元町商店街を歩いていたら、滑らかに流れる弦楽器の美しい音色が聞こえてきました。どうやら生音のようですよ。

音が流れてくる方へ耳を澄ましながら歩いていくと、行き着く先にあったのは何と呉服店。入り口から店内を覗き込むと、着物や帯が飾られたショーウィンドウの前で楽器を手に演奏をしている姿が。

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを弾いている3人は、着物姿といった出で立ち(いでたち)です。着物で西洋の楽器を演奏している姿を初めて見ましたが、何とも粋なものですね。思わず見入ってしまいました。

お店の周りには、私と同じく音に引き寄せられて足を止める人々が多数いて、皆さん携帯でこの様子を撮影しています。音楽は次第にアップテンポの曲になりフィニッシュ、集まった人達も笑顔で拍手。

「丸太や」は明治33年に創業、今年で122年を迎える老舗の呉服屋さんです。何故そんな老舗のお店が、店頭でゲリラライブを？

演奏をしていたのは三木さん一家、ここ「丸太や」の経営者さんでもあります。現在は息子さんの弦(ゆづる)さんで5代目、若々しい社長さんです。もともと音楽がとても好きな一家で、神戸の震災をきっかけに「丸太や」の二階で定期開催のコンサートを始めたのだとか。

「音楽は、生活の中で潤いとして必要なものだと思うんです」と、お母様の成美さん。よく見ると着ている着物の袖には小さなヴァイオリンの模様が散りばめられています。改めて店内を見渡すと驚きの発見がありました。

展示されている着物や帯、草履の鼻緒や陶器、アクセサリーに至るまであらゆる商品に楽器や音符などの模様が。そのほとんどは言われて初めて気づくような雰囲気でさりげなく表現されていて、そこがまた粋なんです。

店内を楽しく彩る音楽柄のデザインは、家族でアイデアを出し合い作家さんとコラボして作っているオリジナル商品なのだそう。初めてオリジナルを作ったのはもう30年近く前のこと、成美さんが自分で着たくて作ってみたのが始まりなのだとか。

「絵柄で季節感などを楽しめるのも着物の魅力ですが、同じように音楽柄でコンサート等に行くと自分も一緒に参加しているみたいな楽しさがあります。何だか一緒にハーモニーを奏でているような」

オペラの一場面を描いたデザインや、サウンドオブミュージックがモチーフの反物などもあります。「音楽や着物で、皆さんが楽しめるように提案していきたい」と語る成美さんの笑顔、本当に音楽を愛しているんだなぁという表情をしています。

神戸の震災をきっかけに始めたお店でのコンサートも、コロナ禍を経て更に意味を深めているようです。「今、世界で起きている悲しい出来事などもありますが、小さな事でも皆んなで共感できる時間を持てたら…少しでも心が明るくなったら嬉しいし、音楽にはその力があると思うんです。」

音楽を聴きに行く楽しさや、着物を着て出かける楽しさ。それを提案することで幸せの分散ができたら…「丸太や」の、オリジナル作品や演奏に込められた想いです。

今月25日から一週間、「丸太や」2階でコンサートが行われます。入場無料で誰でも参加できるそうです(※予約制、人数制限あり)。ぜひ、素敵な三木ファミリーに出会いに行ってみてはいかがでしょうか。きっと楽しいワクワクを分けて貰えますよ。

丸太や　フレンドリーコンサート2022・春