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アマゾンはいかにして労組結成を阻止したのか?

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米アマゾン・ドット・コムが米南部アラバマ州の物流施設での労働組合結成を阻止できた理由は、賃金や福利厚生など待遇面の良さと、同社による大々的な反対キャンペーンがあったためだと、米ニューヨーク・タイムズ米CNBCが報じた。

多くが前職よりも高賃金

6年間、地元紙の記者だったグラハム・ブルックさん(29歳)はアマゾンに転職した。アマゾンでの報酬はそれまでよりも1時間当たり1.55ドル(約170円)多いことに満足しており、今後も昇給が期待できると話している。

アマゾンが保障している15ドルの最低時給(約1650円)は、同倉庫で働く多くの人にとって前職と比べ高い賃金で、会社側を支持する動機が十分にあったという。

カーラ・ジョンソンさん(44歳)は昨年(2020年)アマゾンで働き始めたが、そのわずか数カ月後、医者から脳腫瘍を告知された。「アマゾンでは雇用初日から医療保険が適用されるので、治療費を保険で賄うことができた」と話している。

大々的な反対キャンペーン

アラバマ州の物流施設では、21年2月に労組結成の是非を問う郵便投票が始まった。21年4月9日に全米労働関係委員会(NLRB)が集計結果を発表。従業員数約5800人の投票総数は約3000票。賛成738票に対し、反対が1798票と過半数を上回り、組合結成は大差で否決された。

同施設では一部の従業員が賃金などの待遇改善を求めて労組結成を呼びかけていた。これに対し、会社側はウェブサイトやパンフレットなどを通じて「結成するなら組合費なしで」とする反対キャンペーンを展開。「年間500ドル(約5万5000円)の組合費を払うくらいなら欲しいものを買った方がましだ」と主張した。

アマゾンは、施設内のトイレの個室に至るまで、反対票を投じるよう呼びかける張り紙を掲げた。従業員らにはテキストメッセージを送信し、団体交渉は結果的に労働者の損失につながるとし、結成を支援していた小売り産業の労組「RWDSU」を非難。「労組の代表者らは組合費から毎年10万ドル(約1100万円)以上を使って乗用車を購入している」などと批判し、労組結成にメリットはないと主張した。

従業員「労組結成に意味を見いだせない」

CNBCによると、こうしたアマゾン側の主張は多くの従業員にとって説得力があったという。ある従業員はインタビューに応じ、「アマゾンのやり方に脅しのようなものを感じたものの、労組結成には意味を見いだせなかった」と答えた。

一方、ニューヨーク・タイムズは、RWDSU側が十分に従業員を説得できなかったと報じている。ある従業員は、「組合が何をしてくれるのかと尋ねたが、RWDSUは明確な答えを示さなかった」と述べたという。

集計結果を受け、RWDSUは「アマゾンは混乱や強制、報復などの雰囲気を作り出して従業員の選択の自由に介入した。投票結果は無効にすべきだ」と批判。全米労働関係委員会に不服を申し立てる意向を示している。

これに対し、アマゾンは「労組側が『アマゾンが従業員を脅して反対票を投じるよう仕向けた』と主張することは容易に想像できるが、それは事実と異なる」と反論している。

アマゾンCEO「地球上で最高の雇用主を目指す」

アマゾンのジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)は4月15日に公開した株主宛て年次書簡で従業員投票に触れ、「反対多数という結果になり、我々と従業員との強固な関係を確認できた」と記した。

ただ、「安心したわけではない」とし、「従業員の成功のためのより良いビジョンが必要だ」とも述べた。

同氏は「地球上で最も顧客第一主義の企業」という従来の目標に加え、「地球上で最高の雇用主」と「地球上で最も安全な職場」を目指すと表明。その上で、「発明家である私は取締役会長としてチームと共に働き、目標達成のために発明を通して協力していくことにワクワクしている」と述べた。

  • (このコラムは「JBpress」2021年4月20日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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