老人ホームに入居した母が「家に帰りたい」と泣く 事前に「重要事項説明書」を読めば良かったと大後悔
老人ホームの検討をする際、パンフレットを見る人は多いと思います。「緑豊かな環境で」「おいしいお食事」「優秀なスタッフ」などの宣伝文句と美しく撮られた写真が並んでいるのではないでしょうか。
「良さそうなところ!」と気持ちがときめくこともありますが……。これは、あくまで宣伝のためのペーパーであり、参考程度に見るようにしたいものです。
「帰りたい」と泣きながら電話が……
ヨシコさん(50代)の母親(80代)は、歩行が不自由で要介護1と認定されています。実家で1人暮らしをしていましたが、ヨシコさんの自宅からは、飛行機と電車を乗り継ぎ5時間もかかります。話し合った結果、有料老人ホームに入居しました。
「せっかく入居できたのに、ほどなく、母親は『帰りたい』と電話をしてくるようになりました。要介護度の高い入居者が多いらしく、うちの母だけが元気だとか……、『こんなところに居られない』と泣くこともあります」とヨシコさんは困り果てていました
ヨシコさんの母親が入居したのは、実家から近い有料老人ホームです。新聞に入っていたチラシを母親が見つけました。きれいな写真に、心惹かれたようです。
「母が、『ここがいい』と言ったので、他を当たらず、決めてしまったのです」とヨシコさん。一度、母親と見学に行きましたが、入居者は各自の居室にいるようで、ほとんど誰とも会わなかったそうです。しかし、ホテルのような建物で、母親は「ここにする」と決めました。
「大後悔」を防ぐ2つの手順
ヨシコさん母娘の「大後悔」は、次の2つの手順を踏めば、防ぐことができただろうと思います。
1,入居者のようすを見られる時間帯に見学を行う
2,早い段階で、「重要事項説明書」を読む
まず、見学の時間帯ですが、ヨシコさんたちは14時頃に出かけたそうです。入居者は昼食を済ませて、自室でゆっくりしていたのでしょう。入居者の雰囲気を知りたければ、ランチタイムの見学がお勧めです。入居者の雰囲気だけでなく、介助のようすなどさまざまな情報が見て取れます。
ただ、コロナ禍では、食事時間帯の見学は難しいかもしれません。レクリエーションの時間帯でも良いでしょう。それも難しいようなら、できるだけ体験入居を行うことをお勧めします。実際に数日住まうことで、馴染めそうかどうか見極めることができるからです。
「重要事項説明書」を読む
具体的なあれこれが書かれている「重要事項説明書」を読むことも大切です。入居者の年代や、要介護度、男女の人数はもとより、利用料金(月額利用料に含まれるもの、含まれないもの)や職員の体制(資格や人数、勤続年数)など、まさしく重要な事項が記されています。
恐らく、ヨシコさんの母親が入居した施設では、要介護4,5の人が多いのでしょう。そうなると、確かに、要介護1の母親は馴染みにくいだろうと思います。
「重要事項説明書」は、黙っていても、契約時には渡され、読み合わせも行われるはずです。けれども、契約の段階だと、すでに入居の決断をしており、引っ越しのことなどを考えている段階です。「んっ?」と思うことがあっても、滅多に「契約をやめておこう」とは思わないでしょう。
なるべく、早い時期に入手を。ウェブサイトからもダウンロードできるところが増えています。都道府県のウェブサイトからダウンロードできる場合もあります。資料を請求するときに「重要事項説明書も送ってください」とお願いしてもいいでしょう。遅くとも、見学に出かけた際にはもらってください。
◆東京都の例 東京都福祉保健局のウェブサイトにリンクされています。
*施設名称をクリックすると「重要事項説明書」(PDFファイル)を見ることができます。古い場合もあるので、見学時に最新版をもらいましょう。
「入居率」「退去者数」も参考になる
重要事項説明書には、「入居率」なども記されています。有料老人ホームの損益分岐点は開設後2年間で80%程度といわれています。あまりに低い場合は、理由を聞きましょう(倒産・廃業でもされたら大変です)。
また、「直近1年間の退去者数」も記されているので確認してください。退去の行き先は「自宅」「他の施設」「病院への入院」「死亡」などがあります。「死亡」が多い場合は、看取り介護にも力を入れている可能性があります。
「重要事項説明書」は1か所だけでなく、候補となりえる複数の書面に目を通すと、比較でき、イメージがつきやすくなります。読んだうえで不明点が出てきたり、もう少し詳しく知りたいことがあったりすれば、直接、施設に問い合わせましょう。
老人ホームは、それぞれの施設ごとで、行っている内容、力を入れていることなどは異なります。もちろん、費用も……。後から「こんなはずでは」とならないよう、事前の情報収集を丁寧に行いたいものです。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】