東日本大震災と人権【連載1】「震災問題に関する国際人権セミナー」から考える
地震やハリケーン、津波が襲来したとしても、人権がなくなることはありません。災害に遭った人々は非常に弱い立場におかれるため、差別や虐待を防ぐことが極めて重要です。
ここでは、今から約3年前の2011年6月24日に国連人権高等弁務官事務所を招いて開催された「震災問題に関する国際人権セミナー」での報告をもとに、震災時における人権保障について考えてみたいと思います。
自然災害が人権に及ぼす影響とは
従来、自然災害に必要とされるのは人道的援助の提供であると考えられてきました。そのため、人権保護の必要性に注目が集まることはほとんどありませんでした。
しかし、2004年と2005年にアジアやアメリカの一部地域を襲った津波、ハリケーン、地震、そして2010年のハイチ地震は、自然災害の影響で被災者が様々な人権侵害に直面することがあるという事実を浮き彫りにしました。
たとえば、
・安全と安心の欠如(例:犯罪の増加、二次災害など)
・女性に対する暴力
・援助や生活必需品・サービスの提供の不平等、援助を提供する際の差別
・子どもへの虐待、育児放棄、搾取
・子ども、高齢者、障がい者など生存のために家族の支えを必要とする人の家族との離別
・住民票制度が不十分な場合の個人情報資料の紛失や破損、再取得の困難
・権利を実現する制度が不十分、公正で迅速な司法制度の制約
・有効な評価制度、苦情処理制度の欠如
・雇用や生計の手段を得る際の不平等
・強制的な移住
・災害によって退去した人々の、危険かつ望まない状態での帰宅または再定住
・土地の不返還、居住権の喪失
などが挙げられます。
差別や人権侵害は、災害の初期段階で発生します。そして災害の影響が長引くほど、人権侵害の発生する危険が高まります、また、差別行為は自然災害が起こった場合に悪化し、差別に対して弱い立場にある者はますます弱い立場に置かれるようになります。
特に、災害のために自宅や居住地から離れることを余儀なくされた被災者が危険にさらされます。これらの被災者は国内被災者となり「国内避難者に関する指針」(1998年に国連人権委員会に提出されたもの)に従った対応がなされます。
大抵の場合、自然災害後の人権への悪影響は、意図的な政策から生じるものではなく、不十分な計画、災害への備えの欠如、災害対策や施策の不十分さ、また単なる放置の結果として生じるものです。
予防、救援、復興という災害への対処の全ての段階において、国内外の関係者が、人権保護に配慮するようになれば、これらの難題を全て軽減し、避けることができるのです。
自然災害発生時に人権擁護活動が人々を守る
人道的援助活動は、援助プログラムを戦略的に行うためのものです。援助というものは、全員に平等に対応したり、積極的な態度で接したりするような、中立的な行為だとは捉えられていません。被災者の要望や人権が尊重されているかどうかは、援助の実行方法、利用方法、割当方法などの援助の態様に大きく左右されます。
人権擁護活動は、人道的援助活動に、必要な基準と指針を導入するものです。これにより、人間の尊厳や非差別、その他普遍的に受け入れられている一連の人権が、人道的援助活動の基盤となります。つまり、被災者は、単に受け身の立場で利益を得たりチャリティーを受けたりする者ではなく、特定の義務者に対して権利を主張できる権利保有者たる個人になるのです。
実際の活動を行う際の人権の枠組みは以下のようになります。
・被災者に必要なことや利益を特定する
・権利保持者と義務者を特定する
・人々が請求できることの範囲を策定する
・人道的活動が基本的人権に合致することを確保する
自然災害時に何を保護するべきか?
自然災害時には人命が危ぶまれる人々や負傷した人々を保護するというのは当然のことかもしれません。しかし、人権という観点から見ていくと、それだけでは足りません。
例えば、
・教育、投票、住居、労働に関する権利
・生存、安全保障、身体的完全性に関する権利
・市民的及び政治的権利/自由
・生活の基本的なニーズに関連した権利
・経済的、社会的及び文化的権利
などについて、被災者は災害時だけではなく復興時、防災対策時を通して自らの権利を保持しています。
また自然災害時には社会的弱者(女性、子ども、高齢者、障がい者、避難民、少数者など)への配慮も忘れてはなりません。
「震災問題に関する国際人権セミナー」
東日本大震災時における人権擁護活動については、「震災問題に関する国際人権セミナー」のときに国内NGOより報告がありました。
このセミナーにはマチルダ・ボグナー(Ms. Matilda Bogner)氏~OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)フィジー事務所代表、アジット・スンハイ(Ajith Sunghay)氏~OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)ジュネーブ・オフィス人権担当官、そして国内NGO関係者が約40 人ほど参加しました。
私は、東日本大震災子ども支援ネットワークのメンバーとして参加しました。東日本大震災子ども支援ネットワークからは他にも事務局長の森田明美さん、辻雄作さん(サバイバーズ・ジャスティス)、柳本佑加子さん(サバイバーズ・ジャスティス)、森田明彦さん(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)が参加をしています。
まず、国内NGOより
避難所生活全般
森川清氏(弁護士、東京災害支援ネット:TOSS-NET)
「東京都やいわき市等の避難所で、人権侵害にあたる対応がなされてきた例」
井上久氏(全労連)
「被災者の置かれている深刻な実態と改善の課題」
子どもの権利
森田明美氏(東日本大震災子ども支援ネットワーク)
「子ども被災者への支援にあたって必要とされる視点」
辻雄作氏、柳本佑加子氏(サバイバーズ・ジャスティス)
「東日本大震災の被災地におけるセクシュアル・マイノリティの子ども支援について」
森田明彦氏(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)
「東日本大地震の被災地における子ども支援について」
女性の権利
赤石千衣子氏(NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ)
「被災・震災で困っているシングルマザーと女性支援の状況からの要望」
正井礼子氏(東日本大震災支援全国ネットワーク、NPO法人女性と子ども支援センターウィメンズネット・こうべ)
「被災地における女性の人権について」
障がい者の権利
山本眞理氏(全国「精神病」者集団、世界精神医療ユーザーサバイバーネットワーク)
「震災と精神障害者」
今村登氏(DPI日本会議)
「避難所などでの障害がある人への基礎的な対応」
福島原発問題
菅波香織氏(弁護士、福島県弁護士会)
「福島の子どもたちのおかれている現状(放射能汚染)」
久保木亮介氏(弁護士、自由法曹団)
「福島県における原発事故被害について」
について報告がされました。
国内NGOからの具体的な報告内容については次回の記事でご紹介したいと思います。(つづく)
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参考文献
関係機関常任委員会「自然災害発生時の被災者保護に関する運用ガイドライン」
発行者:「国内避難に関するブルッキングス・ベルン・プロジェクト」2011年1月
仮訳 責任編集:特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ
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東日本大震災子ども支援ネットワーク
東日本大震災子ども支援ネットワークは、子どもとともに震災復興支援に取り組む、NPOとNGOのネットワークです。日本ユニセフ協会、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、チャイルドライン支援センター、子どもの権利条約研究所と、たくさんのアドバイザーや参加団体が力を合わせて活動しています。