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現代人は圧倒的に足りていない!「ソロ温泉」で得られる貴重な時間とは?

高橋一喜温泉ライター/編集者

現代社会に暮らす人にとって圧倒的に足りていないものがある。

ひとりになる時間である。

筆者の温泉旅の99%は、ひとりきりの「ぼっち旅」だ。これを「ソロ温泉」と名づけて、さまざまなものから解放されるひとりの時間を満喫している。

ひとりになるのは案外難しい

人はひとりきりでは生きられない。誰かとつながっていなければ、孤独を感じるだろう。しかし、現代社会のつながりは過剰な面がある。

会社に勤めていれば、毎日のように誰かと顔を合わせる。同じ部署で働く同僚は、一面ではチームの仲間であるが、一面ではしのぎを削るライバルでもある。馬の合わない上司、要求が多い取引先やお客との付き合いに心を消耗する。「職場の人や環境に恵まれている」という人でも、それなりに気疲れはするだろう。

家族といっしょに住んでいれば、いよいよひとりになる時間はかぎられる。かけがえのない大事な家族といえども、パートナーは血のつながらない他人であることに変わりはない。逆に血縁関係があるからこそ面倒なことも多い。

現実の世界にかぎらず、ネット上でもひとりになるのは難しい。SNSを利用していれば、何かを発信したくなるし、知り合いが何をしているか気になってしかたない。デジタルの世界でも、人はなかなかひとりになり切れない。

環境を変えないと「日常」から逃れられない

ひとり暮らしなら、空間的にひとりの時間をつくれる。だが、ひとりで部屋にこもっているからといって、「ひとりの時間が充実している」と言い切れるだろうか。

ひとり暮らしの部屋は、いわば日常である。日常の延長線上で生活しているだけで、仕事や人間関係と切り離されたわけではない。

だから、ひとり暮らしの部屋に帰ってきても、ひとりであることは特に意識しない。「やったぁ ひとりの時間だ!」といちいち感慨にひたるだろうか。そんなことはいちいち考えないだろう。

部屋でひとりの時間を確保しても、スマホをいじってSNSを見ていれば、日常の人間関係とつながりをもつことになる。自室でひとり時間を過ごしたからといって、本当の意味でひとりになったとは言い難い。

さらに、都会の街中でひとりになるのは至難の業である。駅や電車は混雑し、繁華街では人をよけながら歩くことになる。公園に行っても、まわりに誰もいない状態になるケースはレアである。

特に都市で生活しているかぎり、ひとりになれる時間はとても少ない。環境を変えない限り、日常からは逃れられないのである。

ソロ温泉で得られる「空白の時間」

「ひとりの時間」は、非日常の世界に身を置くことで実感できるものではないか。日常を離れて、見知らぬ街を歩く、誰もいない静かな環境にあえて行く。そういうシチュエーションに身を投じることで初めて、ひとりであることを噛みしめることができる。

その点、ソロ温泉はひとりを実感できる。都会に比べれば、自然の中に溶け込むようにある温泉街には人は少ない。小さな宿に泊まれば、他のお客と顔を合わせることも少ない。時間や場所を選べば湯船を独占することもむずかしくない。

温泉地に行けば、このように物理的・空間的にひとりになれる時間は多いが、それよりも重要なのは「心理的にひとりになれるか」である。

筆者の場合、温泉地へ向かう電車や車などで移動しているときから、ひとりを実感する。もっといえば、ソロ温泉をしようと決めて、行き先や宿泊する旅館を探している時点で、すでにひとりの時間が始まっている。

そして知らない土地に来れば、まわりにいくらか人がいても、ひとりを実感できる。非日常に身を置くことで、より強くひとりの時間を意識できるのである。日常生活ではなかなか味わえない「ひとりの時間」。ソロ温泉で得られるひとりの時間を、筆者は「空白の時間」と呼んでいる。

「時間をお金で買う」という考え方もある。忙しい現代人には有効な考え方だと思う。だが、同じくらい「ひとりの時間=空白の時間を確保する」ことも大切なことではないだろうか。

ぜひソロ温泉に出かけて、「空白の時間」をしてみてほしい。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3900超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『スーパーJチャンネル』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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