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乗客を怒鳴ったJR駅員の動画 中国人が見た感想は?

中島恵ジャーナリスト
JR山手線(写真:アフロ)

東京のJR山手線の渋谷駅で、財布を落とした男性が勝手に非常停止ボタンを押し、その男性を怒鳴る駅員の動画がSNS上で拡散され、物議をかもしている。

男性が取った行動や駅員の態度に対して賛否両論が巻き起こっているが、この動画について、SNS大国である中国に住む中国人に意見を聞いてみた。彼らはどのように感じたのだろうか。

中国人の目から見た印象

「びっくりしました。まず率直な感想は、日本人の中にも、こんなに声を荒げて怒鳴る人がいるんだなってこと……。とくに日本の駅員や店員などサービス業の人は、いつも我慢強く、日本では『お客様は神様』で、どんなときにも平身低頭だという印象があったので、意外でした。

でも、これは仕方ないですよね……。突然、非常停止ボタンを押すなんてことをされたら、逆ギレすると思います。彼は強い使命感があったからこそ、つい怒鳴ってしまったのだと感じ、私は彼(駅員)に同情します」

こう語るのは上海在住の30代の男性だ。

この男性はこれまで何度も日本旅行をした経験があり、JRを利用したことも多い。数年前、ラッシュ時に山手線に乗車してしまい、降りるのに苦労したことがあったので、非常停止ボタンを押すことが、いかに大勢の人に迷惑をかけるかもよく知っている。

「SNS上では財布を落とした男性の気持ちも理解できるとか、あそこまで怒鳴るのは駅員としてどうなのか、という声があるそうですが、あの状況ですぐに動画の撮影を始めるあたり、あの男性は『あざとい』と思いました。駅員を怒らせてから、自分に都合よく撮影したように見えるからです。

中国には日本とは比較にならないくらい自分勝手な人が多いのは事実ですけど、最近、公共交通機関でのマナーは以前よりよくなってきました。もしかしたら日本では逆に、だんだん自分のことしか見えない人が増えてきたのでしょうか」

中国ではSNSで代理戦争が勃発する

同じく上海の40代の男性にも動画を見てもらった。その男性は以前、日本に数年間住んでいた経験がある。

この男性が動画を見たあと、今、日本で報道されているJR東日本側の説明や、SNSで拡散されている状況を説明するとこう言った。

「こういう問題が大きく報道されること自体、まだ日本は健全な社会だと思いますね。中国だったら日常茶飯事とまでは言えないけれど、怒鳴り合いのケンカはあちこちで起きていますから、そこまで大問題にはなりません。

SNSが発達してから、第三者が動画を撮影してSNSに投稿することも頻繁にあります。そこで、SNSを見た人同士がヒートアップして、代理戦争が勃発し、当事者よりも代理戦争のほうが激しくなって収集がつかず、いがみ合いが続いてしまうというパターンが多い。その参戦者の数、事実誤認も含めた口論の数、ののしり合いは日本の比ではありません。

中国で多いのは座席トラブル

公共交通機関の関係で、中国で多いのは、高速鉄道(日本の新幹線に相当)の中で指定席に別の人が座ってしまうというトラブルです。

そこで駅員と、その座席の切符を持っている人、勝手にそこに座った人の3者で、とてつもない怒鳴り合いのバトルが繰り広げられるのです。勝手に座った人が強い態度に出て居座るというのは、日本人には信じられないことでしょうが、これは数年前から続く、中国の社会問題のひとつとなっています。

中国では動画が撮影されることで“証拠”となり、本来、その権利を持っている人がひどい目に遭わないで済むというケースもあり、撮影されることが悪いことばかりではないのですが、日本は少し状況が異なるようですね。

しかし、そもそも、中国の地下鉄駅では、今回のような問題は起きません。それは、すべての駅に、最初から転落防止のホームドアがついているからです。

(※ちなみに、中国には、都市部に地下鉄があるほか、都市と都市を結ぶ長距離列車、高速鉄道などはあるが、東京のJR山手線や中央線のような、地上を走る市内の電車に相当するものは存在しない)

高速鉄道の駅も同じです。ですから、乗客がホームに物を落とすということ自体、中国では決して発生しないのです。日本ではホームドアがあるところとないところがあるようですが、早く完全に整備したらいいと思います」

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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