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12年連続でリーグ年間三振数を更新! 一発攻勢をさらに明確にするMLBのトレンド

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ここまでリーグ1位の188三振を記録しているロナルド・アクーニャJr.選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【年間三振数が12年連続でMLB記録を更新】

 すでに本欄でも報告しているが、今シーズンのMLBは2017年に樹立した年間本塁打数6105を突破し、今もその記録を伸ばし続け、現在は6500本を超えている。

 そんな本塁打量産が続く一方で、9月24日に新たなMLB記録が誕生した。ESPNが報じたところでは、この日で年間三振数が昨シーズンの4万1207個を突破し、この結果12年連続でMLB記録を更新し続けているという。

 改めてデータをチェックしてみても、2008年に当時のMLB記録だった年間三振数3万2404個(2001年に樹立)を更新して以降、毎年のように三振数が増え続けているのが確認できる(以下、データの参照元は『Baseball Reference』)。

【ステロイド時代と現在の相違点】

 2008年以前に年間三振数記録を樹立した2001年といえば、MLB史の中でも負の遺産と言われる「ステロイド時代」全盛期の頃であり、“打高投低”と言われていた時代だ。

 それを裏づけるように、その前年の2000年には、2017年まで更新できなかった年間本塁打数5693本を記録している。

 そこで当時と現在の本塁打数と三振数を人数ベースで比較してみると、2000年の年間20本塁打到達選手数は102人だったのに対し、今シーズンここまでの達成者数はすでに124人に達している。

 しかもここまで19本塁打を記録している選手も8人おり、シーズン終了までにはもう少し増えることになりそうだ。

 一方の三振数は、2000年の年間100三振到達選手数が57人に対し、今シーズンは現時点ですでに152人に達している。もちろんこちらもシーズン終了までには間違いなく増えることになるだろう。

【今も続いている“投高打低”】

 如何だろう。ステロイド時代と比べて、本塁打を量産できる打者が増えている一方で、それ以上に三振を繰り返す打者が急激に増えているのが理解できるだろう。

 実は、本塁打が量産される状況で見えにくい面ではあるのだが、現在は今も尚ステロイド時代が終焉して以降から続いている“投高打低”の時代にあるといえるのだ。

 使用サプリメントが厳格化されて以降、年間本塁打数は減少傾向にあった。2007年に10年ぶりに年間5000本を割り込むと、2016年に“飛ぶボール”疑惑が巻き起こり本塁打が量産されるようになるまで、年間5000本を超えたのは2009年(5042本)の1度だけだった。

 その傾向は、単に打者のパワーが落ちただけではなく、投手の台頭も大いに影響している。逆に投手はパワー化が進み、彼らの球速が確実に上がり始めていった。時速160キロを超える投手が次々に登場し、今も打者たちを圧倒している

 それを物語るように、年間リーグ打率は、ステロイド時代から比べるとかなり落ち込んでいる。1999年には.271を記録しているが、それをピークに減少傾向にあり、2010年以降はずっと.250台に留まっている。

 今シーズンも年間本塁打数を更新している一方で、リーグ打率は.253と決して高くはないのだ。

【確実に起こり始めている“質”の変化】

 これらのデータからも理解できるように、ステロイド時代と比較すれば、現在は間違いなく“投高打低”といっていい。だがここ数年を見てみると、同じ“投高打低”の傾向でも、その“質”は明らかに変化している。

 それがリーグ長打率だ。

 従来の傾向ならば、打率が低下すれば、それに合わせるように長打率も低下するものだと思われてきた。しかし前述通り、2010年以降リーグ打率は.250台に低迷しているにもかかわらず、ここ数年リーグ長打率は確実に上昇しているのだ。

 2010年からリーグ長打率は.400前後で推移していたのだが、2016年に.417まで上昇すると、2017年.426、2018年.409と推移し、今シーズンは.436まで上がっている。これはステロイド時代の2000年(.437)に匹敵する数値だ。

【現在の勝利のカギはチーム本塁打数?!】

 こうした“質”の変化は、野球そのものをも変え始めている。現在のMLBは、低打率を覚悟しながら少ないチャンスで確実に得点するため、より長打を狙いにいく野球に変化している。つまり、チームとしてバランスよく本塁打を量産できるかが、勝敗のカギを握っているということになる。

 単純に今シーズンのチーム本塁打数をチェックしてみても、1位のヤンキースから、2位ツインズ、3位アストロズ、4位ドジャース、5位アスレチックス、6位カブス、7位ブレーブス、8位ブルワーズ──と、上位8チームはすべてポストシーズン進出を決めているか、現在争っているチームばかりだ。

 未だに燻り続ける“飛ぶボール”問題、さらに最近の打撃理論として注目されている「フライボール革命」等々、現在のトレンドを生み出した要因は様々考えられる。

 だが1つだけ断言できるのは、現在のMLBでは、本塁打が打てる打者がより評価されるということだ。今後日本人野手のMLB挑戦がますます難しくなっていくのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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