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存廃めぐり揺れる阿武隈急行線 赤字補填を拒否した柴田町は「悪者」なのか 背景にある自治体間の不公平感

清水要鉄道ライター
阿武隈急行8100系

福島県の県都・福島市の福島駅と宮城県柴田郡柴田町の槻木駅とを結ぶ第三セクター鉄道「阿武隈急行」が存廃をめぐって揺れている。宮城県は鉄道からバス・BRT(バス高速輸送システム)等に転換した場合の輸送主体や設備投資、ダイヤ、ルートについての検討を始めており、10月末までに沿線自治体と意見を集約する方針だ。阿武隈急行の令和5(2023)年度の赤字額は5億1200万円あまりで、累積赤字は14億円を超える。

また、今月10日には沿線自治体のうち柴田町が、同社の赤字を補填するための欠損補助金(昨年度分2358万円)を支払っていないことが明らかになった。赤字の続く阿武隈急行に対しては福島、宮城両県と沿線5市町(福島市・伊達市・丸森町・角田市・柴田町)が赤字額を補填することが、昨年度から取り決められている。負担比率は福島県側と宮城県側で1対1で、県が半分を支出し、残りは市町間が協議して負担することになった。宮城県側負担のうち3市町の負担は50%となるが、25%を3市町で均等に分割し、残りの25%は定期券利用者数に応じて、柴:角:丸=16:65:19の比率で分割されており、最終的な柴田町の負担率は宮城県側比で12.33%と計算される。

槻木駅で発車を待つAB900系
槻木駅で発車を待つAB900系

柴田町は「負担割合の合意に至っていない」ことを理由としており、副町長は「赤字額減少に向けた阿武隈急行側の具体的な方針・努力が見えず、単に赤字だからといって町が税金で補填するとは町民に説明できない」とtbc東北放送の取材に応えている。柴田町は負担割合の見直しを主張しており、意見を通すためにサボタージュに出た形と言えよう。

「赤字減少への方針、努力が見えない」宮城県柴田町が”阿武隈急行”への補助金支払い拒否 知事は「覚悟が必要」(tbc東北放送)

阿武隈急行線(左)と東北本線(右)
阿武隈急行線(左)と東北本線(右)

報道の見出しの印象ではまるで柴田町が悪者のように思えてしまうが、ここで柴田町の置かれた状況も勘案してみよう。

柴田町は阿武隈急行線の宮城県側の起点で、町内にはJR東北本線も通っている。町の中心は東北本線の船岡駅周辺で、阿武隈急行線が通っているのはどちらかといえば町外れだ。仙台への通勤通学者は多いものの、その大半は東北本線かマイカー利用で、阿武隈急行線を利用するのは町の南東端に位置する東船岡駅周辺の住民に限られる。町内在住者のうち同線の主な利用者として考えられるのは、角田・丸森・福島方面への通勤・通学者だが、仙台方面ほどには需要が大きくないというのが実情である。

東船岡駅
東船岡駅

町内にある同線の駅は槻木と東船岡の二つだ。令和3(2021)年度の一日平均乗降人員は槻木駅が718人、東船岡駅が188人。決して少なくない数字だが、槻木駅の数字にはJRへの乗換客が含まれていることや、隣の角田市にある角田駅が1,078人というのを考えると、柴田町においては角田市ほどには阿武隈急行線が重要な存在ではないという現実も見えてくる。

営業距離で見てみると、宮城県側のあぶくま~槻木間28.1キロのうち、柴田町内を走るのは約4.3キロ。ちなみに角田市内を走るのは約11キロである。

角田市、丸森町ともに阿武隈急行線以外の鉄道がなく、同線は仙台方面への通勤通学等になくてはならない路線という位置づけだ。そんな2市町と比べると、他に東北本線もある柴田町にとって町外れを走る阿武隈急行線に対する熱意が薄いのも頷ける話である。

角田駅
角田駅

柴田町の南に隣接する角田市は宮城県側の沿線自治体では唯一の市だが、今年5月1日時点での人口は26,361人と、柴田町の37,234人よりも少ない。市内には岡、横倉、角田、南角田の4駅があり、阿武隈急行線が市内中心部を南北に縦断する形だ。昨年10月には角田市と市内の商工業者が利用促進協議会を設立しており、柴田町と比べると路線存続に対する姿勢は積極的だ。

丸森駅
丸森駅

角田市のさらに南にあるのが伊具郡丸森町。人口11,021人、福島県との県境に接した宮城県最南端の町で、町の西北部を阿武隈急行線が通っている。町内にあるのは北丸森、丸森、あぶくまの3駅で、県境のあぶくま駅は秘境駅として知られる。県境の山間部を前に丸森で折り返す列車も多い。町の中心は丸森駅から阿武隈川を挟んだ対岸にあり、少し離れているのが利用促進の上での課題だろう。国鉄時代には丸森線を名乗っていた同線は丸森駅を終点としており、昭和61(1986)年7月1日に阿武隈急行に転換、同時に横倉、南角田、北丸森の3駅が新設された。県境を越えて福島県側までが全通したのは昭和63(1988)年7月1日である。

福島市内を走る8100系
福島市内を走る8100系

3市町の足並みが揃わない宮城県側とは対照的に、福島県側(福島市・伊達市)は存続に向けて積極的な姿勢でまとまっており、こちらでは廃止も視野に入れた動きは特に見られない。福島県側の負担割合は、自治体負担額のうち半分を営業距離に応じて負担(福:伊=35:65)、残りの半分を駅利用者数に応じて負担(福:伊=64:36)となっており、結果的にほぼ対等な負担となっているためか、負担割合に対する不公平感もないようだ。

仙台駅に乗り入れた8100系
仙台駅に乗り入れた8100系

阿武隈急行線の令和3(2021)年度の輸送密度は1,076人/日で、ピークを迎えた平成5(1993)年度の2,351人/日と比べると半分以下にまで減少している。とはいえ、東北地方のローカル線の中ではかなり健闘している方で、同年度の陸羽東線の660人/日や石巻線の974人/日といった数字と比べればそれがわかる。

宮城県内の沿線3市町の人口は平成2(1990)年度の92,501人から今年の7,4616人まで、約34年で1万8千人近く減少しており、少子化で通学利用が減ったことや車社会であること、災害による不通があったことを踏まえれば、阿武隈急行は持ちこたえている方だろう。負担割合がおかしいという柴田町の主張には一理あるものの、「経営努力が足りない」は言い過ぎではないかと思う。

ただ、今後も阿武隈急行を維持していくことを考えるなら、JRとも協力した上で、朝夕二往復しかない仙台直通列車の増便などの施策を行っていく必要があるのも確かだ。

丸森で発車を待つ8100系
丸森で発車を待つ8100系

路線の存続には沿線自治体が存続に向けて足並みを揃えることが重要である。柴田町の協力を得るためにもまずは負担割合の見直しが不可欠であるが、柴田町の負担を減らせば、必然的に角田市・丸森町あるいは宮城県の負担が増えることになる。たとえ負担が増えたとしても路線の存続に必要だからと両市町が引き受けるかどうかが、存続の鍵となるが、いずれの自治体も財政状況は厳しい。養老鉄道への補助金等にふるさと納税を活用した岐阜県揖斐郡池田町のようにふるさと納税を活用するのも手だろう。

また、県内の自治体間の利害調整役を買って出るべき宮城県にも、阿武隈急行の問題を3市町任せにするのではなく、積極的な姿勢を見せてもらいたいものだ。

鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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