今年のサンマの来遊量は昨年の半分との見通し 理由は外国の乱獲ではない
今年もサンマの水揚げ始まりました。「今までに無い不漁」という声が現場からは、上がっているようです。今年のサンマはどうなのか、心配な方も多いのではないでしょうか。
今年のサンマ漁は、不漁の前年を下回り、低調に推移すると予測されています。国立研究開発法人 水産研究・教育機構が、漁期前調査の結果をまとめたレポートをもとに、その理由について解説します。
サンマは、夏から秋にかけて、太平洋の真ん中から、日本に向かって泳いで回遊します。そして、三陸沖で進路を南に変えて、産卵に向かいます。産卵場に向かう途中で日本付近を通りかかったサンマが日本漁船の漁獲対象になります。
サンマの漁獲量に影響を与える要因として、以下の3点を整理して見ましょう。
1)どのぐらい量のサンマが日本方面に産卵回遊をするか
2)どのくらいの割合のサンマが、日本の漁場(日本のEEZ内)に入ってくるか
3)外国船の漁獲
1)どれくらいの量のサンマが日本方面に回遊するか
水産研究・教育機構が 、毎年、船を出して、6 月~7 月に日本に来遊してくるサンマの資源量の調査をしています。サンマの漁業が始まる前に、資源量が把握できるのです。それをまとめたのがこちらの図です。
日本に近い方から、1区、2区、3区となっていて、日本の漁獲対象は1区と2区と考えられています。今年の1区と2区の分布量は59.5万トンで、前年の121.9万トンに比べて半減です。不漁だった去年から、更に半分ですから、近年ない低水準といえそうです。
実際の調査データはこんな感じです。丸の大きさがサンマの密度。赤が大型の1歳魚、青が小型の0歳魚です。
資源が豊富だった2003年や2004年と比べると、2016年は密度が低くなっていますが、2017年はさらに空白が増えています。
昨年と比べてみると1区の1歳魚は今年の方が多いです。そして、2区の西に0歳魚の塊があり、そのあとが続きません。ということで、10月上旬までは大型個体が去年よりも若干多く獲れますが、その後、小型魚がまとまって獲れて、それで終わりになりそうです。
2)どのくらいの割合のサンマが、日本の漁場(日本のEEZ内)に入ってくるか
日本のサンマ漁船は小型で、遠出ができません。なので、日本の沿岸近くまでサンマが寄ってきてくれるかどうかが、漁獲量に直結します。サンマは高い水温が苦手なのですが、最近は、釧路沖に温かい水の塊が張り出していて、サンマが日本近海に近づきづらい状況が続いていました。サンマの来遊量の減少以上に日本の漁獲量が減少していたのです。
今年の9月中旬の三陸沖の海洋環境の予測は下の図のようになります。幸いなことに、今年は道東に暖水塊が存在せず、冷たい親潮が日本近海を通過します(図中のO1)。この冷たい海流をサンマが通過すると、道東、三陸沖に好漁場が形成されて、水揚げが期待できます。
3)外国船の漁獲
近年、マスメディアは「中国台湾船の乱獲でサンマが減少している」という論調で報道をしてきました。しかし、研究者の多くは、外国船の影響は限定的であると考えています。下の図は2016年の来遊量と国別の漁獲量の関係です。日本以外の国の漁獲率は20%に満たない水準ですから、外国船の漁獲で日本の獲り分が無くなることにはなりません。
日本も含めた、サンマ全体の漁獲率は30%程度です。他のルートを通って産卵に向かうサンマ資源も存在するので、資源全体への影響はさらに低くなります。サンマ資源の利用を議論する国際機関NPFCの科学委員会は、現在のサンマの資源状態は最大持続生産量(MSY)の水準を下回っていないとの結果を提出しています。つまり、持続的有効利用の観点から、まだ漁獲を増やす余地があるということです。
もちろん、外国船の漁獲の影響は無いとは言えませんが、近年の日本のサンマ不漁の主要因ではありません。「去年、サンマ資源の一部を30%漁獲したら、今年の来遊量が半分に減った」というのはつじつまが合わないからです。
現在のサンマ漁業は、持続性の観点から問題がないレベルと考えられているので、中国や台湾の漁獲は『乱獲』ではありません。にもかかわらず、「中国・台湾のサンマの乱獲」を非難する報道があふれかえっています。何を根拠に『乱獲』と報じているのでしょうか。また、サンマが乱獲されているなら、日本も乱獲に加担していることになるのですが、なぜか日本は被害者扱いです。
首をかしげたくなるような報道が多い中で、水産研究・教育機構の巣山研究員のこちらの記事は、外国船も含めたサンマ漁業の実態について詳しくかかれていて参考になります。
サンマ漁業の今後
これまでは漁獲の影響は限定的であると考えられていたのですが、来遊量が減少したために、今後の影響は無視できません。今年のサンマ来遊量が半減したので、各国が去年と同じ量のサンマを漁獲すると、漁獲率は60%に跳ね上がってしまいます。近年、サンマ資源の生産力が落ちているのは確実なので、更なる減少を食い止めるためにも、国際的な枠組みで漁獲を規制するのが急務です。ただ、そのためのイニシアチブを日本がとれるかというと疑問です。
日本の漁獲規制
日本は1997年から、自主的に自国のサンマ漁業に漁獲枠を設定しています。残念ながら、単に漁獲枠を設定しているだけで、資源管理とはほど遠い状態です。下の図は、日本が設定しているサンマの漁獲枠(TAC)と実際の漁獲量をしめしたものです。これまで、ただの一度も漁獲枠に達したことがありません。頑張っても獲り切れないような漁獲枠が慢性的に設定されているからです。2011年以降は漁獲量の倍の漁獲枠が設定されているので、実質獲り放題です。他国の乱獲を非難しながら、自国の漁獲は実質的に無規制状態なのです。
日本が自国に設定した今年のサンマの漁獲枠は去年と同じ26.8万トンです。去年は26.8万トンの漁獲枠に対して、頑張っても11万トンしか獲れませんでした。今年のサンマの来遊量は更に半減しているにも関わらず、過剰な漁獲枠が据え置きですから、サンマ資源を守るために漁獲にブレーキをかけるつもりが無いことは自明です。26.8万トンという漁獲枠を埋めるには、来遊したサンマの半分近くを日本が単独で獲ることになります。サンマの資源状態や日本の漁獲能力を無視した非現実的な漁獲枠といえます。
このような「資源管理ごっこ」は、サンマ資源の持続性に寄与しないばかりか、国際交渉で足を引っ張ります。日本が過剰な漁獲枠を設定していることを他国は知っているので、「日本は過剰な漁獲枠を設定しているくせに、なぜ他国には漁獲量削減を要求するのか」と他国から反論されています。
昨年、日本は56万トンの国際的な漁獲枠を提案しました。2015年と2016年の漁獲実績が35万トンでなので、今の1.5倍に漁獲を増やそうという提案です。これでは規制と呼べません。今年の来遊量は59.5万トンですから、漁獲率94%というべらぼうな漁獲枠になります。日本は、サンマを根絶させたいのでしょうか。
また、国別の配分にも問題があります。日本提案では、日本24万トン、台湾19万トン、中国5万トン、韓国2万トン、ロシア6万トンという内訳でした。「日本はこれからもサンマを沢山獲るので、他の国は漁獲を増やさないでくださいね」という身勝手な提案です。他国にしてみれば、日本提案に合意するメリットがありませんから、国際的な合意が得られるわけがありません。
サンマ資源の行く末を考える
獲れもしない過剰な漁獲枠を設定して、既得権を主張する日本のことを、他国は冷ややかに見ています。このまま無規制状態が続いた場合には、人件費が安く、公海で先獲りができる、台湾と中国が漁獲を伸ばす一方で、日本のサンマ漁獲量が衰退して行くことになりそうです。