幼保無償化で江戸川区「きのみ」が廃園の危機!増税の上に預け先を失う、無償化対象外の保護者が悲鳴
先日、江戸川区にある類似幼稚園「きのみ」に子どもを通わす保護者、秋子さん(仮名/40歳)から「無償化の対象外になった類似幼稚園が危機的状況にある。是非取材して欲しい!」という連絡を受けた。
幼稚園にも「認可」と「そうでない施設」がある。文部科学省から「認可」されている施設を「幼稚園」と呼ぶが、中には「認可」を受けていないが、「幼稚園」と同じような教育を行っている施設がある。この幼稚園的な施設を「幼稚園類似施設」または「類似幼稚園」と呼ぶ。
「認可」に比べて教育が劣っているかというと、必ずしもそうではない。むしろ、独自の教育方針を掲げていたり、スポーツや音楽に力を入れていたりとしっかりとした目的を持っているところも多い。また、言葉の発達が遅い子や体の弱い子など、認可幼稚園では受け入れてもらえない子どもたちの受け皿にもなっている。
幼児教育「きのみ」もその一つで、50年の長きに渡り地域から愛されてきた。年少(3歳児)・年中(4歳児)・年長(5歳児)と各学年約30名の定員で、毎年10月頃には新年度の新入生(年少さん)を募集している。例年は20名ほどの希望があるが、今年はわずか4名しか集まっておらず、このままでは廃園の危機だという。無償化の対象となる「認可」幼稚園に入園希望が集まっているからだ。
「無償化の対象となるかならないかで、利用料に3年間で約100万円の差が出るとしたら、「認可」幼稚園に希望が流れるのは当然」と私(筆者)に連絡をくれた秋子さん(仮名)はいう。
『参院選の際に「すべての子どもを無償化に」と謳っていたので、保育園・幼稚園の子どもを持つ世帯の利用料は、すべて無償でハッピーだと世間から思われている。しかし、蓋を開ければそうではない。「類似幼稚園」の存在と今置かれている不平等な立場を知ってもらいたい。あと半年で新年度が始まる差し迫った状況なのだ』と秋子さん(仮名)は訴える。
無償化の対象外である類似幼稚園でなにが起こっているのか。「きのみ」や文科省、他の類似幼稚園の保護者を取材した。
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●廃園になれば、子どもは未就園児になってしまう
私(筆者)が「きのみ」を訪問すると、秋子さん(仮名)を含めた5名の保護者と園長の花島宣人先生(47歳)が待っていてくれた。
保護者たちは口を揃えていう。「きのみ」のような保護者にも園児にも親身になって寄り添ってくれる園が、廃園に追い込まれるようなことなどあってはならない。認可幼稚園ではなく、「きのみ」が良くて入園している保護者もたくさんいるという。
そのなかの一人、冬子さん(仮名/36歳)の年中の息子さん(4歳)は、言葉を話すのが遅く、それが理由で認可幼稚園に落ちてしまった。失意の中、「きのみ」の園長である花島先生に相談したところ、「子どもたちにも得意・不得意があり、子どものペースに合わせて保育をしましょう」と言ってもらえた。この園なら安心して子どもを預けられる、と冬子さん(仮名)は思ったそう。
息子さんは、来年には年長になる。もし「きのみ」が廃園になった場合、他園での年長の受け入れ枠は極めて少なく、未就園児になってしまいそうでとても不安だ、と冬子さん(仮名)はいう。
もう一人、春子さん(仮名/37歳)はフルタイムで働いている。1歳から認可保育園に息子さんを預けたがアトピー性皮膚炎が酷く、「病気治療中の子は通園出来ない」と退園を迫られた。2年間は春子さんの母に面倒を見てもらい、働き続けた。3歳になりそろそろ集団生活をさせたいと思ったが、認可保育園では到底受け入れてもらえない。
この状態でも受け入れてもらえ、できれば教育も熱心なところ。そして、フルタイムで働いているので、預かり時間の長い幼稚園を探した。しかし、一般的な幼稚園では預かり時間は短く、預かり保育の枠も少ない。藁にもすがる思いで「きのみ」を見つけ、入園許可をもらった時は本当に嬉しかったという。
万が一にも廃園になったら息子さんは行き場を失い、春子さん(仮名)が仕事を辞め、家で面倒を見るしかなくなる。類似幼稚園を一律に切り捨てず、なんとか救済策を講じて欲しい、と切実に訴える。
花島先生が言うには、「きのみ」もすべてのハンディある子どもを受け入れられるわけではないが、「園は社会の縮図であるべき」という方針のもと、なるべく色々な個性の子どもを受け入れたいと思っている、ということだった。
そして、「きのみ」は長く園に勤めている先生が多く、ノウハウが蓄積したベテラン揃いなことから、ハンディある子どもの対応が可能なのだ、とも教えてくれた。
取材をすると、「きのみ」が「認可」では受け入れてもらえない子どもたちの受け皿になっているエピソードが複数聞こえてきた。
●複数の自治体にまたがっているという「きのみ」の複雑な事情
園長の花島宣人先生は、「きのみ」は複雑な事情を抱えているという。
園の所在地は江戸川区にあるものの、江戸川区(東京都)からは「幼稚園類似施設」に認めてもらえていない。しかし、川を越えて千葉県市川市からの園児が多く、在園児77名のうち67名が市川市民という状態。これは、市川市が「幼稚園類似施設」に認めているから。
つまり、所在地と利用者が複数の自治体(その他、浦安市等)にまたがっているというのが、状況を難しくさせていた。
整理すると、江戸川区からは「認可外保育施設」と認められる可能性があるが「幼稚園類似施設」には認めてもらえていない。市川市からは「幼稚園類似施設」に認められているが「認可外保育施設」は検討中となっている。(各自治体で「認可外」や「幼稚園類似施設」に認められる条件が異なるため、このような事態が発生している。)
そのため、国が幼稚園類似施設に対し、今後どういう対応を取るのか早く決めてくれないと、「認可外保育施設」としてやっていくのか、「幼稚園類似施設」のままやっていくのか、舵を切ることが出来ない。舵を切ることができないので、来年度の入園希望が少ないことに対して、園として何も策を講じられないという状況に追い込まれている、とのことだった。
なお、江戸川区は条例で基準を満たさない「認可外」は無償化の対象から除外される。
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●保護者が声を上げても、国が決めない限り自治体は受け身の姿勢
市川市には「きのみ」以外に3つの類似幼稚園がある。1つは、無償化の対象となる「こども園」になろうと改装工事をしている。もう1つは、現状のまま「こども園」 になれないか市と協議を重ねている。残す1つは、「きのみ」と同じように停滞状況の様子だ。
「きのみ」の保護者たちは、今の宙ぶらりんの状況を何とか打破できないかと、自治体に声を上げていた。しかし、国が決めてくれないと自治体も決めることができないと受け身の姿勢で進展がない、と落胆する。
萩生田文部科学相は10月1日の記者会見で、無償化で制度の対象外となる幼稚園類似施設について支援策を検討する考えを示した。萩生田氏は「新年度までに新しい方針が示せるように努力したい」と述べている。
「きのみ」の保護者と先生たちは、1日でも早く方針を示して欲しいと切望している。
なお、内閣府と文科省、厚生労働省の調査では、自治体が支援を実施・検討している類似施設は全国で約200件に上るという。
●文部科学省の幼児教育課に聞いてみた
「無償化の対象外の園が廃園に追い込まれる状況を文科省は把握していたのか?」私(筆者)がストレートに担当者に聞いてみたところ、
「そもそも今回の無償化は保育園も幼稚園も「認可」が対象だった、そこが大前提だったので…。
保育園においては待機児童問題で、「認可」保育園に落ちてしまい「認可外」保育施設になってしまった働く世帯を救うために、「認可外」の働く世帯を後から無償化の対象としたので…。
無償化の原則は「認可」なので…。」というような回答で、「把握していた」とも「把握していない」とも述べてくれなかった。
『では、やむを得ない理由で「認可」幼稚園に子どもを通わせることが出来なかった保護者はどうなるのか。保育園の待機児童問題と同様の状況では?』と問うと、
「国としては、そこまでの個別案件は把握していない」また、「認可幼稚園の待機児童がどれだけいるか、国としては把握していない」とのことだった。
「廃園に追い込まれている園に対する対応策は今後どうしていくのか」と尋ねると、
「無償化の影響でどのような状況が起きているか、認可幼稚園に入園が殺到し、待機が出るような状況になるのか、国としては現在進行形で各自治体と協力して考えている」との回答で、いつごろ、どのような対応を取るのか、具体的な回答は現時点では得られなかった。
●類似幼稚園について、国に一刻も早い対応を求めたい
神奈川県茅ヶ崎市の類似幼稚園、「湘南幼児学園」に子どもを通わす森嵜綾子さん(40歳)は、「すべての子供に幼児教育無償化を願う会(NEGAU)」を立ち上げ、今年7月から署名活動をはじめ、茅ヶ崎市議会へ陳情書を提出するなど活動をして来た。
現在、茅ヶ崎市は独自で補助を出す方向で話が進んでいる。ところが、認可外保育施設の無償化対象は月に64時間以上、両親が働く世帯に保育の必要性があると国が定めているため、森嵜さん自身も急遽3つのパートをかけ持ち、64時間以上になるよう無理やり働き出したという。他の多くの母親も同様に働き出しているので、これにより園の行事の役員が出来ない保護者が増え、園の行事が減り、今まで維持してきた園の傾向が変わってしまうのではないかと懸念している。
そこで、「願う会(NEGAU)」では茅ヶ崎市に対し、保育の必要性の認定がなくても、無償化と同等の独自の補助をしてほしいと市議会を通じて求めているが、まだ実現には至っていない、という。
◆参考記事
幼児教育・保育の無償化 対象外世帯に補助を 陳情を市議会が採択
私(筆者)が現場を取材して分かったことは、今回の無償化が対象外の施設に及ぼした影響は、子育て世代を助けるものとは限らず、むしろ今までの平穏を崩すものとなっているケースがある、ということだった。
そして、この現状に独自で補助を出せる、資金がある自治体とそうでない自治体があり、地域ごとでも差が出てしまっていることも分かった。
何より、施設に通う当事者である子どもたちのことが後回しとされ、子どもファーストとなっていない状況を生んでしまっていることは、非常に残念だと思った。
政策を実行するためには、どこかで線引きしなくてはならないということはよく分かる。しかし、今回の類似幼稚園のように、新制度の穴に落とされてしまった施設があるなら、一刻も早く現場の状況を把握し、措置を検討してもらえないものかと、思わずにはいられなかった。
今後の国の対応に期待したい。
キリスト教幼児教育「きのみ」
住所:東京都江戸川区江戸川1-28-91
TEL:03-3670-7825
創立年月日:1968年(昭和43年)6月20日
HP:https://www.kinomi.jp/index.html
定員:3歳児(約30名)4歳児(約30名)5歳児(約30名)
保育時間:
月曜日~金曜日 8:30~16:30(延長〜18:00)
土曜:休園(日曜日は午前中にお礼拝があります)
※保育時間は送迎バスのコース及びクラスによって1時間程度前後いたします。
※4月の年度開始時期は保育時間が短くなります。
2020年2月14日加筆・修正あり
「認可外」と表記していた文言を「認可外保育施設」とした。