゼルプラン」を皮切りに、政府によって度重なる少子化対策が実施されてきましたが、ほとんど効果がなかったことになります。
それだけではなく、今後は団塊ジュニア世代に匹敵するボリューム(人口)を持った世代がいなくなるわけですから、カンタム効果を少なくとも世代人口の減少分以上発揮させなければ、少子化が進むことになってしまうのですが、先述の通り、政府の少子化対策は出生力の改善には無力でした。
つまり、現在の延長線上の少子化対策を繰り返すだけでは、少子化を食い止めるのはもはや不可能なのです。
そして、少子化を食い止めるのが不可能となりますと、これまで少子化対策を隠れ蓑にして、つまり、将来の人口増を夢想することで、抜本的な改革から逃げてきた年金をはじめとする社会保障制度改革や、日本経済・社会の構造改革に真正面から取り組む必要が出てきます。
当然、社会保険料の引き上げなどの負担増や、給付削減など政治的にも困難な改革が待ち受けています。社会保障改革、結局は世代間格差の解消にはセクシーな政策なんて存在しないからです。
したがって、政治家が、リーダーシップを発揮して、世代間の利害調整を図り、少子化や人口減少を前提とした縮みゆく日本にふさわしい社会保障制度を確立しなければならないのですが、本来はその前に、これからの日本をどうするかという大きなグランドデザインが必要だと思います。
そしてそれこそが、日本の政治家が一番苦手な点でして、昨今の与党野党問わず政治家の言動を見る限り、非常に悲観的にならざるを得ないというのが、わたし個人の偽らざる感想です・・・。
果たして、この危機的な状況下で、グランドデザインを描ける大局観と気骨のある政治家は登場するのでしょうか?
該当する有望な政治家がいらっしゃれば、自薦他薦問いませんので、ご教示いただければ幸いですm(__)m