ロシア海軍揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」がウクライナ自爆水上ドローンの攻撃で撃沈
2024年2月14日、ウクライナ軍はクリミア半島南端アルプカの直ぐ沖合いで、ロシア海軍黒海艦隊775型(ロプーチャ級)大型揚陸艦の「ツェーザリ・クニコフ」を撃沈したと発表しました。攻撃には国防省情報総局(GUR)の特殊部隊「グループ13」の自爆水上ドローン「マグラV5」が複数隻使用されました。
Знищення ВДК «цезарь куніков»:ウクライナ国防省情報総局
※ВДК(BDK)はロシア語とウクライナ語で大型揚陸艦の略語。
※複数隻の自爆水上ドローンが突入。
※揚陸艦が浸水し左舷側に横転していく様子。この角度からは左側が艦首、右側が艦尾の方向。
攻撃には複数隻の自爆水上ドローン使用が公表され、5回爆発音が聞こえたという現地報道もあります(追記:ブダノフGUR局長も5艇を突入させ破壊したと説明)。ウクライナ側の公式発表では領海(12海里)内での攻撃とされており、映像からの推定では陸地から約3kmと近い位置で、揚陸艦は弾薬を輸送中だったという未確認情報もあります。
2月1日に報告されたタランタルⅢ型コルベット「イワノヴェツ」撃沈に続く自爆水上ドローンによる戦果で、満載排水量約500トンのコルベット「イワノヴェツ」に比べると、満載排水量約4000トンのロプーチャ級大型揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」はかなりの大物です。
2024年2月2日:ロシア海軍タランタルⅢ型コルベット「イワノヴェツ」撃沈、ウクライナ自爆水上ドローンによる戦果
揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」の名前はソ連海軍歩兵(海軍陸戦隊)のソ連邦英雄ツェーザリ・クニコフ少佐(1909年6月23日 - 1943年2月14日)から命名されており、揚陸艦が撃沈された2月14日は命名由来の故人の戦死した命日と重なるという象徴的なことになっています。
追記:ウクライナ国防省情報総局が無線傍受「油の痕跡を確認」
ウクライナ国防省情報総局が無線傍受の音声を公開、ロシア側の無線通信によると「油の痕跡」だけが確認され、揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」は沈んだと見られています。また以下の情報が新たに説明されています。
※сліпа:ウクライナ語のсліпа、сліп(スリパ、スリプ)は複数の意味があるが、ここでは英語のslipway(スリップウェイ)に相当する言葉で、岸壁のスロープ。海まで傾斜で繋がって船を地上と出し入れできる施設。
ウクライナ自爆水上ドローン部隊の戦果
- 2022年10月29日:掃海艇「イワン・ゴルベッツ」 ※中破
- 2023年07月17日:クリミア大橋 ※橋桁がずれる損傷
- 2023年08月04日:揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャク」 ※小破
- 2023年11月10日:小型揚陸艇「アクラ」型と「セルナ」型 ※撃沈
- 2024年02月01日:コルベット「イワノヴェツ」 ※撃沈
- 2024年02月14日:揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」 ※撃沈
※自爆水上ドローンによる攻撃はウクライナ保安庁(SBU)とウクライナ国防省情報総局(GUR)がそれぞれ別に主導した特殊作戦で、両方を海軍が支援している。クリミア大橋への攻撃とノヴォロシスク港の揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャク」への攻撃はSBU主導とウクライナ紙「ウクラインスカ・プラウダ」で報道されており(公式発表は無し)、他の最近の攻撃はGUR主導と公式発表されている。
ロシア海軍黒海艦隊の喪失艦9隻(コルベット以上の大きさの艦)
- 2022年03月24日:揚陸艦「サラトフ」 トーチカU弾道ミサイル ※ベルジャンシク停泊時
- 2022年04月13日:巡洋艦「モスクワ」 ネプチューン対艦ミサイル ※オデーサ沖の洋上
- 2022年06月17日:外洋曳船「ヴァシリー・べフ」 ハープーン対艦ミサイル ※ズミイヌイ島沖の洋上
- 2023年09月13日:揚陸艦「ミンスク」 ストームシャドウ巡航ミサイル ※セヴァストポリ入渠時
- 2023年09月13日:潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌ」 ストームシャドウ巡航ミサイル ※セヴァストポリ入渠時
- 2023年11月04日:コルベット「アスコリド」 SCALP-EG巡航ミサイル ※ケルチ停泊時
- 2023年12月26日:揚陸艦「ノヴォチェルカスク」 ストームシャドウ巡航ミサイル ※フェオドシヤ停泊時
- 2024年02月01日:コルベット「イワノヴェツ」 マグラV5自爆水上ドローン ※ドヌズラフ湖(ドヌズラフ湾)の沿岸
- 2024年02月14日:揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」 マグラV5自爆水上ドローン ※アルプカの沿岸
※撃沈撃破9隻中5隻は停泊ないし入渠中で動けない状態での対地ミサイルによる撃破で、行動中の4隻の撃沈は2隻が対艦ミサイル(沖合)、2隻が自爆水上ドローン(沿岸)によるもの。
ロシア海軍黒海艦隊の揚陸艦13隻:健在9隻、喪失4隻
【元からの所属7隻】:健在4隻、喪失3隻
1171型揚陸艦(タピール級)
- ニコライ・フィルチェンコフ
- オルスク
サラトフ×喪失
775型揚陸艦(ロプーチャ級)
- アゾフ
- ヤマル
ツェーザリ・クニコフ×喪失ノヴォチェルカスク×喪失
【開戦直前の増援6隻】:健在5隻、喪失1隻
775型揚陸艦(ロプーチャ級)
- オレネゴルスキー・ゴルニャク(北方艦隊)
- ゲオールギイ・ポベドノーセツ(北方艦隊)
- カリーニングラード(バルト海艦隊)
- コロリョフ(バルト海艦隊)
ミンスク(バルト海艦隊)×喪失
11711型揚陸艦(イワン・グレン級)
- ピョートル・モルグノフ(北方艦隊)
※新鋭の揚陸艦は2020年12月23日就役の「ピョートル・モルグノフ」のみで、他は冷戦時代に建造された古い揚陸艦。