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10兆円規模の補正予算はまず被災地に。福島の長期避難者の移住を最優先で支援を。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

安倍内閣は15日にまとめるとされる今年度補正予算案は、10兆円ほど、景気対策の柱になる公共事業は国費(国の支出)が2兆円を超え、自治体などを含めた事業費ベースでは3兆~4兆円になる見通しだという。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130105-00000004-asahi-pol

大盤振る舞い、バブルの種まきと報道されているが、なにより懸念されるのは、

景気対策に優先が置かれ、無駄遣いされて最も必要なところに手が回らないことだ。

民主党政権下では19兆円の復興予算が無駄に使われるという極めて犯罪的な事態が露呈したが、その再来は絶対に許されない。

NPO法人ヒューマンライツ・ナウでは、被災地をつぶさに調査し、法律相談活動を展開しているが、被災地の実情は極めて深刻である。

気仙沼の仮設住宅は、ハザードマップ上の建設されているものがいくつもあり、

高齢者ばかりの仮設住宅は山間部できわめて寒く、高齢被災者の「せめてもの」要望に応えて、入口にスロープを設置する動きすらない。

高齢者・障がい者が多い、条件の悪い仮設住宅の住民には一値日も早く恒久住宅・復興住宅が整備されるべきであるが、一向に進んでいない。

多くの津波被災地では高台移転が進まず、現実性に乏しい巨大防潮堤の建設が住民の反対を無視して進められようとしている。

こうした状況を民主党政権は放置してきたし、巨額の復興予算にも関わらず、被災者にはほとんど還元されていない。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013010602000080.html

何より、問題なのは、福島の長期避難者の方々である。

仮設住宅での生活も不便であるうえ、

賠償についても、帰還についても、当面数年間、数十年間の長期的な居住や生活についても、何も明確な方針が決められず、住民は兵糧攻め、リンボーの状態に放置されている。

12月25日、双葉町の方々が避難されている騎西高校避難所にお邪魔し、避難者の方々から生活実態をうかがった。

未だに体育館や教室での雑魚寝状態、プライバシーもない生活、炊事施設がなく、食糧支援が打ち切られたことから、コンビニで購入したものをレンジで温めて三食を補っているという。三食購入できる予算がないので、1食はカップラーメンにする、三食食べないという話も聞いた。

長期的な賠償は進まず、月額の精神的損害の賠償はローン返済に回って手元に残らず、将来展望を描けないでいる。

原発事故の影響を最も受けた人達、最も手厚く国から支援されるべき人達が、被災者であるがゆえに、やむなく避難を継続しているがゆえに、罰せられている、見捨てられているとしか言いようがない現状に絶句した。

国では、中間貯蔵施設を同郡大熊町、双葉町、楢葉町の3町に設置する方向で調査を開始しようとしているが、放射能汚染、未だ不安定な福島第一原発にさらに中間貯蔵施設ができれば、住民が安全に帰還して生活できる状況とは到底いえない。

大熊町、双葉町、富岡町、浪江町は、早期帰還ではなく仮の街をつくることを決断しているという。

しかし、井戸川町長によれば、中間貯蔵施設の話だけが具体化し、移住先の提供に関する国や県からの提案はなく話が全く進んでいないという。

国はまず、福島の人たちがコミュニティごと移住できる街をつくり、そこに産業も誘致し、また事故前に営んできた生業ができるような措置を最優先で講ずるべきである。

そして、これらの地域よりは汚染度が低いとはいえ、福島には自然放射線を除き年間1mSvを超える地域が広範に広がっている。

こうした地域はチェルノブイリでは「避難の権利」つまり住民の選択により避難したいとのぞめば、避難の支援、避難により失う財物等の全面賠償、避難先での住居・就業支援を国が責任を持って行う地域とされていた。事実、多くの住民に移住先を提供し、本格的な移住支援政策をとってきた。

日本の政策はそれにはるかに劣っており、チェルノブイリ事故で有効でないと判断された除染という手法に巨額の資金とプライオリティを置くばかりで、住民を心身ともに疲弊させている。

特に、年間5mSv以上の地域は、日本の国内法でも「放射線管理区域」とされ、一般人の立ち入りが禁止されており、管理区域での飲食や睡眠をとることは何人でも許されていない。

ところが、福島県のいたるところに年間5mSvを超える地域があり、妊婦や子ども、乳幼児、将来子どもを産む若い世代も住んでいる。

このような事態を放置するのは法治国家として考えられないことである。

仮の街を求めている自治体住民だけでなく、こうした、本来「避難の権利」が認められるべき人達も受け入れ、移住を支援できるような街・コミュニティをつくることも必要である。

こうした提案もないまま、中間貯蔵施設の調査だけを進めるのは本末転倒であろう。

早急に年間1mSvを下回る候補地域を選定し、誠意をつくして移住支援策を提供してほしい。

福島県内に適切な地域がなければ県内にこだわらない決断をすべきである

自民党幹事長の石破氏が総選挙後にテレビ番組で公共事業政策に関連して「住んでみたくなる街をつくる」という発言をしていたので少し驚いた。

それは、私が昨年末、井戸川町長が移住先・仮の街として想定しているキーワードと期せずして同じであったからだ。

様々なバッシングを受けているが、「住んでみたくなる街」を井戸川町長は目指して本当に奮闘してこられた。

公共事業を進めるのであれば、ゼネコンを儲けさせるよりも、何よりも先に、最も苦しみ、展望を見いだせないでいる福島の避難者の人たちの役に立つ公共事業を最優先にすべきだ。

仮の街、移住先の責任ある提供から進めるべきだ。

そして津波被災者の方々の復興のための恒久住宅整備や高台移転、街づくりである。

後手後手に回って人々を絶望させるのでない、未来志向の政策を要望したい。

すでに被災者の人々の多くが希望をなくし、政治不信は甚だしい。

政治の信頼を回復するために、待ったなしだと思う。

こうした観点から、有権者として、厳しく補正予算の使い道をチェックしていきましょう。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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