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VRでホロコーストの記憶を次世代に「子供たちの世代はもうホロコースト生存者と会えないから」

佐藤仁学術研究員・著述家
VR動画「Fragments」より

減少していくホロコースト生存者、進む「記憶のデジタル化」

 第2次大戦のナチスドイツによるホロコースト。ユダヤ人や政治犯ら600万人以上が殺害された。70年以上が経過し、ホロコーストを生き延びてこれた人々も高齢化が進み、年々減少してきている。イスラエルには現在、ホロコースト生存者が20万人以下にまで減少し、2年以内に14万2000人に減少し、2025年までには92,600人、2035年には26,200人にまで減少する。現在でも、多くのホロコースト生存者が、ホロコースト当時の記憶がほとんどない幼児や子供の生き残りで、ホロコースト時代のことを本当に証言できる生存者は限られている。

 現在、欧米やイスラエルでは、ホロコーストの生存者らの記憶が鮮明で身体が元気なうちに当時の証言を収集しようとしている。そして、生存者らを3Dのホログラムで撮影し、あらゆる質問をして人工知能を活用し、ホログラムで登場した生存者が、いつの時代になってもホロコーストについてリアルタイムにインタラクティブに語ることができるような取組が進んでいる。特に「ホロコーストはなかった」という、いわゆる「ホロコースト否定論」が反ユダヤ主義者から多く主張されることもあり、ユダヤ人らがホロコースト生存者の生きた証言を次世代に残しておこうと躍起になっている。

VRで次世代にホロコーストの記憶を

 また3Dやホログラムでのインタラクティブな対話以外にも、VR(仮想現実)技術を活用して、生存者の証言を残したり、ホロコースト時代の生活や収容所の様子などを伝えようとしている。イスラエルは「スタートアップ・ネーション」と言われるほど、多くの起業家がスタートアップ企業を立ち上げているが、その中でVRを活用してホロコースト時代の生存者の証言や、当時のゲットーや収容所での様子をVRで伝えようとしている企業もある。

 またイスラエルの大学IDCで映画を専攻している学生もホロコースト時代の生存者の証言と当時の様子をVRで伝えようとしている。「Fragment」というタイトルのVR作品。「次世代にホロコースト時代の証言と様子を伝えていくことはとても重要なことだ。この映像は未来の若者のために制作されている。我々の子供たちの世代は、もうホロコースト生存者と会うことはできないだろうから」と制作者のItamar Duschnitzky氏は述べている。

 また「我々の夢は、VRでホロコースト生存者の証言集の図書館を作ることだ。そうすれば、全ての生存者が、彼ら自身のストーリーを語ることができる。それらを次世代の若者らに見てもらい、ホロコーストが何だったかを感じ取ってほしい」とコメント。

▼イスラエルの大学IDCの学生が制作した「Fragments- Virtual Reality Holocaust Testemonies」の紹介動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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