選手任せのサッカーが迎えた必然の結末。糾弾すべき問題点は何か?【カタール戦出場選手採点&寸評】
カタールに完敗を喫した最大の敗因
日本が森保ジャパンとして初めて臨んだ国際大会「アジアカップ2019」は、準優勝で幕を閉じた。ベスト4以上が日本のノルマとすれば、ひとまず準優勝は合格点。一発勝負の決勝トーナメントでは予期せぬことが勝敗を分けることもあるので、優勝できなかったという事実だけをフォーカスして、ことさら騒ぎ立てる必要はないだろう。
しかしながら、負けた相手と負け方が大問題だった。準優勝という大会の最終成績とは別に、そこはうやむやなかたちで見過ごしては絶対にいけないポイントだ。
まず、決勝戦の相手がカタールだったこと。準決勝で今大会ナンバーワンの実力者と目されていたイランに3-0で勝利していた日本としては、アジアの新興国を相手に1-3で敗れたことは不覚と言っても過言ではないはず。本来なら、大失態として糾弾されるべき敗戦だ。
確かに近年のカタールは目を見張る急成長を遂げているのも事実。実際、スペイン人フェリックス・サンチェス監督が長く指導するチームには、強くなるためのしっかりとしたバックグラウンドもある。今大会でも、観る者を驚かせるだけの良いサッカーを見せていたし、大会屈指の好チームでもあった。
とはいえ、である。
サッカーのプロ化から25年がすでに経過し、その間、W杯に6大会連続で出場し、この試合のスタメンのうち9人が日常的にヨーロッパでもまれている日本にとって、全員が自国でプレーするカタールは、どう転んでも勝たなければいけない相手だったはずだ。
チームとしても選手個人としても、そしてサッカー界全体としても、そう捉えなければすべてが終わる。これまで積み上げてきたものやこれから目指すものも、途端にぼやけてしまうことになる。
いくら強くなっているとはいえ、カタールは明らかにまだW杯本大会でポッド3以上のレベルにはない。ロシアW杯のグループHで例えれば、ポット3のセネガルでもポット2のコロンビアでも、もちろんポッド1のポーランドでもない。
一度目線を下げてしまえば、成長どころか後退が始まってしまう。嘘でもW杯ベスト8を本気で目指すと言って船出したチームなら、「日本よりカタールの方が強かった」というひと言で敗戦を片付けてはいけないはず。手に持つものさしを、都合よくW杯ベスト8からアジアカップにすり替えてしまっては、評価基準も曖昧になってしまう。
騒ぎ立てるべきもうひとつのポイントは、その負け方だ。日本の敗因はどこにあったのか? いろいろな要素があった中、やはり最も大きかったのは両チームの監督の差だったと見るのが妥当だ。相手チームの分析、対策を含めた勝つためのゲームプラン、試合中のベンチワーク。残念ながら、この試合ではすべてにおいて森保監督よりもフェリックス・サンチェス監督が上回っていた。
試合後の会見で、森保監督は「試合が始まってから(システムの)ミスマッチが起こる中、噛み合わせがうまくいかなかった序盤の時間帯で2失点してしまい、難しいゲームになった」と振り返ったが、それはミスマッチが起こった時の準備がなされてなかったことを自ら告白したことを意味する。
事実、「5バックというか3バックでやってくる相手であることを想定の中に入れながら準備をした」(森保監督)としながらも、実際のピッチ上では混乱状態が続いていた。イラン戦のように前からのプレスがハマらず、次第に主導権を相手に渡し、その状況は2失点を喫した後もしばらく変わることはなかった。
確かに前半の終盤で多少の修正はなされたものの、それはベンチからの指示だったのか。記者席から観察した限りでは、大迫からの相談を森保監督が聞き入れたように見えた。そうだとしたら、選手主導のサッカーで今大会を戦ってきた森保ジャパンを象徴するシーンだと言える。
しかしそれ以上に敗戦に直結したポイントは、序盤から相手の11番を誰もつかまえていなかったことだった。11番は大会得点王とMVPに輝いた19番の相棒役だ。準決勝までに8アシストを記録するなど、この2人のホットラインを分断することこそ、この試合に臨む日本のディフェンスにおける最大のカギだったはず。
ところが、5-3-1-1的な立ち位置にして、最終ラインとボランチの間を上下左右自由に浮遊する11番を、日本は放置したままだった。そんな曖昧な日本の守備をあざ笑うかのように、カタールは11番経由で何度もチャンスを作り、そして2ゴールを決めた。
しかし森保監督は一向に動かず、あくまでも選手の自主性を重んじることを貫いた。そう言えば聞こえはいいが、選手に丸投げしたと言われても反論できないレベルの放置ぶりだったと言わざるを得ない。
失点前の時間帯からはっきり見えていたその現象に対し、少なくとも、たとえば1失点後にボランチの塩谷をマンマーク気味にして潰しておくという応急措置を施す策は打って然るべきだった。
選手交代を含めた試合中のベンチワークも、戦術バリエーションの少なさも、選手の組み合わせの少なさも、このカタール戦で突然湧いた問題ではない。すべては初戦から続いていた問題点で、それを修正しないまま同じ過ちを繰り返していたことが大失態を招いたにすぎない。
臨機応変、柔軟性、対応力。すべてのワードが、今は空しく聞こえる。
そういう意味で、カタール戦の敗戦は、それまでの6試合の積み重ねと継続性によって必然的に生まれた結果だった。起こるべくして起こった敗戦だ。カタールが強かったからでも、日本が弱かったからでも、運がなかったからでもない。
選手任せのサッカーが、まさに落とし穴にはまってしまったという敗戦だった。
今回のアジアカップは森保監督の最初の査定機会でもある。果たして、技術委員会と代表監督人事が専権事項のJFA会長は、今大会の森保監督に対してどのような評価を下すのか。これだけの材料が揃っていれば、結論を先送りする必要はないだろう。
それとも、オールジャパンの名のもと、仲間内で“なあなあ”の関係を作って問題をうやむやにしてしまうのか。日本サッカー協会が、本気でW杯ベスト8を目指しているのか、口先だけなのか。その目標達成も、選手に丸投げしてしまうのか。
アジアカップを終えた今、焦点はそこに移っている。
※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)
【GK】権田修一(GK)=5.5点
相手に許した3ゴールはいずれもノーチャンス。ただ、シュートまでの過程において、最後尾からのコーチングで味方の守備陣を動かす必要はあった。今大会を通しての課題。
【右SB】酒井宏樹=5.0点
幾度となく見られたイージーミスは、負傷の影響というよりも、今大会を通しての傾向。得意の攻撃面においても効果的なプレーが少なく、期待通りのプレーができなかった。
【右CB】冨安健洋=5.5点
吉田との受け渡しによって相手の2トップを封じることができなかった。終盤はリスクをかけて攻撃面で貢献をしようとチャレンジしたが、肝心の守備面では安定感を欠いた。
【左CB】吉田麻也=5.0点
3失点に絡んだために印象は悪いが、1人で責任を負うようなミスとも言えなかった。むしろ経験が豊富な中でチームに落ち着きを与えられず、自らチームを動揺させたことが問題。
【左SB】長友佑都=5.5点
この試合でもあまり効果的な攻撃参加ができずに終わった。かといって、守備面において存在感を示すこともなかった。その存在を脅かす左SBのニューカマーの台頭も必要か。
【右ボランチ】塩谷司(84分途中交代)=5.0点
負傷した遠藤の代役としてスタメン出場。慣れないポジションゆえ、スタートからのプレーだと粗が目立ってしまう。その役割からすれば、11番を自由にさせ続けた点は痛恨。
【左ボランチ】柴崎岳=5.0点
塩谷との連携が希薄で、守備面ではそこを相手に突かれてしまった。ボールロストやミスパスからピンチを招くシーンもあり、攻撃面では効果的なパス供給もできなかった。
【右ウイング】堂安律=5.0点
周囲との連携も含め、相手がスペースを消した状態におけるプレー選択の幅が狭かった。試合を重ねるごとにトーンダウンし、決勝戦ではほとんど何もできずに終わってしまった。
【トップ下】南野拓実(89分途中交代)=6.0点
大会当初と比べて少しずつ元気を取り戻したことは間違いないが、ボールロストが多く、まだまだ課題は多い。テクニカルなシュートで唯一のゴールを決めたことが0.5点分。
【左ウイング】原口元気(62分途中交代)=5.5点
この試合では攻撃面でほとんど効果的なプレーをできず。よく走って守備面では貢献できていたが、物足りないパフォーマンスに終わった。後半途中で武藤に代わって退いた。
【CF】大迫 勇也=5.5点
相手の厳しいマークによってイラン戦のような存在感が影を潜めてしまった。枠外シュート1本のみに終わったことは、1トップとしては屈辱。試合後は悔しさを爆発させた。
【FW】武藤嘉紀(62分途中出場)=5.5点
後半途中から2トップの一角に入り、南野が左に移動。戦術変更に対応しながら短い時間でシュート3本を記録。そのうち1本は枠に飛ばしたかったが、効果的なプレーは見せた。
【MF】伊東純也(84分途中出場)=採点なし
プレー時間が短く採点不能。塩谷に代わって途中出場。右ウイングでプレーするも、相手が守備重視で構え、スペースがない中では特長を出せず。指揮官の交代策のミスと言える。
【MF】乾貴士(89分途中出場)=採点なし
プレー時間が短く採点不能。試合終了間際に南野に代わって途中出場したが、いかんせんプレー時間が短すぎた。