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アウシュビッツ博物館、閲覧できるツイッター投稿数の制限に「除外してください」マスク氏に訴え

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった方々の情報は制限をかけられずに、全ての人々に見てもらうべきです」

ツイッターのオーナーのイーロン・マスク氏が2023年7月にデータのスクレイピング(収集、加工)やシステム操作に対応するために1日に閲覧できる投稿数に一時的に制限を設けると投稿していた。そしてイーロン・マスク氏は閲覧可能な1日当たりの投稿数を未認証アカウントが600件、認証済みアカウントが6000件とすると投稿していた(その後、それぞれ1000件、1万件に引き上げるとしていた)。

このイーロン・マスク氏のツイッターによる閲覧できる投稿数の制限に対して、アウシュビッツ絶滅収容所博物館が、アウシュビッツ絶滅収容所博物館のアカウントはこの制限のリストから除外してほしいと訴えていた。

「アウシュビッツ絶滅収容所博物館のアカウントでは、アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった人々の誕生日に、彼らの記憶と思い出を後世に伝えていくために、彼らの名前と誕生日を伝えています。そのようにアウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった全ての方々の情報は制限をかけられずに、全ての人々に見てもらうべきです」と訴えていた。

犠牲者の誕生日に写真、生まれた場所、殺害された場所をツイッターで発信

アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではツイッターで毎日情報発信を行っている。アウシュビッツ絶滅収容所博物館のツイッターでは、毎日、アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった方々の誕生日や殺害された日に、彼らの写真とともに生まれた場所、いつ殺害されたかを投稿している。110万人以上が殺害されたアウシュビッツ絶滅収容所なので、毎日誰かしらの誕生日である。ナチスドイツではヨーロッパ中のユダヤ人を絶滅することを政策として掲げていたので、支配した地域でもユダヤ人をリスト化していた。そしてどの地域で何人のユダヤ人をどこの収容所に送るという"ノルマ達成"を官僚主義的に行っていたが、その際にもきちんとユダヤ人の情報をリスト化していた。現在ではデータベース化されており、アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではその日が誰の誕生日かがわかる。

写真が残っていない犠牲者の場合は文字だけで犠牲者の情報を投稿している。ユダヤ人にとっては家族や友人らとの幸せだった時代の写真は貴重なものでアウシュビッツまで持ってきたが、ナチスドイツにとっては全く価値のないものだった。そのためすぐに焼却されてしまったので、平和な時代の写真が残っているのはとても貴重である。だがアウシュビッツでは強制労働に適していると判断された囚人らは3方向から写真撮影されていた。それらの写真がデジタル化されて保存されており、3枚の写真が犠牲者の誕生日に掲載されることが多い。

さらに大量にある犠牲者の写真の他にも文書、遺品などをデジタル化して保管しており、それら貴重な歴史的コンテンツを毎日ツイッターで世界中に発信している。アウシュビッツ絶滅収容所博物館では、2019年8月に「解放75年を迎える2020年1月までに、ツイッターのフォロワーを75万人まで目指す」と掲げていた。当時は55万人程度のフォロワーだったが、2019年末には75万まで到達し、目標はクリアした。その後、アウシュビッツ絶滅収容所博物館では「フォロワーを2020年1月27日(国際ホロコースト記念日)までに100万人」と目標を上方修正し、この目標もクリアされ、2022年末までにフォロワー数150万の目標を掲げていて、それもクリアしていた。

アウシュビッツ絶滅収容所の博物館のツイッターではホロコースト関連のニュースや犠牲者の情報、生存者の体験など決して明るいニュースや情報ではなく、目を覆いたくなるような写真や生々しい情報も多い。また当時のホロコーストの様子やニュースだけでなく、現代社会のヘイトスピーチや民族憎悪、欧米では根強く残っている反ユダヤ主義に対しても警鐘を鳴らしている。

▼イーロン・マスク氏の制限に対して、アウシュビッツ絶滅収容所博物館のアカウントは除外してほしいと訴える博物館

▼アウシュビッツ絶滅収容所での犠牲になった囚人の誕生日に写真付きで毎日情報を伝えている博物館のアカウント(貴重な赤ちゃん時代の写真)

▼労働に適していると判断された囚人は3方向から写真撮影されていた

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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