川崎駅近くに焼鳥通も訪れる新名店! 15品越えのセンスあふれるコースは満腹必至【六鳥】
今回、冒険するのは神奈川県川崎市川崎区の焼鳥屋「六鳥」。川崎駅を東口に出て新川通りを少し。雑居ビル3階のエレベーターを降りると、モダンな和の空間が広がっていた。ここ「六鳥」は都内の焼鳥好きも通う焼鳥屋。焼き場の高さと客の目線が合うように低く設えられたカウンターが特徴的で、その奥では若き店主・町田さんが真剣な面持ちで串を操っていた。
地鶏を使ったおまかせ焼鳥コース
「六鳥」にアラカルトやセットはなく、焼鳥に一品料理や〆を含めたおまかせコースのみ。だから、仕事帰りにちょっと1杯……という焼鳥居酒屋じゃない。前もって予定を立てて、1本1本の焼鳥とじっくりと向き合う。そんな時間を余裕をもって楽しみたい店だ。
焼鳥に使っている鶏は甲斐路軍鶏がメイン。軍鶏のなかでは飼育日数が短めなのか、ほどよいうまみとやわらかさ。くせもなく、万人受けする地鶏だと思う。それでも食べられない部位があるなら、言えば配慮もしてくれるので、焼鳥ビギナーも安心して味わえる。
お。この日のコースは串から。てっきり鳥刺しかたたきが出るものと思っていたから、意外な展開。しかも、定番のささみでも抱き身(むね肉)でもなく、あか(うちもも)ときた! んん。いきなり大好物。
しっとり、ややレア目の仕上げで、うちももならではのむちっとした弾力と濃いうまみがたまらない……。まるで牛赤身のヒレステーキを食べているような感覚。とはいえ希少部位なので、出合えればそれは幸運。
続く砂肝は、やわらかい部分の「えんがわ」を挟みつつ仕上げた1本。砂肝だけならシャクシャクの食感となるところ、合間にえんがわを挟むことで、クニュッとした食感も生まれる。
うーん。こういう緩急の付け方も面白いなぁ。あかから砂肝。焼鳥好きの心を打つようなインパクトのある流れに、ビールもくいっと進む。
技ありの鳥刺しで飽きさせない
ここで、鳥刺し。一品目はささみを黄身醤油で。鳥刺しというと、だいたい醤油か塩で食べるのが定番ではあるけれど、これは黄身のコクをとろ~り、絡めて。すでに串が2本出ているからこそ、この黄身醤油のこっくりとした味わいが自然と馴染む。
2品目のレバー刺しは低温調理でしっとりと。ごま油の風味が食欲……いや、酒を呼ぶようだ。どちらも鳥刺しではあるものの、しっかり味に差をつけて飽きさせないのはさすが。
「焼鳥は甲斐路軍鶏がメインですが、鳥刺しやたたきは黒さつま鶏といった別の地鶏も使っているんですよ」(町田さん)
見出し
再び、串のターン。余分な脂を落とし切り、パリッと焼き上げたぼんじりのうまいこと。鳥刺しを食べたあととあって、ちょっとばかり〝鶏の脂〟を欲していたところだから、これがバチッと決まった!
続いて、せせり。プリッとした食感のせせりに添えるのは、なんと、木の芽。だいぶ春を先取りする気分ではあるものの、焼鳥のたれとも相性抜群。香りで緩急をつけてくるあたりも工夫の一手、といったところ。
野菜串には、大黒本しめじ。よくあるぶなしめじとは違い一つ一つが大ぶりで、ずんぐりむっくりとしている。くせはなく、焼けばうまみがギュギュッと凝縮していくよう。
もちろん、椎茸の方が味は濃いのだけど、むしろ大黒本しめじの方が、誰にも食べやすい、というのはあるかもしれないな。大黒本しめじも、焼鳥屋定番になる予感?
ふわふわにつくねに、しっとり抱き身
「つくねです」と町田さん。小ぶりながら丸みを帯びた愛らしいフォルム。芯の芯はしっとりレア目に。噛めばふっくらとして、肉汁があふれるようだ。
東京焼鳥はどちらかというと肉々しさを前面に出すものが多いのだけど、このつくねはどこまでも優しい味わい。〆の串じゃなく中盤で緩急を生むのにも一役買っていると思う。うーん。ジャストタイミング。
続く抱き身(むね肉)は、1貫付けながら、ぽってりと大ぶり。火入れが過ぎると途端にパサつき始める抱き身は、焼鳥職人にとっても腕が問われる難しい部位。当然、生焼けでもおいしくないわけだ。
皮はほどよくパリッとさせながら、肉はしっとりと。んん。これは、いい塩梅。あと1貫食べたいと思わせる絶妙な塩梅。焼鳥というのは面白いもので、ここにねぎがあるかないかで見た目のおいしさはもちろん、味の感じ方までまるで変わってくる。ねぎ、偉大。
なんとしてでも追加したい〝六鳥ハツ〟
「あとは〆になりますが、串を追加されますか?」と町田さん。もちろん、言うまでもなく。コースを振り返ってみると、「六鳥」名物? のネタが出ていないことに気付いた。それがハツ。
ひと口にハツといっても町田さんの打ち方はかなり独創的。まるで海老を丸めるように打ったとんだ〝くせ強〟フォルム。噛めばブリッとした豊かな弾力とともに、うまみを含んだハツ汁がブシッとあふれ出してくる。
そう、これこれ! この味わいが「六鳥」のハツ。もし臭みのあるハツだったらこのネタは成り立たないだろうな。しっかり素材とも向き合ったうえでの変化球で、毎度ながら記憶に残る1本。こういう出合いがあるから、焼鳥は面白いんだ。
〆のそぼろ丼も、個性的
選べる〆は、焼鳥屋の〆としては鉄板中の鉄板、そぼろ丼に決めた。そぼろの中に見える黒がかったものは、まさかの紅茶の茶葉だ。たとえば赤紫蘇を合わせるならイメージもつきやすいものの、紅茶は意外すぎる一手。
ふと、初めて「六鳥」に訪れた際に町田さんが「色々試したなかでアールグレイがしっくりときたんです」と言っていたことを思い出した。紅茶由来の香りは嫌味にならず、どこか爽やかな香り。そぼろをやや濃いめに味付けすることで、バランスをとっているのだろうなぁ。そぼろ丼も、奥が深いもんだ。
地鶏の焼鳥が10本近く出て、鳥刺し2種にたたき、一品料理、さらに選べる〆とデザート。それだけ付けば、しっかり満たされるというもの。川崎市ではイチオシ、文句なしの焼鳥フルコースだ。