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ジャニー喜多川さんがくも膜下出血で他界される くも膜下出血はどんな病気? 予防や緩和ケアはあるか?

大津秀一緩和ケア医師

ジャニー喜多川さんが亡くなられた原因はくも膜下出血

ジャニー喜多川さんが87歳でお亡くなりになったと報じられています。

ジャニーズのアイドルを通して、多くの方に夢と希望を与え続けて来られたと思います。

深く哀悼の意を表します。

ジャニー喜多川さんは先月18日から入院中だったとのことです。

その原因となったのがくも膜下出血です。

くも膜下出血は有名な病気ですが、当事者とそのご家族以外はあまり詳しく知らないことも少なくないでしょう。

そしてまた、くも膜下出血等の脳血管疾患は一部海外では緩和ケアが必要な病気だと捉えられています。

それらを含めて改めて解説したいと思います。

くも膜下出血は脳血管疾患に含まれる

平成30年の統計によると、脳血管疾患は死因の第4位で、がん・心疾患・老衰についで多く、年間約11万人が亡くなります。

ただ脳梗塞で6万人、脳内出血で3万3千人が亡くなるのと比べると、くも膜下出血は1万2千人と脳血管疾患の中では少ないです。

このように脳血管疾患のうちでは死因となる数自体は少ないものの、ひとたび発症するとかなり厳しい経過をたどることが知られています。

  • 発症すると約40-50%の方が死亡
  • 助かっても重大な後遺症が残る方が約30%
  • 社会復帰できる方は約30%

とされます【くも膜下出血】。

筆者も研修医時代に、仕事中にウッとうめいて昏倒し、そのまま心肺停止になって運ばれてきた30代前半の男性を救急で診療したことがあります。

蘇生をしながら頭部CT検査をすると、くも膜下出血でした。

病院に到着する前にも10-15%が死亡するとされます。

非常に厳しい病気なのです。

くも膜下出血の原因は? 治療は?

脳の血管に動脈瘤(どうみゃくりゅう)というコブのような膨らみができ、それが破裂することで発症します。

動脈瘤によっても破裂しやすさは変わりますが、総合すると年0.5-3%の破裂の危険性があるとされます。

脳動脈瘤は頭部MRA検査といって、MRIの機械で脳の血管を描出させる方法等で診断することができます。

問題は、そのような未破裂の脳動脈瘤を発見した際に、それが一生涯のうちに破裂するのか、破裂しないのか、それを100%予測するのが困難であることです。

治療としては1)開頭手術(脳動脈瘤クリッピング術)と2)血管内手術(血管からカテーテルを進め、動脈瘤にコイル等をつめる方法)があります。

だったら、先にこれらの治療を行えば、その不安もなくなる……と思いきや、未破裂の脳動脈瘤の治療に関しては、約5%程度合併症や後遺症を発生する可能性があるとされているのです。

そのため、治療を提供している病院でよく相談して、治療如何を決定することになるでしょう。

また脳動脈瘤が破裂した場合も、上述の開頭手術や血管内手術で治療します。

一度破裂した脳動脈瘤は再破裂しますが、これが曲者で、再破裂すると死亡したり重い後遺症を残したりします。

私もかつて救急の現場で、歩いて救急外来にやって来られて頭痛も軽微だったところを、数日前からの前兆の症状や突然の頭痛であるとの訴えから頭部CTを行って即診断をつけたのにもかかわらず、脳神経外科のある病院への搬送を待つ僅かな時間に再破裂して昏睡状態になってしまった50代男性の事例を経験しています。

無事に再破裂を起こさずに手術等を終えることができても、そこからもハードルがあります。

脳血管攣縮(れんしゅく)といって、くも膜下出血によって脳の血管が影響を受けて細くなってしまい、今度は脳梗塞を起こしてしまうことがあります。これはくも膜下出血が起こってから4-14日目くらいに出ます。頻度は20-55%に及びます。

この脳血管攣縮も後遺症を残しうる病態です。

また手術等の後に一時的に良くなったように見えた方が再び悪くなったように見えるのも、脳血管攣縮が出現・深刻化したからという場合もあるのです。

他にも水頭症といって、脳室という部分が大きくなる病態が10-30%で起こります。これも適切な処置を必要とします。

このように一度発症すると大変ですが、かと言って脳ドック等で未破裂で見つけても、治療については合併症等の頻度から判断が悩ましいのが脳動脈瘤なのです。

またひとたび発症すると重症の場合は意識障害等から意思表示をするのが難しいことも多く、また発症するや否や終末期医療となりうる場合もあるのです。「ご本人の意思はどうなのか?」という終末期医療の問題に他の病気と同様に直面するのが、重いくも膜下出血です。

では何に気をつけたら良いのか?

くも膜下出血の危険因子は下記とされています。

・喫煙習慣 1.9

・高血圧  2.8

・過度の飲酒(1週間に150g以上の飲酒)4.7

それぞれがあると右の数字をかけた分リスクが上昇します。

これらの要素がある方は、それを治療・改善するのが良いでしょう。

またくも膜下出血の発症時は、突然の強い頭痛が特徴です。他に意識障害や嘔吐も起こります。

一般に「カナヅチで叩かれたような」等と形容されるような激しい頭痛ですが、軽い場合もあります。

前兆が数日前からあるケースも存在し、やはり急な頭痛や目の異常、めまい、吐き気などが出現します。

とにかく急に激しい頭痛を自覚した場合は、他の病気でも問題がある疾患である可能性も存在するため、すぐに受診することをお勧めします。

余談ですが、私は緩和ケア医なので、なぜ予防の話をするのか、緩和ケアと予防という言葉が結び付かない方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、緩和ケアの世界保健機関による定義では「prevention and relief of suffering」とあり、苦痛を「予防」することも緩和ケアの手段と考えられています。

苦痛を予防するには、できるならば病気を予防するのに越したことはありません。

複数の疾患を持つ方も増えており、今現在がんなどの病気にかかっていたとしても、他の病気の発症を防ぎ、ひいては生活の質を保ってゆくことは重要だと考えて、予防にも力を入れています。

くも膜下出血などの脳血管疾患にも緩和ケアがある

緩和ケアというと「がん」「末期」のイメージが非常に強いです。

しかし実際は、「がんだけではなく」「末期だけではない」のが緩和ケアです。

むしろがんでは早期から(診断時から)緩和ケアを受けることががん対策推進基本計画によって推奨されています。

全米の調査では'''脳卒中患者395411人のうち、何らかの緩和ケアを病院で受けたというコード記録が残っているのは6.2%'''とされています。そう、脳血管疾患でも緩和ケアを受けられるのです。

具体的に緩和ケアの担当者が何をするかというと、つらい症状を和らげることは当然そうですが、治療の意思決定をご家族や主担当チームと共に行い、またそれを支援するのです。

緩和ケアというと症状緩和だと思われていますので、「症状がないからかからない」という誤解が色濃くあります。

実際には、病気とうまく付き合う方法や生活を支援したり、このような急性疾患では患者さん本人に代わって決断しなければならないこともよくあるご家族や医療チームを支援することも大切な緩和ケアの役割なのです。私もしばしば脳血管疾患の後遺症等での今後の方針についてクリニックで相談を受けています。

脳血管疾患でも緩和ケアがあるのです。

ただし、病院の緩和ケアチームの保険適用はがんとAIDS、末期心不全のみでくも膜下出血などの脳血管疾患は含まれません。それなので普及には厳しい状況が続いています。

まとめ

医療が進歩した現代であっても、くも膜下出血は厳しい病気です。

予防に努めるのは大切ですし、発症時は速やかに対処することが重要です。

ご家族として大切な方の発症後の意思決定に関与することもあると思います。

その際は主担当医療チームや、利用できる病院ならば緩和ケアチームの担当者等ともよくコミュニケーションを図り、良い決断をされてほしいと思います。

ジャニー喜多川さんの病室では、様々な楽曲が流れ、タレントも絶えることなく訪れ、ジャニーさんとの思い出を語り合ったとのことです。

思いが届く最上のケアとなったであろうことは想像にかたくありません。

緩和ケア医師

岐阜大学医学部卒業。緩和医療専門医。日本初の早期緩和ケア外来専業クリニック院長。早期からの緩和ケア全国相談『どこでも緩和』運営。2003年緩和ケアを開始し、2005年日本最年少の緩和ケア医となる。緩和ケアの普及を目指し2006年から執筆活動開始、著書累計65万部(『死ぬときに後悔すること25』他)。同年笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。ホスピス医、在宅医を経て2010年から東邦大学大森病院緩和ケアセンターに所属し緩和ケアセンター長を務め、2018年より現職。内科専門医、老年病専門医、消化器病専門医。YouTubeでも情報発信を行い、正しい医療情報の普及に努めている。

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