アトピー性皮膚炎の重症度判定と治療効果予測にバイオマーカーが有効?最新研究を解説
【アトピー性皮膚炎とは?バイオマーカーとの関係を理解しよう】
アトピー性皮膚炎は、慢性的な炎症性皮膚疾患で、遺伝的、環境的、免疫学的要因に加え、皮膚バリア機能の障害が関与していると考えられています。この複雑な病態を理解し、適切な治療法を選択するために、バイオマーカーが注目されているのです。
バイオマーカーとは、体内や体液中で測定可能な物質や構造、プロセスのことで、病気の発症や進行、治療効果を予測するのに役立ちます。アトピー性皮膚炎においては、診断や重症度評価、治療モニタリングに有用なバイオマーカーが数多く報告されており、将来的には個別化医療(オーダーメイド治療)への応用が期待されています。
【アトピー性皮膚炎のバイオマーカーの種類と役割】
アトピー性皮膚炎のバイオマーカーは、大きく分けて診断バイオマーカー、予後バイオマーカー、重症度バイオマーカー、層別化バイオマーカーの4つに分類されます。
診断バイオマーカーは、アトピー性皮膚炎の診断に役立つものですが、現在のところ臨床症状に基づく診断基準が主に用いられており、特異的なバイオマーカーはありません。ただし、乾癬など他の皮膚疾患との鑑別に有用なバイオマーカーの研究が進められています。
予後バイオマーカーは、アトピー性皮膚炎の発症リスクや重症化、持続化を予測するのに役立ちます。例えば、フィラグリン遺伝子の変異は、アトピー性皮膚炎の重症度や成人期までの持続と関連することが知られています。
重症度バイオマーカーは、アトピー性皮膚炎の重症度や疾患活動性をモニタリングするのに有用です。血清TARC(Thymus and activation-regulated chemokine)値は、アトピー性皮膚炎の重症度と相関し、診断や経過観察に役立つと考えられています。
層別化バイオマーカーは、アトピー性皮膚炎患者を内因性/外因性、小児/成人、民族性などのサブタイプに分類するのに用いられます。最近では、サイトカインプロファイルなどの分子レベルでの特徴に基づいたエンドタイプ分類も提唱されており、将来の個別化医療に役立つと期待されています。
【バイオマーカーを活用した個別化医療の可能性と課題】
アトピー性皮膚炎の病態は個人差が大きく、同じ治療法でも効果や副作用の現れ方が異なることがあります。そこで、バイオマーカーを用いて患者のエンドタイプを同定し、最適な治療法を選択する個別化医療(オーダーメイド治療)の実現が望まれています。
例えば、IL-4/IL-13シグナル阻害薬のデュピルマブは、外因性アトピー性皮膚炎患者に有効性が高いことが報告されています。一方、アジア人患者ではTh17/Th22サイトカインの関与が大きいため、乾癬治療薬が奏功する可能性があります。このように、バイオマーカーを活用することで、患者ごとに最適な治療法を選択できるようになると期待されています。
ただし、アトピー性皮膚炎のバイオマーカー研究はまだ発展途上であり、実臨床への応用にはさらなるエビデンスの蓄積が必要です。また、日本人患者を対象とした大規模な臨床研究や、保険適用の問題など、克服すべき課題も残されています。
アトピー性皮膚炎は、患者のQOLを大きく損なう難治性の皮膚疾患ですが、バイオマーカーを活用した個別化医療の実現により、より効果的かつ安全な治療法の選択が可能になると期待されます。今後のバイオマーカー研究の進展と、日本におけるオーダーメイド治療の普及に注目していきたいと思います。
参考文献:
1. Carrascosa‑Carrillo JM, et al. Toward precision medicine in atopic dermatitis using molecular‑based approaches. Actas Dermosifiliogr. 2024;115:T66-T75.
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