〔能登半島地震〕各地で罹災証明書の受付が始まる 本人確認資料なくても柔軟に対応を 写真も必須ではない
2024年1月1日に発生した能登半島地震で、罹災証明書の申請受付が始まっています。罹災証明書とは、住家被害等の程度を示した書面です。被災世帯から申請があった場合は、市町村が調査の上で罹災証明書を発行する法的義務を負っています(災害対策基本法90条の2)。やや細かい論点になりますが、念のため2つの留意点をご説明しておきたいと思います。なお、本記事は1月9日配信当時の情報に基づいています。行政の発信する情報は随時変更されることもありますので、十分注意してください。
本人確認書類がなくても大丈夫、珠洲市は丁寧に記述
ほぼすべての自治体で、罹災証明書の申請の際に窓口で運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類の持参・提示を求めています。しかし、深刻な被害を受けて避難生活を送っている方々の中には、貴重品を持ち出せなかった方も多いはずです。取りに帰るとしても、倒壊など二次被害の恐れがある場合は、あまりに危険ですので絶対に家屋に立ち入らないでください。
石川県珠洲市では1月9日から罹災証明書の受付を開始しました(珠洲市「り災証明の申請受付を始めます[9日から]」)。必要なものとして、「本人確認書類(マイナンバーカードや免許証など) ※お持ちでない方も受付可能です。受付時に申出てください」との記述があります。本人確認書類がなくても、安心して窓口で罹災証明書の申請をしてください。なお、案内当初は「※お持ちでない方も受付可能です。受付時に申出てください」の記述はありませんでした。現場のニーズを受けて、誤解がないように後から記述を追加してくれました。丁寧できめ細やかな被災者に寄り添う情報発信です。
実際に窓口で住所、氏名、生年月日などが申告されれば、住民基本台帳情報と照合すれば目の前の方の本人確認はさほど困難ではありません。柔軟な対応ができるはずです。
写真は罹災証明書申請の必須資料ではない
災害直後に住家被害の状況を保存しておくために写真撮影が推奨されています(政府広報「災害で住まいが被害を受けたとき最初にすること~被害状況を写真で記録する~」)。そのこと自体はとても大切です(NHK「被災に備える豆知識」)。可能なら写真撮影はしておくべきです。しかし、危険を冒してまで写真撮影することは絶対にしないでください。身の安全こそ第一です。
そもそも、罹災証明書の申請の際に、法律的に写真撮影は必須ではありません(Yahoo!ニュースエキスパート「罹災証明書の申請に写真や見積書は要らない―自治体窓口の運用改善と脱・申請主義へ」)。被害認定が「一部損壊」認定でよい場合の自己判定方式の場合や、市町村の方針により写真提示で一層早く被害認定できる可能性がある場合などに限り、運用上写真が必要になるだけです。少なくとも、一律で、罹災証明書の申請に写真が必須だということはありません。写真がなければ罹災証明書は一切もらえない、というのは間違いなのです。
令和6年能登半島地震をうけた上記の珠洲市のウェブサイトでは罹災証明書の申請の資料としては、写真には言及されていませんが、これでよいと思います。ところが、市町村の中には、上記のような自己判定方式でもないのに、必要書類で被害家屋の写真撮影を必須としているように読めてしまうウェブサイトがかなりの数あります。よく読めば写真が任意であることがわかる場合もありますが、必要書類の項目に、特に条件も付けずに「被害状況がわかる写真」などと記述してしまっているケースも多いのです。このような説明は、被災された方に誤解を与え、危険な行動を促してしまうおそれがあるので、直ちに正確な記述に改められるべきです。
(参考文献)
日弁連『罹災証明書交付申請において、被害住家の写真の提出を求める等の取扱いの是正を求める意見書』(2023年9月)
岡本正『被災したあなたを助けるお金とくらしの話 増補版』弘文堂2021年
岡本正『災害復興法学Ⅲ』慶應義塾大学出版会2023年