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ファーム参入の新球団名は「くふうハヤテベンチャーズ静岡」。過去にもあった驚きの「二軍」のネーミング

阿佐智ベースボールジャーナリスト
2007年に存在した二軍チーム「グッドウィル」

 今シーズンからNPB二軍・ウエスタンリーグに参入する静岡球団の名称が「くふうハヤテベンチャーズ静岡」と発表された。正直なんだかなあというネーミングである。一時期流行った高級食パン屋ではないが、まずは人目に留まらないとということだろうが、近年、ベンチャー企業が奇抜なネーミングをすることが多い。そういう企業がネーミングライツを手にすると、その施設になんだかよくわからない名前が付されることになる。ネーミングライツを売り出すようになった各地の野球場でも、球場名らしくない名乗りをする例が散見される。

 この球団は、投資会社のハヤテグループを親会社にもっている。球団発足に際してこの会社と資本業務提携を結んだ生活関連サービス企業、「くふうカンパニー」にネーミングライツを売却した結果、両社の社名を球団名とし、両者のカテゴリーである「ベンチャー」をニックネームとして加え、最後にフランチャイズの都市(県)名である静岡をつけるというこれまでにないネーミングとなった。

 日本のプロ野球のネーミングと言えば、そもそものNPB発足の経緯から親会社名+ニックネームというのが定番として受け入れられている。平成に入り、Jリーグに代表されるように「地域密着」がプロスポーツの「あり方」として認識されるようになって、「地名+親会社名+ニックネーム」というパターンも増えてきた。また、強力な親会社をもたず、地域からスポンサーを「薄く、広く」募って球団経営を行う独立リーグが勃興するに及んで、「地名+ニックネーム」というパターンも定着してきた。

「ハヤテ」改め「くふうハヤテ」と同じく今シーズンからNPB二軍リーグに参入する新潟アルビレックスBCも、試合数が倍になる独立リーグからNPB傘下のイースタンリーグへの「昇格」にあたって強力なスポンサーが必要になり、食品通販会社とネーミングライツ契約を結び、球団名を「オイシックス新潟アルビレックスBC」に改めている。

企業との密接な結びつきの中、「広告塔」となっていった日本のプロ野球

 プロスポーツチームを「地域の顔」と考える欧米においては、サッカーにしても野球にしてもチーム名に企業名が入ることはほとんどない。しかし、プロスポーツチームが企業のスポンサーシップの上に成り立っていることは、プロサッカーチームのユニフォームにでかでかと描かれた企業名やメジャーリーグの球場名を見れば理解できる。

 戦前に発足した日本のプロ野球も、最初はアメリカのような地域密着型の運営を目指したが、なかなかそうはいかず、電鉄系の球団は「阪急」、「阪神」、「南海」などと自社名を球団名とした。

日中戦争がはじまった1937年、それまで「大東京軍」と名乗っていたチームが、シーズン中に突如、「ライオン」と名を改めた。「ライオンズ」ではない。おまけに「名字」に当たる地名や企業名もなしである。この「ライオン」は今でもおなじみの歯磨き(現在ではペーストが主流だが、当時は「粉」だったらしい)の商品名だった。現在ではこれが社名になっているが、当時これを製造していた小林商店という会社が、ネーミングライツを購入し、寺社商品のアピールに使用したのだった。

 戦後、プロ野球人気が向上していく中、球団名は「広告塔」と化していった。電鉄会社に映画会社、新聞社に食品会社、「国民的スポーツ」となっていったプロ野球は、旬の企業にとって自社をアピールする絶好の場となっていった。

独自ニックネームというファームの挑戦

 そのような風潮の中、セ・パ分立後のセ・リーグはアメリカにならった画期的な試みを行った。新日本リーグがそれである。当時球団数の上でセ・リーグを凌駕するパ・リーグへの対抗手段として、球団名はそのままながら、別のニックネームをもった二軍チームによるリーグを結成し、フランチャイズも別にし、加えて地方遠征も行いリーグの認知度の向上を目論んだのである。

 巨人は川崎市をフランチャイズとする「読売ジュニアジャイアンツ」、対する大阪タイガースは神戸を本拠地として「阪神ジャガーズ」、中日は静岡に「中日ダイヤモンズ」を置いた。以下、呉の「広島グリーンズ」、福岡・小倉の「洋松ジュニアロビンス」、埼玉・大宮の「国鉄フレッシュスワローズ」がこのリーグに参加したが、当時の交通事情では二軍で全国規模のリーグ戦を行うのは運営上も経営的にも難しく、2シーズンでこの試みは挫折してしまう。

 その後、NPBの二軍リーグは一軍の所属リーグに関係なく、東西の2リーグに振り分けられ、一軍と同じ名前のチームで活動を行うようになった。

ファームチームのオリジナルネーミングの復活

 長らく一軍と同じネーミングの二軍がリーグ戦を行う体制が続いていたが、「一軍におんぶにだっこ」の運営を変えようという挑戦が2000年に始まった。「湘南シーレックス」がそれである。

 1993年に親会社の社名変更に合わせて企業名を球団名から外すという英断を行った横浜ベイスターズは、2000年に独立採算化と一軍との差別化を目指して二軍の独自運営を行う方針を採用し、チーム名を「湘南シーレックス」とした。アメリカのマイナーリーグにならい、一軍とは全く異なるユニフォームを採用したこのチームの運営方針はファンからも評判が良く、日本球界のファームのあり方を変えることも思われたが、2002年に球団を引き継いだメディア企業、TBSは経費削減もあり、2010年限りで二軍の名称、ユニフォームを一軍と統一することとし、地域密着型のファームの独立運営は11シーズンで終了した。

 ただし、DeNAに球団経営が引き継がれた今も、ベイスターズ二軍は、シーレックス時代と同じ横須賀スタジアムを本拠として活動している。

2003年ウエスタンリーグトーナメント大会・写真は木田優夫現日本ハムゼネラルマネージャー代行
2003年ウエスタンリーグトーナメント大会・写真は木田優夫現日本ハムゼネラルマネージャー代行

 東のシーレックスに対抗したわけではないだろうが、同じ2000年に二軍のネーミングを一軍とは別にしたのが、オリックス・ブルーウェーブだった。

 それまでブルーウェーブの二軍は、当時の本拠・グリーンスタジアム神戸(現ほっともっとフィールド神戸)近くのサブ球場を本拠としていたが、ベイスターズ同様、ファームの独自運営を目指して、ホームグラウンドを約30キロ北東のスポーツ公園内にあるあじさいスタジアム北神戸に移転(神戸サブ球場も引き続き使用)し、チーム名も一軍とは異なる「サーパス神戸」と改めた。このチーム名の由来は、ネーミングライツ権を買い取った建設大手の穴吹工務店が手掛けるマンションの名前だった。つまり、同じ二軍の独自運営と言っても、地域密着に重きを置いたベイスターズに対して、ブルーウェーブの方は、ビジネス重視という点が大きく異なっていた。ただし穴吹工務店とのネーミングライツ契約が3シーズンで切れ、別の企業がスポンサーについた後も、ファンの間に根付いていたという理由でこの名称は継続。これを受けて2005年には穴吹工務店がスポンサーに復帰し、この年からオリックスが近鉄バファローズを吸収合併したこともあり、翌年からは、地名の「神戸」を外したマンション名だけの「サーパス」の名で3シーズンを戦った。

 しかし、ネーミングライツというのはまさに「金の切れ目が縁の切れ目」。景気悪化に伴い穴吹が撤退した後は、一軍と同じ「オリックス・バファローズ」の名でウエスタンリーグに参加している。

まるで社会人野球。スポンサー企業名のみの二軍

 このサーパスに触発されたのか、二軍のネーミングライツを売りに出したのが、西武ライオンズだ。

胸に「INVOICE」の文字の入った西武二軍のユニフォーム
胸に「INVOICE」の文字の入った西武二軍のユニフォーム

 2004年オフ、西武球団は本拠地・西武ドーム(現ベルーナドーム)のネーミングライツとセットで二軍のそれも売りに出した。これに応じたのが、IT系企業の「インボイス」で、翌2005年シーズンからライオンズの二軍はこの名でイースタンリーグを戦うことになった。チーム名には地名もニックネームもなく、企業名の「インボイス」のみ。ユニフォームは一軍と同じデザインのものを使用したが、キャップには球団のロゴマークに変わってインボイス社のロゴマークが、そして胸のネームには英語で「請求書」を意味する「Invoice」の文字が縫い込まれていた。ファーム落ちしてきた外国人選手がユニフォームを見て戸惑ったという逸話も残っている。

 このせいというわけでもないのだろうが、長期契約を望んでいたインボイス社に対し、西武球団は、当初の契約の切れ目である2シーズンで球場と二軍のネーミングライツ契約を解除。翌2007年シーズンからは、人材派遣・介護サービス大手のグッドウィル・グループと新たに5年契約を結び、またまた企業名だけの二軍チーム「グッドウィル」が誕生した。 

 このチームも、一軍の同じデザインにユニフォームに社名を入れ、キャップには会社のシンボルマークを入れていたが、社名が胸にでかでかと入ったユニフォームはまるで社会人野球のそれのようだった。

 しかし、このチーム名も短命に終わった。スポンサー企業の本業で違法行為が発覚し、ことの重大性を重く見た西武球団は、2007年限りで二軍と球場のネーミングライツ契約を打ち切った。

 西武球団はこれに懲りたのか、しばらくの間ネーミングライツの売却を控えていたが、2015年シーズンより球場のネーミングライツのみ売りに出した。

 今シーズンからNPBファームに参入する独立球団のユニフォームはまだ発表されていない。新潟改めオイシックスの方は、従来からユニフォームには、チーム名ではなくメインスポンサーのロゴが入っていたので、基本的なデザインが変わらない限りはファンにとって違和感のないいで立ちになるだろう。

 一方の「くふうハヤテベンチャーズ静岡」だが、こちらは地域密着を全面に出したものにするのか、オーナー企業またはスポンサー企業重視にものになるのか。

独立球団のビジネスを考えると後者に落ち着くのだろうが、「くふうハヤテ」という一見なんのことだかわからないネーミングを是非とも静岡の野球ファンの間に定着させてほしい。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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