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映画グランド・ブタペスト・ホテルのロケ地「ゲルリッツ」が注目される5つの理由

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
旧市街ブルーダー通りにて民族衣装を着た独東部の少数民族ソルブ人女性に出会った

2015年度アカデミー賞で4部門の受賞をした映画「グランド・ブタペスト・ホテル」のロケ地として一躍有名になった街ゲルリッツ。映画スターの行きかうこの街は、「独東部で最も美しい古都」として人気急増中だ。

以前、F1レーサーのセバスチャン・フェッテルの故郷がドイツのボリウッドにという記事を公開した。その後も日本ではあまり知られていないドイツの街が映画の舞台として注目されている。その一つが、ドイツ最東端の古都ゲルリッツだ。(画像は特記以外、筆者撮影)

中世の面影残す国境の街ゲルリッツが注目される5つの理由とは

ゲルリッツは、ザクセン州の州都ドレスデンから北東へおよそ90キロ、首都ベルリンから南東へおよそ190キロの位置にある国境の街。

ドイツ統一25周年を迎える今年、これまでとは赴きの異なる観光地として東部ドイツの街が人気を集めているが、その魅力は日本に十分に伝わっていない。そこでまず、ゲルリッツが注目されている5つの理由を挙げてみた。

1.大戦を逃れた古都

ナイセ川を挟んで左側がドイツ、右側がポーランド(c)M Kertzscher
ナイセ川を挟んで左側がドイツ、右側がポーランド(c)M Kertzscher

第二次大戦でドイツが敗北する直前、街中を流れるナイセ川にかかる橋が全てが爆破され、ゲルリッツは二分されてしまった。大戦後は分離した場所に新たな国境線が引かれ、旧ゲルリッツ市内のナイセ川東岸がポーランド領 のズゴゼレッツという街に、西側がドイツのザクセン州に属するゲルリッツとなった。

幸いにも、ゲルリッツ市内は戦争や破壊からほぼ完全に免れた。そんな歴史と中世の香りが今なお残る街ゲルリッツでは、産業革命時代の面影を残す街路や広場、ユーゲントシュティール様式の建物など細部まで優雅に装飾された家々が訪れる客を魅了する。

2.歴史的建造物の宝庫

ゲルリッツ最古のルネッサンス様式建物シェーンホーフは現在シュレジア博物館
ゲルリッツ最古のルネッサンス様式建物シェーンホーフは現在シュレジア博物館

市内観光のハイライトは、市庁舎やシュレジア博物館のあるウンターマルクト周辺だろう。ちなみにシュレジア博物館として利用中の建物シェーンホーフはかってビール醸造所だったという。

また、市内で一番目をひくのは、500年以上の歴史を物語る3500にも上る建造物だ。これらの建物は、そのほとんどが修復され、目を見張るほど優雅な街並みが続く。かって塩や朝の取引で繁栄した商人たちの豪華な装飾を施した建物のファサードの美しさは、息をのむほど圧巻だ。

ゲルリッツの中心広場オーバーマルクトでは、ゲルリッツ観光案内所のほか、ライヒェンバッハ塔や聖三位一体教会が壮観。

3.異国情緒が楽しめる国境の街

2004年に架けられた旧市街橋を渡るとすぐポーランド・ペーター教会前にて撮影
2004年に架けられた旧市街橋を渡るとすぐポーランド・ペーター教会前にて撮影

市庁舎から北へ数分歩くとペーター教会(聖ペーターと聖パウル教区教会)に到着する。ここからナイセ川をはさんで対岸にポーランドのズゴゼレッツがすぐそこに見える。「橋を渡ってちょっとポーランドへ」というユニークなスポットとして観光客に人気の場所だ。

4.映画ロケ地として人気急上昇

ゲルリッツは映画の舞台としても最高の街。グランド・ブタペスト・ホテルの映画スタッフが欧州中を巡って探し当てたのがこの街だという。ゲルリッツの名は、一躍世界に知れ渡ったのは言うまでもない。

例えば市庁舎の前は、スクリーン上ではまさにルネッサンス時代を髣髴(ほうふつ)させる。旧東ドイツの時代も、この街ではよく歴史者やメルヘン映画が撮影されたという。

映画のホテルはデパート「カウフハウス」内部を改装して撮影した(c)Daniel Hoppe
映画のホテルはデパート「カウフハウス」内部を改装して撮影した(c)Daniel Hoppe

グランド・ブタペスト・ホテルの舞台となったデパートは、デミアニ広場にあるユーゲントシュティール様式の宝石とも言われる建物。残念ながら、現在は修復工事のため中には入れないが、大きな吹き抜けホールと教会の聖歌隊席を思わせるつくりの売り場があり、今も当時のままの姿を保っている。

この街で知り合ったオーストラリアから来た男性バリーは、市内見学中に英国女優エマ・トンプソンに遭遇したと話してくれた。ちょうど「ベルリンに1人死す」(Every Man Dies AloneあるいはAlone in Berlin)の撮影中だった。

バリーは「ハイ、エマ」と声をかけると、先方も「ハイ!」と気軽に答えてくれたと嬉しそうに語った。「ハリウッドの映画俳優とすれ違うかもしれない」などと思いながら市街を散策するのも楽しいに違いない。

「地獄のバスターズ」ロケ(c)Goerlitz Stadtverwaltung
「地獄のバスターズ」ロケ(c)Goerlitz Stadtverwaltung

ゲルリッツは、ベルリンを想定した映画舞台としてよく撮影されるが、東西統一後は、19世紀のパリになったこともある。

クエンティン・タランティーノ監督の「地獄のバスターズ(2009)」の撮影でブラッド・ピットもこの街を訪れた。

5.伝統と異文化を体感する

分断したナイセ川にかかった橋を分かち合う楽しみが最高潮に盛り上がるのは、ゲルリッツの大きな祭りの時だ。

例えば、ドイツ・ポーランド・チェコの参加国短編映画際や、毎年7月上旬に開催される全欧州からアーチストや演 劇グループが参加するヴィア・テア・ストリート演劇祭など、日本ではなじみのない祭りが数多くあり、いながらにして伝統や異文化に触れることができる。

毎年8月開催の旧市街祭りは大好評のイベント (c)Nikolai Schmidt
毎年8月開催の旧市街祭りは大好評のイベント (c)Nikolai Schmidt

これから訪問する人へお勧めしたい祭りは、毎年8月末の週末に行われるゲルリッツ旧市街祭り(今年は8月28日から30日)。

この祭りに合わせてポーランド側ズゴゼレッツ市祭りも開催される。日本では味わうことの出来ない二国のお祭りを同時体験してみるのはいかがだろう。

取材協力・ドイツ観光局

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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