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ロシアが北方領土に新鋭ミサイルを年内に配備か 露国防相が発言

小泉悠安全保障アナリスト
2015年、択捉島のロシア軍基地を訪問したメドヴェージェフ首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

北方領土に新鋭ミサイルを配備?

ロシアによる北方領土の軍事力近代化がついに本格化する兆しが見え出した。

25日、ロシアのショイグ国防相が、クリル諸島(北方領土を含む千島列島)に新型地対艦ミサイルを年内に配備することを決定したと発表。将来的に海軍基地の建設も検討するとした。

報道によると、配備される地対艦ミサイルは射程300kmのK-300Pバスチョンと同130kmのバールとされている。どちらもトラック式の移動発射システムである。配備は計画的な軍事力近代化の一環として年内に行う。

配備先が北方領土であるかどうかは言明されていないが、これまで北方領土以外の千島列島に大規模な戦闘部隊が配備されたことはない。また2012年にはマカロフ参謀総長(当時)がバスチョンかバールのいずれかを北方領土に配備すると発言していたことなどから、これらのミサイルが北方領土に配備される可能性は非常に高い。

従来、北方領土には主として地上部隊が配備され冷戦期には戦闘機部隊も常駐していたがソ連崩壊後に撤退)、地対艦ミサイルは旧式のものがごく少数存在するだけだった。一方、バスチョンは今のところ、黒海と北極海だけに配備されている最新鋭システムで、極東では最近になって沿海州の部隊に配備されたばかりである。北方領土への配備が実現すれば、極東では二例目ということになる。

北方領土に配備されると見られるバスチョン地対艦ミサイル・システム
北方領土に配備されると見られるバスチョン地対艦ミサイル・システム

千島列島に海軍基地設置も

艦艇を千島列島に常駐させるという構想もこれまでになかったものである。

ショイグ国防相によると、4月以降、3ヶ月間に渡って太平洋艦隊の艦艇を派遣し、将来的に海軍基地を建設可能かどうか検証するという。前述のように千島列島全体が検討の対象になるとされていることから、おそらくは3ヶ月かけて1200kmに渡る列島の島々を一つ一つ調査するのではないかと思われる。

現在、ロシア太平洋艦隊はウラジオストク周辺とカムチャツカ半島を主な拠点としており、千島列島には艦艇の基地は存在しない。

北方領土は海峡コントロールの拠点へ?

昨年カムチャッカ半島に配備された新鋭戦略原潜アレクサンドル・ネフスキー
昨年カムチャッカ半島に配備された新鋭戦略原潜アレクサンドル・ネフスキー

最近の小欄では、ロシアが核抑止力と北極海航路の掌握のためにオホーツク海における防衛態勢を強化しつつあり、北方領土の軍事力近代化はその一環として捉えるべきである旨書いた(「カムチャッカ半島に生えたタケノコの正体 オホーツク海の防衛体制を強化するロシア」)。

オホーツク海は弾道ミサイルを搭載した戦略原潜のパトロール海域であるばかりか、北極海航路の南端をも構成する、ロシアにとっての重要海域である。

北方領土はまさにその出入り口を扼す位置を占めるが、これまでは島自体を防衛するための小規模な地上兵力が主体だった。しかし、ここに長射程対艦ミサイルが配備されれば、宗谷海峡や国後水道といったチョーク・ポイントを射程に収めることになる。

こうなると、以前も書いたように、北方領土の軍事力が「強化」されるというよりは、新たな性質へと「変質」したと見るほうがよいだろう。

もちろん、このタイミングでロシアが計画を公表した背景には、対日関係という要素も見逃せない。特に来月以降にはウクライナのポロシェンコ大統領の訪日、安倍首相の訪露があり、年内のプーチン大統領訪日も取り沙汰されている。

こうした中で北方領土の軍事力近代化をプレイアップすることは、日本に対する交渉カードになるとの読みがあるものと考えられる。

(2016/3/25追記 北方領土の配備兵力に関して事実関係の誤りがあったため一部訂正しました)

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「北方領土に行ってみた」

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安全保障アナリスト

早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、国会図書館調査員、未来工学研究所研究員などを経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。主著に『現代ロシアの軍事戦略』(筑摩書房)、『帝国ロシアの地政学』(東京堂出版)、『軍事大国ロシア』(作品社)がある。

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