凱旋門賞、バーイード回避でもまだまだ層の厚い欧州勢を分析する
バーイード回避でも層の厚い欧州勢
バーイードが凱旋門賞(G I)を回避。このニュースをもって「俄然、日本馬がチャンスになった!」という報道をよく目にした。
しかし、凱旋門賞は1頭辞めただけで一気に戴冠出来るほど簡単なレースではない。バーイードがいなくても、ヨーロッパの2400メートル路線の層は厚く、次から次へと名乗りをあげる馬が出てくる。今回はそんな中から有力と思える数頭を紹介していこう。
愛チャンピオン組は有力
まずは1番人気の予想されるルクセンブルク(牡3歳、A・オブライエン厩舎)。G I勝ちを含む2歳時はそれほど強い相手と戦っておらず、3歳のクラシック戦線でのレースぶりに注目したが、英2000ギニー(G I)は躓く不利で3着。改めて注目したダービーは直前に筋肉を痛め回避。
しかしこの秋、戦列復帰を果たすと好メンバーの揃った愛チャンピオンS(G I)を優勝。やはり実力があったところを示して凱旋門賞に駒を進めて来た。人気になるので馬券的な妙味があるかは?だが、軽視出来ない存在なのは間違いない。
ルクセンブルクが軽視出来ないとなると、その愛チャンピオンSで大きく離されなかった2、3着のオネスト(牡3歳、仏・シャペ厩舎)、ヴァデニ(牡3歳、仏・ルジェ厩舎)も当然有力だ。
オネストは凱旋門賞と同じ舞台のパリ大賞(G I)の勝ち馬。当時負かした相手が後に続々重賞を勝っており、対ルクセンブルクという意味でもホームとアウェイの入れ替わる今回、逆転があっておかしくない。
問題は追い込みという脚質。前走こそ意外と前で競馬をしたものの本来、後方から差して良いタイプ。多頭数の予想される今年の凱旋門賞で、馬群をどう捌くかはカギになりそうだ。
ヴァデニはフランスのダービーにあたるジョケクラブ賞(G I)の覇者。それも2着に5馬身差をつける圧勝。そのレースでは先述のオネストの他、モダンゲームズやアルハキームらも破っていた。2400メートルは初めてになるが、2100メートルでそれだけの競馬が出来ればこなしておかしくない。最有力の1頭ではないだろうか。
前哨戦組は……
本番まで中2週となる9月11日に、同じパリロンシャン競馬場の2400メートルで行われた3つのプレップレース。そのうちの1つであるニエル賞(GII)にドウデュース(牡3歳、栗東・友道康夫厩舎)が出走した事でも注目を集めたが、その路線からもピックアップ出来る馬がいる。
ニエル賞を勝ったシムカミルは凱旋門賞に登録がない。完全に叩き台として使われて4着だったドウデュースがどこまで巻き返してくるか?だろう。
ちなみに近年はニエル賞組から本番でも好走した例がほとんどない。一昨年のパリ大賞(G I)は日程、条件共にニエル賞と同等に施行されており、当時の2着馬インスウープが本番でも2着に好走した。しかし、このインスウープとて例年通りG IIの賞金だったら他路線を選んでいた可能性もあるので微妙なところだ。
古馬のフォワ賞(G II)は勝ったイレジーンの強さばかりが光った。同馬は騸馬のため凱旋門賞には出られない。2着以下の馬が、相手関係のもっと強化される世界最高峰の1番で巻き返すのは難しく感じる。
牝馬のヴェルメイユ賞(G I)を逃げ切ったスウィートレイディは出走しない見込み。
逃げ切りで決着したくらいだからスローペースで時計も平凡のため、評価し辛いレースになったが、そんな中、注目したいのが3着のラパリジェンヌ(牝3歳、仏・レルネール厩舎)。鋭い差し脚を披露するも完全に脚を余したレースぶり。フランス版オークスにあたるディアヌ賞(G I)は差のない2着で、当時の勝ち馬ナシュワは続くナッソーS(G I)を完勝。3歳という事で斤量は前走の55.5キロから更に減って55キロになるのも好材料。コンビを組んで来たG・モッセがパブルギフト(フォワ賞で1番人気2着)を蹴ってこちらを選択したのも好感が持てる。単勝圏内まであっておかしくないのではないだろうか。
その他の路線では
他の路線でまず取り上げたいのはアルピニスタ(牝5歳、英・プレスコット厩舎)。現在破竹のGⅠ・5連勝中。もっとも最初の3連勝はいずれもドイツでの競馬で、強力な相手としてはトルカータータッソ(牡5歳、独・ヴァイス厩舎)、メンドシーノ(牡4歳、独・シュタインベルク厩舎)あたりしかいなかった。ヨークシャーオークス(G I)を勝ってここ、という臨戦過程は、近年では17、19年に1、2着だったエネイブル、18年2着のシーオブクラスらがいる。相手は一気に強化される感があるものの、怖い存在だ。
ちなみに同馬を管理するサー・M・プラスコット調教師は三浦皇成騎手が09、10年に英国修業した際に面倒を見てくれた伯楽。年齢的にも凱旋門賞へ向けて残されたチャンスはそう多くはないと思えるだけに、応援したいところではある。
愛ダービー(G I)を7馬身差で圧勝したウエストオーバー(牡3歳、英・ベケット厩舎)や、弱メン相手といえ本番前に復活の狼煙をあげたアダイヤー(牡4歳、英・C・アップルビー厩舎)等、他にも侮れないメンバーは控えているが、昨年の覇者トルカータータッソもやはり軽視は禁物。そのトルカータータッソを前走のバーデン大賞(G I)で破ったメンドシーノ共々、特に時計を要する馬場になれば一発がありそうだ。メンドシーノが勝てば騎乗予定のR・ピーヒュレクは異なる馬での凱旋門賞連覇となるが、果たしてそんな快挙がないとも言えない。
さて、今年はフルゲートを超える頭数の登録があり、主催者であるフランスギャロもフルゲート以上の出走馬を認める方向だという。こうなると当然、枠順による有利不利も例年以上に出て来るだろう。最後はもしかしたら枠順の差が勝ち負けを左右するかもしれないが、いずれにしろ日本勢にとってはバーイードが抜けたところで、決して楽観視は出来ない。それが、世界最高峰のレース・凱旋門賞なのである。日本馬にとっては今年も厳しい戦いとなりそうだが、それだけに制した際の価値は高い。好勝負を期待しよう。
ちなみに明日の当コラムでは私情抜きで日本馬4頭の可能性について探ってみたい。こうご期待を。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)