金正恩の「模範的な子ども達」のどす黒い内幕
北朝鮮には朝鮮少年団という組織がある。旧ソ連のピオネールに相当する組織で、小学校2年生から初級中学校3年生までの児童・生徒が加入することになっている。15歳になれば社会主義愛国青年同盟(青年同盟)に加入し、その中の一部が成人後に朝鮮労働党に入党する。
首都・平壌では12月26日と27日の両日、朝鮮少年団第9回大会が開催された。金正恩総書記は、参加者に書簡「少年団の旗を高く掲げ、強国の未来を目指して進もう」を送った。以下、その一部を抜粋する。
わが国では全ての学生少年が少年団時代を経ていますが、数年ぶりに一回ずつ開かれる少年団員たちの大会合に参加することは、誰にでも容易に与えられない幸運であり、光栄です。
代表の皆さんは、その一人一人が学習と組織生活で秀でた模範を示し、級友たちの一致した賛成と少年団組織の積極的な推薦を受けています。
数百万少年団員の中で優れた模範少年団員に選ばれ、自分の組織の強化・発展のための重要な問題を自分の手で決定したことは、生涯を通じて追憶すべき誇らしいことです。
金正恩氏の言葉通り、本来は模範的な団員が推薦を受けて代表に選ばれることになっているが、実際の選抜過程は、童心を傷つけるような、カネにまみれたどす黒いものだった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、定州(チョンジュ)市内の小学校で今年10月、少年団大会に参加する代表の選抜が行われ、2人が選ばれたと伝えた。この2人、学校の「メスのウサギを供出せよ」という課題(ノルマ)に、なんと合わせて500匹以上も供出した。
北朝鮮の学校は、子どもをあたかも人質のようにして、親に様々な金品を供出させる。要求されたとおりにできなければ、子どもがひどい扱いを受けるかもしれないという強迫観念から、親たちはがんばって金品をかき集めて供出するのだ。
(参考記事:女子大生40人が犠牲…北朝鮮幹部「鬼畜行為」で見せしめ)
学校も、上部から課されたノルマを親に転嫁しているのだが、その数は1年で300匹から500匹。そのエサは、児童たちが課外活動の時間に山に登って取ってくる草や山菜だが、食糧難の中、一般庶民にとって山菜は重要な食べ物。エサを充分に確保できず、1人あたり2匹を供出するのが関の山だという。
トンジュ(金主、ニューリッチ)である2人の親は、市場で300匹以上のウサギを買って学校に供出し、その見返りとして、自分の子どもに金日成少年栄誉賞を与えることと、少年団大会の代表者に選ぶことを要求した。
かくして、勉強や生活態度で模範的な児童ではなく、カネにモノを言わせた親を持つ児童が選ばれた。参加者は、将来の大学入試や幹部選抜において有利になることから、親からすると、子どもの未来への投資だろう。
平安南道(ピョンアンナムド)の別の情報筋は、徳川(トクチョン)市内の小学校でも、少年団大会の代表者選抜が行われ、忠誠心の高い児童が選ばれたと伝えた。
しかし、いずれもトンジュを親に持つ子どもたちで、市内に造成された少年団の森に1000ドル(約13万4000円)の資金を供出したという。いくら成績が良くても、親が貧乏ならば、代表者に選ばれることはない。
一連の事情は子どもたちの知るところとなり、不満の声が上がっている。最高指導者や朝鮮労働党に忠誠を尽くす子どもを養成する意味で行う少年団大会が、子どもたちの心を傷つけ、体制に対する反感を抱かせる逆効果を生んでいるのだ。
「大人たちの汚い裏事情」は今に始まったことではない。2012年に行われた朝鮮少年団創立66周年行事でも、代表者の選抜過程でワイロが飛び交った。金正恩氏が参加する『1号行事」で不祥事が起きたことが問題視され、大々的な検閲(監査)が行われた。
また、幼稚園入園から大学卒業に至るまで、ありとあらゆる過程で、金品のやり取りが行われる。最高学府の金日成総合大学の試験問題まで、事前に流出し外貨で取引される始末。そんな教育現場の現実を見て、子どもたちは何を学び取るのだろうか。