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時間のパーソナルスペース

羽田野健技能習得コンサルタント/臨床心理士/公認心理師/合同会社ネス

「もっと前もって教えてくれればいいのに」と思うことがあります。

「前もって」が難しかったのは、忙しかった、突然必要になった、忘れていたなど、様々な理由があると思います。こうした理由に加えて、私たちが持っている時間に対する心地よさの感覚、言い換えると、「時間のパーソナルスペース」も、「前もって」とならないことに影響しているかもしれません。

パーソナルスペースとは、一般的に、人と人が一緒にいる場面で、お互いに心地よいと感じる物理的な距離感のことを指します。例えば、初めて会った人同士が会話する時は、親しい人同士が会話する時と比べて、お互いにちょっと距離をとることが多いものです。その距離でいた方が、お互いにとって心地良いためです。

この「心地良い距離」は、時間の感覚にも当てはまると感じられます。

以前、友人が知人と海外に行った時の話をしてくれました。帰りの空港でのことです。搭乗開始のアナウンスがあり、搭乗口に人が並び始めました。しかし知人は、「どうせ混んでるし、席は予約してあるから大丈夫」と言って、並んでいた人が全員飛行機に乗り込むまで、待合室の席を立ちませんでした。友人は「確かにそうですね」と言って一緒に待っていたそうですが、「早く乗りたい」と思いながらやきもきしていたそうです。

この例からは、友人が持っていた時間に対する「心地良い距離感」、すなわち「時間のパーソナルスペース」と、その知人が持っていた「時間のパーソナルスペース」の違いが見えます。友人は、搭乗時間という期限までの距離が近づくほどやきもきしていることから、期限までの距離が遠い、つまり時間のパーソナルスペースが遠い方が、心地良いと感じるようです。一方、知人は、期限までの距離が近い、つまり、時間のパーソナルスペースが近い方が心地よいと感じるようです。それゆえ、「前もって」並ぶという判断をしなかったのでしょう。

搭乗時間までの時間のパーソナルスペース
搭乗時間までの時間のパーソナルスペース

上の例のように、誰かと一緒に行動する場合は、お互いの持つ時間のパーソナルスペースの違いを感じやすい状況と言えます。また、一緒に仕事をする場合も同様に、時間のパーソナルスペースの違いを感じやすい状況と言えます。

こうした違いがあることを踏まえると、お互いの時間を協調させる必要がある仕事などでは、一緒に仕事をする人がどんな時間のパーソナルスペースを持っているか観察しておくと、発見があるかもしれません。たとえば、一緒に仕事をする相手が、もし「遠い時間のパーソナルスペースを好む」人なら、予定などを前もって伝えておいた方がいいでしょう。あるいは、もし「近い時間のパーソナルスペースを好む」人なら、突然何かを頼んでくることがあるかもしれません。そういう場合でも、「この人はそういうとこもある」と予測しやすくなり、こちらは落ち着いて対応できる機会が増えるのではないでしょうか。

時間のパーソナルスペースの重なり
時間のパーソナルスペースの重なり

もちろん、相手や状況によって時間のパーソナルスペースは変わるでしょうし、自分が何かをやる場合は時間のパーソナルスペースは遠い方が良く、人に頼む場合は近くても問題ない、という人もいます。

時間のパーソナルスペースという視点から自分自身や周りの人の特徴を観察してみると、時間にまつわるイライラやモヤモヤが減ったり、時間の歩調を合わせやすくなり、行動を協調したりしやすくなるかもしれません。

技能習得コンサルタント/臨床心理士/公認心理師/合同会社ネス

技能の習得・継承を支援しています。記憶の働き、特にワーキングメモリと認知負荷に注目して、技能の習得を目指す人が、常に最適な訓練負荷の中で上達を目指せるよう、社内環境作りを支援しています。主なフィールドは、技能五輪、職業技能訓練、若者の就労、社会人の適応スキルです。

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