北朝鮮軍の20代兵士「不純録画物」巡り暴行死の悲劇
北朝鮮の首都・平壌の朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の部隊に勤務する20代の兵士が、「不純録画物」を見て流通させた容疑で摘発されたが、取り調べの過程で暴行を受け死亡し、当局が調査に乗り出した。デイリーNKの軍内部情報筋が伝えた。
平壌郊外の郊外の三石(サムソク)区域にある91訓練所は、事実上の平壌防衛司令部だ。そこの乗用車管理所で運転手として勤務していた20代の下戦士(二等兵)のキム氏は、訓練所と市内を行き来していたが、道すがら入手した不純録画物を見ていた容疑で先月27日、訓練所の保衛部(秘密警察)に逮捕された。
この不純録画物は韓流コンテンツを指すことが多いが、中国やロシア、ヨーロッパのドラマ、映画、アダルトビデオなども含まれる。
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保衛部は、キム氏を営倉に勾留して、自白を引き出すための取り調べを行ったが、翌朝まで続いた取り調べに反感を抱いた彼は、ドアを押し開けて逃走を図った。しかし、すぐに営倉管理隊員(留置係)4人に捕まり、10分以上にわたって暴行を受け続けた。
キム氏は営倉に戻されたが、後に死亡しているのが発見された。
91訓練所指揮部は、営倉管理隊員を呼び出し、取り調べを始めた。4人は、キム氏を拳で殴りつけ、足蹴にした上で、失神するまで銃床と棍棒で殴りつけていたことがわかった。
4人は、キム氏に逃げられれば上部から厳しい叱責を受けるため、瞬間的に怒りを爆発させて力任せに暴力をふるったと陳述した。
軍では10月から、総政治局に指示に基づき、不純録画物に対する大々的な検閲(監査)が行われていた。訓練所の保衛部は当初、キム氏から不純録画物の入手先を聞き出そうとしていたが、死亡したことで、捜査ができなくなってしまった。
91訓練所は、キム氏の遺族に「訓練中の不注意による死亡」と虚偽の死因が記された死亡通知書を送った。この話が部隊の中で広まり、「自分たちは殴り殺されても、訓練中事故死という通知書1枚で済まされてしまう」などと、力のない末端の兵士の扱いを嘆いている。
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訓練所は、キム氏と同じ地域の出身者に、家族に電話をしたり手紙を送る際はもちろん、除隊後に実家に戻っても事件について話さないようにかん口令を敷いている。
一方、キム氏を死亡させた4人に対しては、訓練所隊列部(人事部)によって一階級降格と、2カ月の労働鍛錬刑(懲役刑)、一般区分隊への配属という軽い処分で済まされた。これについては「彼らは全員、訓練の責任幹部や上部部隊がバックに付いているから、即決で軽い処分で済まされた」と批判的な声が上がっている。