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「担々麺」が日本で独自に進化し続ける理由とは?

山路力也フードジャーナリスト
「香噴噴 東京木場」の担々麺は「香り」を重視した進化系の一杯。

史上最大の「担々麺ブーム」到来中

 今、担々麺は間違いなくブームである。かつては中国料理店のメニューの一つとして扱われていた担々麺だが、ここ数年都内を中心に担々麺の専門店が増えている。担々麺だけと向き合って日々厨房に立つ「担々麺職人」とも言うべき人たちがいる。担々麺だけを日々食べ歩く「担々麺マニア」がいる。その土地の文化に根付いた「ご当地担々麺」すら存在する。これを担々麺ブームと言わずして、何と表現したら良いのか。

 担々麺のこれまでの歴史を振り返ると、ラーメンが辿ってきた歴史と重なっているように見える。やはり中国料理の一つとして生まれた拉麺は、日本にわたり独自の進化を遂げてラーメンとなった。ラーメン専門店があり、ラーメン職人がいるのは当たり前。全国各地でご当地ラーメンが生まれ、今や世界各国にまでラーメン文化は広がっている。

 現在の担々麺ブームの裏にはラーメンブームの存在があることは間違いない。日本の食文化の中でも急激に進化を遂げて一気に国民食にまで駆け上がったラーメンは、常に新たなブームが起こって活性化していった。この十年ほどで人気が高まっていたのが「蒙古タンメン中本」「カラシビ味噌らー麺鬼金棒」などの「辛いラーメン」であった。さらに台湾ラーメンをアレンジした「台湾まぜそば」なども人気を集めるようになり、作り手食べ手ともに担々麺に注目するようになる環境は整っていた。

様々な料理を進化させてきた日本の食文化

 担々麺は中国四川の麺料理が発祥で、天秤棒で担いで売り歩いたことからこの名前がついたと言われている。中国ではスープが入らず、麺とタレ、肉そぼろなどを混ぜて食べる「汁無し」の麺料理で、数口で食べられる言わば「軽食」だった。それが日本では「四川飯店」(赤坂)の創業者である故陳建民氏の手によってスープを入れた「汁あり」になり、一杯で満足出来る量の「食事」になったという歴史がある。

 オリジナルにさらなるアイディアを加えて、料理を進化させて新たな文化を創出するのは日本のお家芸。繊細な調味とバランス感覚によって、元々の料理とは別次元の新たな料理を生み出してきた。中国発祥のラーメンしかり、イギリスから伝播したカレーも然り。担々麺が日本にわたって独自の進化を遂げたのも、ある意味自然な流れとも言える。

 さらに日本各地の食文化に溶け込むように「ご当地担々麺」が次々と生まれている。Bー1グランプリでもゴールドグランプリを獲得した「勝浦タンタンメン」は、千葉の港町勝浦の漁師や海女が仕事の後に温まるよう生み出されたもの。挽肉とタマネギをラー油で炒めたものが醤油ラーメンの上に乗る。川崎が発祥でチェーン店も存在するタンタンメン(ニュータンタンメン)は、挽肉やニンニクを溶き卵でスープと一体化させたものだ。

この夏食べるべき、進化系担々麺とは

 これまでは数えるほどしかなかった担々麺専門店が、今都内を中心に続々オープンしている。ラーメン店からのスピンオフや、中国料理の世界からの参入など、その背景もバラエティに富んでいる。また個人経営の店だけではなく、大手資本による参入もはじまった。いわば「担々麺戦国時代」の幕開けという様相を呈している。

「成都正宗担々麺 つじ田」(小川町)の「成都担々麺」はラーメン店的手法で再構築。
「成都正宗担々麺 つじ田」(小川町)の「成都担々麺」はラーメン店的手法で再構築。

 2015年にオープンした「成都正宗担々麺 つじ田」(小川町)は、人気ラーメン店「つじ田」が手掛ける担々麺の専門店。本場中国の辛さと痺れを追求した「成都」と、日本人に馴染んだ胡麻を生かした「正宗」の二種類の味を、汁ありと汁なしのスタイルで提案している。さらに山椒の痺れである「麻味」と唐辛子の辛さである「辣味」は6段階から選択が可能。自分好みのカスタマイズが可能な担々麺だ。

「香噴噴 東京木場」(木場)の「成都担担麺」は中華の技法を駆使した香り高き逸品。
「香噴噴 東京木場」(木場)の「成都担担麺」は中華の技法を駆使した香り高き逸品。

 2017年1月にオープンした「香噴噴 東京木場」(木場)では、長年中国料理の世界で腕をふるってきた若き店主が理想の担々麺を目指している。辛さや痺れだけではなく、日本人の嗜好に合わせて「旨味」「香り」を大切にした担々麺には、キノコやナッツなどの旨味や香りも合わせることで、奥深い味わいの担々麺を生み出すことに成功。中国料理の担々麺の正統進化とも呼ぶべき、伝統と革新が共存する担々麺を楽しむことが出来る。

「ごまだら」(小川町)の「パンプキンごま麺」はカボチャと胡麻が光る新感覚の一杯。
「ごまだら」(小川町)の「パンプキンごま麺」はカボチャと胡麻が光る新感覚の一杯。

 2017年3月にオープンしたばかりの話題店が「Oriental Kitchen ごまだら」(小川町)。中国や日本といった国にこだわることなく、胡麻の表現方法として担々麺にアプローチ。旬の野菜も積極的に取り入れることで今までにはない独創的な担々麺が完成した。中でもカボチャの甘味と胡麻のコクをブレンドした「パンプキンごま麺」は、担々麺の新たな境地と可能性を感じさせる一杯になっている。

 汁無しだった中国の担々麺にスープが入ったことから始まった日本の担々麺文化。かつてラーメンがそうだったように、担々麺もスープや麺のレベルが格段に上がっている。さらにタレや油なども改良が重ねられたことで、旨味や香りも意識した商品設計がされるようになってきた。しばらく担々麺を食べていなかった人は、ぜひこれらをはじめとする最新の担々麺を食べてみて欲しい。想像を超えたレベルの高さにきっと驚くことだろう。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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