教会立てこもり事件から考える犯罪と相談の心理学:困難を抱える本人と家族支援のために
■教会立てこもり事件
18日夜発生した事件ですが、19日未明特殊部隊が突入し、人質を無事保護、容疑者を逮捕しました。NHKは事件発生前の状況を次のように伝えています。
キリスト教会には、様々な人がやってきます。カウンセラーのところにも様々な人がやってきます。時には、他の人たちが受け入れがたい人をも受け入れます。
だからこそ、事件事故は防がなければなりません。善意と共に、知識と技術と細心の注意が求められます。今回の事件で何かが大きく欠けていたとは考えにくい状況ですが、それでもトラブルは起きます。人の行動を予測することは、プロでも難しいことです。
事件解決前のネット上のコメントを見ると、「犯人を射殺しろ」といった意見も多数見られましたが、この事件の関係者一同が、事件の平和的解決を願い祈っていたことでしょう。適切な対応によって、人質保護、容疑者逮捕ができたことは良かったと思います。
事件の舞台となってしまった教会は、普通のプロテスタント教会(穏健な福音派)で、ゴスペル教室を開くなど誠実で活発な活動をしてきました。
■相談者の暴力
相談を受ける側としては、相談者を加害者にしてしまってはいけませんから、暴力などが発生しないように気をつけます。
たとえば、気の短い人をイラつかせないとか、物を投げられないように机の上には何も置かないとか、酔っている時には相談に応じないなどです。酔っている人は診察できませんなど、規則を口実に帰ってもらうこともあります。
病院や児童相談所などは、複数の慣れている職員がいて対応できますが、それでも精神科医が患者にけとばされる程度のことは日常的にあるでしょう。その程度の暴力を怖がっていては仕事にならない面もあるでしょうし、刑事事件にはなりません。もちろん暴力はないにことた事はありませんが、プロでも完璧はありません。
学校の相談室での暴力はあまり聞きません。教室、保健室、図書室などで、乱暴な行為が見られれば、すぐに複数の先生が来て、必要があれば暴れる生徒を押さえつけ、興奮している場所から離し、別室で落ち着かせます。少し落ち着いたところで、スクールカウンセラーと面談することもあります。酔っていたり、興奮しすぎていると、会話にならないからです。
教会のようなボランティア的な関わりは、規則に縛られず自由にできる素晴らしさがあります。しかしその一方で、規則やルールの名目で相談のわく(時間や場所の規制)を作りにくいことがあるでしょう。たとえば、「酔っている人の人とは面談できないルールです」とか、「次の面談予定が入っているので今日はこれで終わりにしましょう」といったことが言いにくい面はあるでしょう。
■どこへ相談に行くか
心や行動の問題を抱えている人がどこへ行くべきかは、ケースバイケースです。精神疾患のために通常の会話ができない状態なら病院でしょう。しかしそうでないなら、カウンセラーや宗教指導者という選択はもちろんあります。
医療機関も様々で、精神病院、総合病院の精神科、心療内科、個人のメンタルクリニックなど、いろいろあります。医療機関によっては、初回は30分ほど話を聞いてくれるところもありますが、毎回カウンセリングというわけにはいきません。基本は薬物療法でしょう。
「ドラマでは、しばしば精神科医がカウンセリング的なことをしていますが、現実では多くの場合、精神科医が毎回1時間患者の話を聞くことはありません。病院の中の臨床心理士がカウンセリングを担当することはあります」(心と行動の問題悩んだ時には、どこに相談したら良いのか:Yahoo!ニュース個人有料)。
相談機関も様々で公立の相談機関、大学の心理相談室、個人のカウンエリングルームなどもあります。そこでは、相談が行われることもあれば、心理療法が行われることもあります。内科や外科の対応よりも、心の問題の対応の方がバラエティーに富んでいます(決定打がないとも言えます)。
キリスト教や仏教などでも、心ある宗教家は人々の様々な相談に応えようとしています。医療でも、プロのカウンセラーでもできないことが、できることもあります。宗教を通して癒されることもあります。多くの場合、必要に応じて治療を受けながら宗教家との面談を続けるでしょう。まともな宗教家は一般的な医学的治療を否定せず活用します。理解のある医療関係者は効果があるなら宗教を活用します。
■難しい相談内容、困難な事例
たとえば統合失調症は、本人にとても家族にとっても大変な病気です。しかし、精神科医にとっては典型的な統合失調症は治療しやすい病気です。
不登校といった問題は、不登校を治す薬はありませんが、カウンセラーにとっては数多く見てきたケースであり、適切な対応もしやすいでしょう。
精神的なバランスを崩して大暴れしているようなケースは、もちろんとても大変ですが、ただの傷害事件ではなく精神疾患が絡んでいるならば、法律に基づき「自傷他害の恐れあり」で警察官が保護をし、医療につなげます。
さて、今回の事件では「以前は家族で暮らしていましたが、暴れるなどして家族を追い出し、最近は1人で暮らしていたようです。」と近所の話として報道されています。
日常生活はでき、明白な診断名が付きにくかったり(わからなかたり)、外で問題を起こしていないものの家族内で乱暴を繰り返すケース。これは、どこに相談に行ったら良いのか、家族が困り果て憔悴しきることもあります。
今回のように、子どもが暴れ家族が家を出るようなケースも、珍しくありません。
■事件は防げなかったか
今回の事件の詳細は分かりませんが、困り果てた家族が、カウンセラーや教会にようやくたどり着いたのでしょう。この相談をきっかけに、事態が改善される可能性もありました。
今までの報道では、容疑者が家庭外で暴力事件を起こしたとは伝えられていません。家族も、家族以外の人間に暴力的なことをするとは、予想できなかったのかもしれません。
凶器になるものを教会に持っていかなければ、おそらく今回の事件は起きなかったでしょう。しかし、それを事前に予測して荷物をチェックすることは難しかったでしょう。
本人とともにどこかに相談に行く場合は、いかに本人を納得させるかが大切です。力づくはできません。嘘をつくことも望ましくありません。なんとか説得し、納得させて連れて行くことが求められます。家庭訪問する場合も同様です。
それは簡単なことではありません。家族だけに押し付けて良い問題でもありません。子どもと言っても大人になり、親も高齢化しているケースも多くあります。
相談や治療に来たら対応するではなく、本人が冷静な状態で相談を受け入れられるように、家族を支援していく必要があります。家族はしばしば孤立します。プロの援助だけでなく、身近な人々による理解と支援が大切です。
■追記
■20160219,12:40
続報によると、次のように報道されています。
今回が初めての教会訪問ではなく、教会関係者も事情はわかっていたと思われます。今回は、何か予測不能な突発的なことが起きたのでしょう。
■20160219,13:10
教会は、日常的に準備を整え、相談を受けていました。