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【9月入学は政治災害になりかねない】新1年激増?、学びの空白、超少子化加速【子ども若者の混乱と犠牲】

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:アフロ)

コロナのどさくさにまぎれた拙速な9月入学は政治災害になりかねない

 あえて政治災害、という厳しい言葉で指摘したのは、政治家のみなさんに知っていただきたいからです。

 拙速な9月入学が、子ども・若者に多くの犠牲者を出しかねず、日本社会全体がいま以上のさらなる混乱に陥るリスクすらある非常に危険な選択肢であることを。

 乳幼児の保護者を中心に9月入学反対の声も多くなっています。

 

 拙速な9月入学の検討は待ったほうがよい、もっと別の課題が多いという指摘は、有識者や学校現場からも多数声があがっており、署名活動も展開されはじめました。#9月入学本当に今ですか?(5/22追記)

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 非常時に、社会の不安につけこみ、大胆な改革をしようとすることをショックドクトリン(惨事便乗型政策)といいますが、この記事ではそれをわかりやすく政治災害と言い換えています。

 田中良紹 コロナ禍で喪いつつあるレガシーを「9月入学」で取り戻すのか?

 島根県の丸山達也知事は拙速な9月入学論を、「自宅が燃えているときに消火しながら、バーベキューをやろうというふうに聞こえる」と非難なさったようですが、共感します(日刊スポーツ5月1日記事)。

 “コロナをきっかけに社会を刷新していくためにも、9月入学の課題も検討すべき”という主旨の発言をなさった方もおられますが、刷新というあいまいな言葉で達成したい政策的価値は何でしょうか

 9月入学賛成派の方々には慎重派からの懸念にしっかり正面から向き合って議論をしていただきたいと思います。

 

 とくに9月入学を主張しておられる知事さんたちや、政党として全学年の9月入学を、と主張しておられる日本維新の会、国民民主党は、そのコストとメリットの詳細な予測を示されるべきでしょう。

 若者や子育て世代の支持者は、いまみなさん方の言動にとても注目しているはずです。

 

 9月入学移行にかかる人的金銭的に膨大なコスト負担がどの程度で、それは国や地方の負担が可能なのか、この記事に書くようなリスクや懸念にどのようにきめ細かく対応していくのか。

 

 残念がら賛成派のみなさまの立証責任や説明責任が、現時点ではまったくと言っていいほど果たされていないように思われます。

 

 とくに政党として9月入学を主張なさっている国民民主党の議員のみなさま、日本維新の会の議員、一部与党議員のみなさまが、2021年9月入学・始業ならば、このように犠牲を出さず利益や効果を最大化できる、という論拠をお示しいただけることを、子育て世代でもある一選挙民として期待しております。

 今年度受験生への緊急対応としての、大学の複数回入試・入学(9月入学)は私も現実案のひとつだと考えます。

 

 しかしなぜすべての学校段階や日本社会全体での9月入学対応を、コロナ災害の収束すら見通せない今検討するのか、理解に苦しむ、というのが私の一貫した立場です。

緊急対応としての9月入学と、全学年・社会全体での9月移行は分けて考えないと危険

2021年9月に世界中のコロナ感染が収束する見通しは確かなのか?

 2021年9月に世界中でコロナが収束していないと、大学留学等のグローバル化への対応を強調して9月入学を強行しても、意味をなさないはずです。

 政府専門家会議は、2021年9月の世界での収束を明言できるのでしょうか?

 グローバル化への対応を考えるならば地球規模での感染収束が前提ですが、それは実現可能なのでしょうか?

 山中伸弥京都大学教授は「新型コロナウイルスへの対策は長いマラソン」であり、「その後の持久走」も大事とおっしゃっておられます。  

 わからないことが多い新型コロナウイルスに対し、楽観にもとづく来年度9月入学を強行することは、政治家として適切な行動なのでしょうか?

 コロナ感染拡大期の進学や就活への対応を最大限柔軟に対応することと、保育園・幼稚園や受験学年以外の学年の来年度9月開始は分けて論じないと危険です

 また社会全体の9月移行は、可能なのでしょうか?

 全学年9月移行は膨大なコストとともに犠牲を生み出すリスクの高い政策オプションです。

 私自身は、web論座5月10日記事で、感染収束状況に応じて、例年スケジュールに近い冬入試と、9月入学を前提にした夏入試を「緊急かつ柔軟に」行うことを提案しています。

 コロナ対応の文科省通知では、自学自習をがんばった高校3年生の個別努力を、校長が単位認定できれば卒業時期を3月にすることも可能です。

 もちろんしっかり学んだり、入試・就活準備をしたい方のためのために、卒業時期を柔軟化させたり、複数回入試・就活のルール整備をすることも、最優先事項です。

 感染収束を明確に見通せない以上、2021年9月で決め打ちせず、進学の機会保障については、複数回の対応を柔軟に行うことが、大学・専修学校などの学校教育機関に求められると考えています。

 また高校入試の柔軟対応に都道府県知事・教育長が最優先で取り組むべきことを述べています。

 すでに就活は大学生については柔軟対応が行われていますが、コロナ氷河期対策も急がれなければなりません。

 感染状況次第では、2020年度だけでなく、来年度2021年度も同様の措置が必要になるはずです。

 あまりに乱暴な9月入学移行は、多大なコストとともに、子ども・若者や保護者・学校現場の心を疲弊させ、コロナ災害で疲弊する日本社会の感染収束後の復興を妨げる可能性すらあります。

 Yahoo!オーサーの妹尾昌俊さん  おおたとしまささんもやはり拙速な9月入学が学校だけでなく社会にも大混乱を引き起こすことを懸念されています。

 またマクロ経済学者の中里透上智大学教授も、何が政策目的なのかについて、疑問を呈しておられます。

「9月入学」をめぐる議論のここまでの経過をながめていて不思議なのは、小中学校や高校の授業と行事の円滑な実施に支障が生じている(そのために十分な授業時間を確保するための対策が急務となっている)という現実の切実な問題が、いつの間にか「9月入学にすると日本への留学生が増える(あるいは、日本の学生が海外の大学に留学しやすくなる)」、「高等教育の国際化・多様化が進む」といった形で大学の「秋入学」の問題にすりかわっていることだ。これはちょうど東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策の話が、いつの間にかサマータイムの話になり、サマータイム実施のメリット・デメリットをめぐって新聞やテレビで議論がなされていた2年前の夏を想起させる。

出典:「9月入学」について考える――誰のために? 何のために? 中里透 / マクロ経済学・財政運営

 また9月入学は1986年の臨時教育審議会以降、2013年の東大秋入学断念まで、何度も日本社会で挫折してきました。

 その理由は、移行学年の子ども・若者の学年分断や新入生人口の急増による教育条件悪化、移行に要する多大なコスト(1986年当時で最大1兆8049億円と試算)、また学事歴だけでなく会計年度が変わるなどの日本社会全体に大きな影響を及ぼすからです。

 中曽根元首相のもと行われた「9月入学」のシミュレーション なぜ?30年以上実現しなかった背景

 こうした経緯に精通しておられる文部科学大臣経験者の馳浩議員も「どうも知事会だけが前のめりになり過ぎているのかなと」、不快感を隠さなかった、という報道もされています。

 私自身もとても心配な問題なので複数回、発信をしてきました(Yahoo!個人・末冨・4月30日記事web論座5月3日記事)。

 この記事では来年度の9月入学への移行をシミュレーションしながら、拙速な移行によって心配なことについて、具体的に論じることを目的としています。

 なお私は9月入学賛成派の高校生の意見は大切なものだと思っています。

 みなさんへの不安や悩みへの対応こそがもっとも急がれるのに、日本の政治家や大人の多くは、おそらくそのことを忘れています。

9月入学って素敵ですか?

春夏秋冬から秋冬春夏へ、世代分断、日本の文化的生態系が大混乱する

 図1にざっくりとした9月入学の場合の学事歴シミュレーションを行いました。

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 現行の4月はじまりの学事歴に沿って

 上段:1学期終わりの休業(冬季休業)を約6週間確保するパターン

 下段:3学期終わりの夏季休業を約6週間確保するパターン

 を考えてみました。

 細かくはもっといろいろあるでしょうが、話をややこしくしすぎないために、ひとまずこの程度でお許しください。

 そもそも来年度の9月入学以前のことが何も見えていないことが心配です。

 今年度の授業開始が遅れた高3・中3世代のことを優先して考えるのと、保育所・幼稚園から大学・大学院まですべての学校段階のことを考えるのとでは、必要とされる対策の量やコストもまったく違います。

 またこれを書いていて、感じたのが春夏秋冬、という日本語がだんだん消えていってしまうのだろうな、ということでした。 

 秋冬春夏、新しい日本語に慣れておく必要があります。

 9月入学って素敵ですか? 

 全然しっくりきません、みなさんはどうですか?

 もう私も若くないので、これが世代分断につながっていくのかもしれませんね。

 偉い政治家の方には、古い人間のたわごと、と切り捨てられるのでしょうか。

 

 でも文化のような目に見えないことを切り捨てず、大切にできる社会でいてほしいなとも思います。

 ともあれ9月入学は学校や社会も含め、日本の文化的生態系にも大混乱をもたらすはずです

 象徴的なケースで言えば、卒業ソング、学園ドラマ・漫画は4月入学・始業で蓄積されており、日本文化の世界観が変わる大きな問題ではないでしょうか。

 もちろんその逆に創作意欲が刺激される可能性もありますね。

 文化の世界のみなさんからの発信もお待ちしております。

 また、精神医学や心理学系の方々はお気づきでしょうが、冬季が充実期とされる2学期と重なることもあり、季節性感情障害の患者数にも影響をしてくる可能性もあります。

 

 また春夏秋冬のリズムで生きてきた日本人にとっては、学校(あるいは会社も)が秋冬春夏のリズムに変化することで、慣れるまでに心身の不調をきたす人も多くなると想定されます。

 すでに発達障害や行動・情緒の障害を持つ子ども・大人に関わる教職員や専門職からも、1年のリズムが変わってしまうので、慣れるまでにとても不安定になる人々が出てきてしまうという、心配のご意見が私のところにも届いてます。

 

 政治家のみなさんには社会の様々な弱者にも寄り添う気持ちを大事にしていただきたいですね。

学年分断?新入生激増?義務教育を先進国で最も遅くはじめる?

新小1年生100~140万人「コロナ入学世代」が最大の犠牲者・待機児童46.8万人増推計も(5/22修正)

 9月入学のパターンを以下のように分かりやすく整理いただいているサイトがあります。

 パターン1は学年分断、パターン2は私も心配する新入生激増、パターン3は先進国で義務教育を最も遅く開始させられるこれも心配なパターンです。

パターン1

<学年の区切りを一新する>

9月2日~9月1日生まれが同じ学年

→ 学年のメンバーがぐちゃぐちゃになる。

パターン2

<2021年度の新小1から変える>

新小2以上…4月2日~4月1日生まれが同じ学年

新小1…2014年4月2日~2015年9月1日生まれ

→ 新小1の人数がかなり増える。

2020年度の年中の子も小学校に入学することになってしまう。

パターン3

<学年の区切りは変えない>

現行のまま(4月2日~4月1日生まれが同じ学年)9月新学期にスライドする

→ 半年間ずれるだけ

出典:9月入学になったら幼稚園・保育園はどうなる?新小1の人数が爆増でヤバい!?

 Web論座5月3日記事にも書きましたが、とりあえず入学時期を半年遅らせればいいや、の安易な9月入学には大きな課題があります。

 最大の懸念がパターン2で、乱暴な移行を行うと来年度1.4倍に激増する「コロナ入学世代」の誕生であり、新小1・中1・高1生が犠牲者になります。

 1学年人口をラフに100万人とすると、パターン1,3で約300万人、パターン2で最大で約420万人が犠牲になる政策となってしまいます。

 とくにパターン2の学年激増は心配です。

 急増した児童生徒数や発達段階が17か月異なる子ども集団への対応は教員も未知の世界であり、教育の質を低下させる懸念も高いです。

 それが小学生の場合、高校や大学でも続くだけでなく、就活まで、ずっと長く続いてしまうのです。

 いまのコロナ災害への対応で、最長10年以上にもわたる不利を新入生に負わせるリスクを、政治家のみなさんはご理解いただいているのでしょうか?

 

 もともとの教職員不足の中で、膨れ上がった学年集団に対するケアが丁寧に行えるかどうかといえば、むしろその逆で、十分なケアが行われないまま問題行動や不登校が多発することを、教育行政学の専門家としてほんとうに心配しています。

 私が、政治災害、とあえて厳しい言葉で拙速な9月入学論を批判するのは、移行年度の新入生が「コロナ入学世代」として一生消えないレッテルや不利を追う犠牲者になりかねない政策だからです。 

 

 パターン1は学年分断なので、保育園幼稚園で仲の良かったお友達同士が上下の学年に分かれてしまう。

 パターン3は義務教育開始を遅らせるだけ。

 さらに政府案では、5年かけて9月入学移行という案もでてきましたが、この場合には新たな待機児童が46.8万人でてしまうことが苅谷剛彦オックスフォード大学教授グループの推計で試算されています。

 何が9月移行のメリットなのか、授業時数の確保だけであるならば、受験学年以外は在学中に調整できます。

 

 受験学年以外とそうでない学年との議論を分けた方が良い、というのはこのためです。

 「ゆとり世代」と批判されたことがある世代のみなさんなら、お分かりいただけるのではないかと思います。

そもそも何歳入学?

7才半?6才?5才? 与党内も混乱

 なし崩し的に「就学を半年後ろにずらす」と、たとえば2014年4月生まれの子どもの場合、半年遅れ(7才半)と先進国でもっとも遅く義務教育を開始させられてしまうことになります。

 萩生田文部科学大臣も、この危険性を認識しておられ、「入学年齢を6才にそろえる可能性」も指摘しておられます(産経ニュース5月8日記事 )。

 しかしながら日本政府、とくに自民党は5歳での義務入学を検討してきた経緯があります。

 教育再生実行会議「今後の学制等の在り方について (第五次提言)」

 7才半、6才、5才、何歳から義務教育になるのか、与党内も混乱していることが予想されます。

 ちなみに新中1、新高1でも、なし崩しに半年遅れの就学ですと、進学年齢や社会に出る年齢が遅くなる生徒が出てきます。

 たとえば新高1生のうち4月生まれは16歳半で高校に入学し、19歳で高校卒業になり、世界的にみても中等教育が終わるのが遅い若者集団となってしまいます。

 ひとつだけ言えるのは、イギリスなど5才から義務教育を開始する国もあるなかで、7才半で入学した子どもたちが学びを遅らせられることに何のメリットがあるのか、半年遅れの9月入学賛成派には立証の責任があるということです。

 私もリサーチしていますが、もし教育開始年齢を遅らせることにメリットがあるという説得力あるエビデンスがあるのなら、ぜひお教えいただきたく存じます。

2021年の4-8月の間の子ども・若者たちはどうなる?

学びの空白期間にさらなる格差拡大、私立学校倒産が相次ぎ、高校生・専門学校生等の行き場がなくなる可能性も

 また9月入学の場合、4-8月までの間の学校がどうなるかは大問題です。

 コロナ感染の収束が遅れれば、補習や学校行事が行えるかもしれません。

 しかし、学校再開が早い地域では、4月入学が可能なのですが、子どもたちの学びの空白期間が生まれてしまうのでしょうか。

 もちろん休校期間が短かった地域ほど有利であり、家庭の経済力によって、学習機会や学習時間の差がこの学びの空白となる4か月で拡大し、今以上の格差が開いてしまうことは容易に想定できます。

 

 授業時数格差を埋め合わせるための9月入学が、さらに学力差をひろげてしまう結果になることは『教育格差』の著者である松岡亮二氏も指摘しておられます。

 『教育格差』を著した松岡亮二・早大准教授「9月入学で学力格差は埋まらない」(EduA5月7日記事)

 心配なのは私立学校です。

 

  すでに多くの私立学校ではオンライン学習や在宅学習に切り替え、学びの保障を行っているところも多いはずですが、とくに小規模学校法人の多い中学校や高校や専門学校を中心に、来年度4-8月までの間に生徒受け入れができず授業料徴収ができないと、学校法人の破産も起きかねません

 大学も同様です。

 

 とくに私立学校に教育機会を依存している高校や専門学校、大学が破産した場合、生徒・学生が行き場を失うことにもなりかねません。

 学校への財政保障も含めた支援が必要になります。

 

 もっともコロナ災害によってすでに深刻なダメージを受けている日本の経済と財政にそのような支援を行う余力があるのか、私は悲観的に考えています。

 雇用すら不安定化している現在、家計から半期多く授業料をとるなど、論外の議論であることは言うまでもありません。

4月入園から9月入園になった場合の育休対応や待機児童問題は?

乳幼児のママパパ界にも走る激震、超少子化加速も

 実は9月入学・入園で影響が深刻なのは、保育園、幼稚園の就学前教育の世界です。

 すでに乳幼児のママパパ界にも激震が走っています。

9月入学は幼稚園保育園問題も深刻!保活や準備が地獄

 とくに、2021年4月入園を予定していた乳幼児やその親(とくに母親)にも育休の長期化や、入園倍率の急増などの不安が大きくなっています。

 

 全学年での9月入学が強行されれば、幼児教育の世界でも、学年の分断により仲の良いお友達とはなればなれになってしまう子どもたちの人間関係の混乱、それに対応する保護者や保育士・幼稚園教諭のみなさんの混乱など、悲しい風景も見えてきます。

 子どもたちの「心のコロナ」をさらに拡大させてしまうことで、小1プロブレムの深刻化も予想されます。

 子どもはたくましいから、すぐ乗り切れる、というような粗雑な発想の政治家こそ政治災害の元凶だと私は思います。

 また、兄弟姉妹の学年差、保育園入園月齢や「お受験」を視野に入れて計画的に妊活を行っているカップルなどが、不安に思えば、超少子化は加速します。

 9月入学を不安に思う、子育て世代のweb発信を見ていると、もうそうなりつつあるのではという懸念を強く持ちます。

9月入学のリスクシミュレーション

残暑厳しい入学式から真夏の卒業式まで

 9月入学を推進したい政治家のみなさまにこそ、9月入学のリスクをしっかり認識していただきたいです。

 

 2021-22学校年度のリスクシミュレーションは以下のようになります。

 一部メリットも書いてあります。

1学期(9-12月):温暖化で残暑厳しい入学式、台風シーズンから始まる1学期

―立ち上げの1学期でいきなり台風休校?

 まず4月入学にせよ、9月入学にせよ、日本は自然災害大国であることを忘れてはいけません。

 立ち上げの1学期に台風災害や豪雨シーズンが重なります。

 千葉県にとくに甚大な被害をもたらした2019年台風15号(9月9-10日上陸)、東日本に甚大な影響を及ぼした台風19号(2019年10月12-13日上陸)など、秋こそ台風シーズンです。

 また2021年度には教科書の改訂が間に合わない場合には、国語や英語を中心に春の教材からはじまる教科で、教師も生徒も大混乱です。

冬休み(12-1月)

 冬休みは、2週間の地域と北日本中心に6週間程度の地域に分かれると思います。

 ここでは、コロナ感染が収束していれば、年末年始の帰省ラッシュなどいつもの光景が見られることでしょう。

 ただし、6週間冬休みの地域ですと、今までの夏休みと同様に大量の宿題・課題が出ますので、1月が大変です。

 逆に2週間冬休みの場合、いままで夏休みに書いていた作文や課題、自由研究など、多面的な評価の材料にもなる活動を、いつどのように行うかという問題が出てきます。

2学期(1-4月/2-5月)

―充実の2学期は感染症流行シーズンと重なる、会計年度変更なければ学校現場が3月超多忙化

 学力面では充実の2学期とよく言われますが、ちょうど感染症流行シーズンと重なります。

 インフルエンザに加え、新型コロナウイルスでの学級閉鎖、学校閉鎖が多発するのだとすれば、日本の子どもたちの学力保障に大きな課題が出てくることになります。

 また現時点で麻生総理大臣は、会計年度の9月移行には否定的です。

 会計年度変更に慎重 財務相 9月入学論に絡み

 これで現場に起きるのは、3月期の会計年度決算と8月期の学校年度決算との2回の決算を行わなくてはならないということです。

 イギリスでは4月会計年度始まり、9月会計年度始まりです。

 しかし、日本とは異なり、教育政策が高度に中央集権化されていることと、公立学校であっても独立行政法人化されているために、8月期決算のみでよいこととされています。

 しかし地方分権の日本の制度のもとでは3月期と8月期の2回の決算を行う必要があります。

 簡略化した会計システムを2021年度9月までに導入できるとは思えず、すべて矛盾は自治体職員と学校現場の教職員に押し付けられることになります。

 会計にお詳しい方ならお分かりでしょうが、これは相当に「めんどくさい」案件です。

ゴールデンウィーク休みで観光業は活性化?

 2学期終わりの休みを、まとまった2週間ゴールデンウィーク休みとすれば、観光産業は活性化する可能性はあります。

 その分夏休みは短縮されます。

 冬休みを長くとる地域では、6月梅雨休みとなる可能性もあります。

 北海道には梅雨はないですが、休むことは、子ども・若者にとっても大切です。

3学期(5-7月/6-8月)

―梅雨・集中豪雨シーズンの入試、真夏の卒業式で和装レンタル業や生花業者は大打撃

 入試は6-7月の梅雨・集中豪雨シーズンとなります。

 40名の死者を出した平成29年九州北部豪雨(7月5日・6日)、広範囲で100名以上の死者を出した平成30年7月豪雨(7月6-8日)、など豪雨被害は7月が深刻です。

 被災地域における大規模な交通機関のマヒなども想定しながら、いままでの冬季入試における感染症や豪雪等と同様に、相当な対策が必要とされます。

 その後にやってくる真夏の卒業式ですが、そもそも公立小中学校の体育館でのクーラー設置率は2019年度で3.2%にすぎず、体育館での卒業式ができないという可能性を想定しておく必要があります。

 文部科学省 公立学校施設の空調(冷房)設備の設置状況について

 また卒業式は時間短縮で行われる必要もあるでしょう。

 個人的にはこれは大歓迎です。

 親子、祖父母、教職員ともに熱中症が深刻に懸念されます。

 また夏の高温を考えると、春の卒業式の袴・振袖風景を支えてきた和装レンタル業や、卒業式の花束や装飾を支えていただいている生花業は大きなダメージを受けることも想定しなければなりません。

 またこれ以外にも、学事歴の変更にともなう日本経済全体への影響、とくに人材供給が半年遅れるデメリットなども含め、総合的にかつ綿密に判断しなければ、コロナ後の社会を刷新するどころか、日本国民をますますの疲弊に追い込むことになるでしょう。

学校行事や学生スポーツ・文化イベントはいつやるの

―教職員をさらなる過労に追い込む行事再編、高2でもう全国大会引退?春の甲子園が人気イベントに?

 子ども・若者にとっても保護者にとっても、もっとも大事なのが、では学校行事をいつやるか、という問題です。

 

 9月入学になると、日本の学校現場は、カリキュラムだけでなく新しい学校行事のスケジュールを作り直さなくてはなりません。

 次に述べるように全国的なイベントにかかわっている教職員なら、さらなる忙しさにさらされます。

 

 コロナ前から、ブラックな働き方が問題になっている学校現場の教職員が、9月入学でさらに過労になります。

 くわえて「コロナ入学世代」への対応も想定すると、多くの優秀な教職員が心身の負担に耐えかねて病休、最悪過労死などで倒れていくことが、私には心配でならないのです。

 いままでも多くの現場の教職員は過酷な環境の中で、命を削りながら、子ども・若者のために働いてきました。

 教育投資が十分ではない日本で、教員が増えず、1学級40人の三密教室の中でも、高い学力を維持できてきたのは、現場の教職員の努力があってこそです。

 拙速な9月入学によって、教職員に犠牲者が増えてしまうことも深く心配しています。

 また高校総体、全国高校文化祭、野球やサッカーなどの学生スポーツをいつ実施するのかは大問題です。

 私自身は夏の学生スポーツイベントは危険だと思っています。

 しかし、コロナ災害でこの大事な機会を奪われた若者たちの悲しみを思うと、言葉もありません。

 夏の甲子園は高校2年生までの出場となり、3年生も出場できる春の甲子園が人気大会となるかもしれません。

 もっとも春の甲子園をいつにするのか、図1とプロ野球の日程からどのように調整できるのか、素人の私にはわかりませんが。

 高校総体を夏期大会のままにすれば、高校2年生までしか高校総体に出場できなくなります。

 全国高校文化祭や全日本高校吹奏楽コンクールなどの、秋の文化行事も同様に、高校3年生の1学期で引退となります。

(それはそれで受験には有利な気もしますが。)

 心配なのは、中学校や高等学校、小学校も含め、学校行事だけでなく全国的な学生イベントには学校の教職員が相当程度関与しており、移行年度の負担が尋常ではない量になるということです。

最後に、9月入学を政治災害にしないでください

 9月入学を政治災害にしないために、政治家のみなさんには慎重のうえにも慎重な判断をお願い申し上げます。

 犠牲になる子ども・若者を生み出し、コロナ災害後に日本国民がやらなければよかったと思う乱暴な9月入学だけはどうぞおやめください

 まず何よりも、最優先されるべきは、今年度の受験生や就活生への不安への対応であり、それは全学年の9月入学移行とはまったく別問題であることを、繰り返します。

 また拙速な9月入学の議論は、子ども・若者や保護者に大きな不安と混乱を引き起こしつつあります。

 子どもの貧困対策では与野党を問わず、子ども・若者に寄り添う国会議員のみなさまが、現場や子ども・若者自身の声に丁寧に耳を傾け、政策を進めてくださっています。

 いまも大学生等への支援政策は、そのように進められていると思います。

 9月入学についても、どうか子ども・若者に、子育て世代にも丁寧に寄り添う政治をお願いいたします。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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