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R9Xがガザの病院に撃ち込まれた根拠無し。現場で発見された兵器の残骸は155mm榴弾砲の照明弾の殻

JSF軍事/生き物ライター
SNS投稿写真よりガザのアル・シファ病院で発見された兵器の残骸

 11月10日、イスラエル軍の地上侵攻が続くガザのアル・シファ病院に「残虐なR9Xミサイルが使用された」「このミサイルはブレードを展開し人体を切り裂く」という報告が出回りました。

※R9X:AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルの炸薬を外して代わりに6枚のブレードを展開する体当り兵器。AGM-114R9X。周囲への付随被害を少なくして目標のみを殺害する要人暗殺用。無人攻撃機に搭載して主に目標の車両移動中を狙う。

 ところが現場から発見された証拠とされる兵器の残骸はR9Xではありませんでした。どう見ても155mm榴弾砲の照明弾の殻です。照明弾は空中で中身(パラシュート付きの発光体)を後部から放出しますが、外側の殻の部分もそのまま落ちて来ます。その照明弾の殻が転がっています。

ガザのアル・シファ病院で発見された兵器の残骸

発見された兵器の残骸(拡大)

上記SNS投稿写真から検証の為に拡大
上記SNS投稿写真から検証の為に拡大

155mm榴弾砲の照明弾の殻と推定

  • 先端は欠損、潰れている。
  • 左上が上部、右下が下部。
  • 下部の底は抜けて空洞化。
  • 弾帯(driving band)を確認。※砲身のライフリングに噛み合わせる部品。

動画Dan Cohen (@dancohen3000) ※重傷者の映像あり注意

  1. 動画41~42秒:照明弾の殻らしき塗装は黄色
  2. 動画42~46秒:照明弾の殻らしき塗装は剥げて地金剥き出し(1の裏返し
上記SNS投稿動画から検証の為にキャプチャ。1と2は同じ物で黄色い塗装は一部分のみ残存
上記SNS投稿動画から検証の為にキャプチャ。1と2は同じ物で黄色い塗装は一部分のみ残存

※空中で中身を後部から放出する砲弾にはクラスター弾、発煙弾、照明弾などがあるが、今回のガザ紛争でイスラエル軍はクラスター弾を使用しておらず、発煙弾と照明弾の使用は確認されている。また発煙弾は薄緑色の塗装をしており、照明弾の塗装は白色、黄色、オリーブ色など。このため照明弾の殻である可能性が高い。

※実際にイスラエル軍は黄色い塗装の照明弾を使用しており、イスラエル砲兵隊博物館では実物が展示されている。参考:155 mm artillery ammunition in Beyt ha-Totchan, Zichron Yaakov, Israel

※なお2009年のアムネスティ資料8ページ目にもイスラエル軍が使用した黄色く塗装されたM485A2照明弾の殻の残骸の写真が掲載されている。ただし、この資料の報告でアムネスティは照明弾を白リン弾と混同して間違えていることに注意。実際には照明弾の光源となる燃焼物の主成分はマグネシウム粉と硝酸ナトリウムであり、リン(燐)は使用されていない。

 大きさや形状、部品(弾帯)、塗装から155mm榴弾砲の照明弾の殻であることはほぼ間違いありません。これは重い鋼鉄製の殻ですから、高速で降って来たものが人体に当たれば手足が吹き飛ぶほどの衝撃になります。ガザの病院で起きた出来事はそういった話であり、事実をそのまま報告してイスラエル軍を非難すべきです。

 少なくともR9Xが使用された証拠が発見されない限り、「残虐なR9Xミサイルが使用された」などという根拠の無いストーリーを吹聴すべきではないでしょう。これまで現場からはR9Xの特徴的な6枚ブレードの痕跡も、原型のヘルファイア対戦車ミサイルの部品も、全く見つかっていません。

 そもそも炸薬が搭載されていないR9Xは殺傷力が比較的低い体当り兵器(あくまで炸薬搭載型ヘルファイアとの比較)なのに、なぜR9Xがことさらに残虐な兵器だと宣伝されているのか理解に苦しみます。炸薬を爆発させたほうが遥かに大勢を殺傷できます。また当然の話ですが、民間人を故意に狙って攻撃することは爆発しない体当り兵器であっても国際人道法違反です。

 戦場の現場で流言飛語が飛び交うことは常なので、市民の間で誤解が広まってしまうことは避けられないのかもしれません。しかし責任がある国会議員など政治家(米民主党のジャマール・ボウマン議員)や大手メディアの関係者(アルジャジーラのプレゼンター)が、SNSで「ガザでR9Xが使用された」と決め付ける投稿を行って後から削除する事態が既に起きています。

アルジャジーラ・ネットワークのプレゼンターのX投稿より(削除済み)
アルジャジーラ・ネットワークのプレゼンターのX投稿より(削除済み)

 既に説明した通り、この写真の右は155mm榴弾砲の照明弾の殻です。弾帯(driving band)を確認できます。R9X(ヘルファイア対戦車ミサイル対人用体当り型)ではありません。

 まずは戦場の流言飛語を疑ってかかることが重要ではないでしょうか。例えば現在ガザからは「白リン弾が使用された」という報告をよく目にしますが、よく見ると六塩化エタン発煙弾の映像だったり、何年も前の古い白リン弾の映像だったり、多くは間違った報告ばかりです。戦場の映像の報告は第一報で正しい説明がなされているとは限らないので、用心したほうがよいでしょう。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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