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メディア会議「GENサミット」で紹介された AI、ブロックチェーンの実用例と女性の勇気とは

小林恭子ジャーナリスト
「GENサミット」はリスボン・コメルシオ広場の会場で開催された(撮影 小林恭子)

 (新聞通信調査会が発行する「メディア展望」7月号の筆者原稿に補足しました。)

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 5月30日から6月1日まで、ポルトガルの首都リスボンでメディア会議「GENサミット」が開催された。「GEN」(ジェン)はGlobal Editors Networkの略である。今年は世界70カ国以上の約840人のメディア関係者が参加した。

 GEN(2011年創設)は約6000のメディア組織 の編集・経営幹部を中心とした集まりで、編集室のデジタル改革を進めることを目的とする。メディア界とテクノロジー業界が出会う場の1つだ。

 年に一度開催されるGENサミットには、メディア界の大物と共に第2のフェイスブックやグーグルを目指す起業家たちやジャーナリストらが参加。メディア界、テクノロジー業界が抱える諸問題をテーマに議論が行われると同時に、大手テック企業が指南役となっていかにデジタル・ツールを編集室で使うかを教えるワークショップも複数開催された。

 「テクノロジー」、「女性」という2つのキーワードに沿った議論を紹介してみたい。

AI、ブロックチェーンが話題に

 数あるセッションの中で繰り返し取り上げられたトピックが、「AI」(人口知能)と「ブロックチェーン」だ。

 サミット初日の最初のセッションは、人間が不要となる世界を連想させるAIに対する恐れを取り除く話から始まった。

 フェイスブックのAI調査部欧州担当のアントワン・ボーダーズ氏によれば、「簡単なAI」は編集作業の至る所で使われている。例えば「音声を書き取ったり、写真にキャプションを付けたりする作業」だ。ある男性がサーフィンをしている写真には、AIの利用でこれを正確に描写するキャプションが作られたが、画像が複雑になると絵柄とは異なる描写になってしまう。人間には簡単なことでも、コンピューターには難しいことがあるという。

 2つ目のセッションでは、英BBCが「チャットボット」を使って記事を構成する具体例を披露した。「チャット」はネットを使った主としてテキスト形式でのリアルタイムのやり取りのことだが、「ボット」とは「ロボット」の略で一定のタスクを自動化するためのプログラムを指す。「チャットボットを使う」とは、人間(利用者)とAIを組み込んだコンピューターとが互いに人間同士であるかのような双方向の対話をすることだ。

 例えば、BBCニュースのウェブサイト上にある、英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)についての記事(5月24日付)を開くと、「アスク・ミー(私に聞いてください)」というタブが文中に表示され、最初のメッセージとして「ブレグジットは難しすぎて分からないと思っていませんか?」という問いが出る。その下には、ブレグジットについて理解を深めるための3つの質問が示される。利用者がこの中の1つを選ぶと、該当する質問に対する答えが次々と会話形式で出てくる。まるで友人とメッセージの交換をしているようだ。BBCのポール・サージェント氏は、「友人に話しかけるように文章を書くこと」と担当者に教えているという。

 同じセッションに出た米サイト「クオーツ」のジョン・キーファー氏によれば、同社では社員同士の連絡用メッセージ・サービス「スラック」の中で「クワックボット」を使っている。このボットに音声ファイルを落とし込むと、自動的に音声を文章化してくれる。人間の手を使えば書き取りには膨大な時間がかかる。また、音声ファイルを聞く時間がない社員もいるが、文章であればさっと目を通すことができる。クワックボットは時間の節約になっているという。

 もう1つ、大きな注目の的となっていたのがブロックチェーン技術だ。これは仮想通貨ビットコインの中核となる、取引データ技術を指す。取引のデータ(履歴)は「トランザクション」と呼ばれ、複数のトランザクションをまとめたものを「ブロック」とする。

 デロイトトーマツによる資料「メディア業界におけるブロックチェーン」によれば、ブロックチェーンとは「トランザクションをほぼリアルタイムで時系列に記録する変更不可能な分散型デジタル台帳」。他の複数の資料によれば、ブロックが重なるように保存された状態(「ブロックチェーン」)になっている。分散して管理され、利用者のコンピューターに保存される。

 メディアはブロックチェーンをどのように利用できるのだろうか?

 30日午後のセッションでは、ブロックチェーン技術を少額決済、中間業者の撤廃、事実検証に活用できることが紹介された。

 ブロックチェーンのプラットフォームを提供する米シビル社のダニエル・シーバーグ氏は、この技術を使えば「コンテンツは数万、数十万のコンピューターに配信され、永久的に存在する。消えることがない」という。誰もがその真偽を検証でき、利用者から信頼を勝ち取ったニュース制作者あるいは検証者は少額決済で報酬を受けることもできる。ブロックチェーンは「書き手、コンテンツ、読者が直接つながることができる世界だ。中間業者は必要なくなる」。

 ブロックチェーンを生かして、どのようなビジネスモデルを作るのか。次回のGENサミットまでにより具体的な例が散見されそうだ。

 

女性の勇気に総立ちの拍手

 米国で始まった性的ハラスメントや性暴力の告発運動「#MeToo」が、世界中に広がっている。

 6月1日のセッション「#MeToo―ジャーナリズムの唯一無二の瞬間」では、女性ジャーナリスト、編集者、リサーチャーらがその体験談を語った。米慈善組織「プレスフォーワード」のダイアン・ピアスバージェス氏は、性的ハラスメント・暴力の問題は「ジェンダー問題ではなく、人権問題だ」と述べた。

アヤブ氏(撮影 小林恭子)
アヤブ氏(撮影 小林恭子)

 

 パネリストの一人、インドの調査報道記者ラーナ・アヤブ氏の話を紹介しよう。

 同氏は、2年前に出版した本の中で、モディ首相と与党・インド人民党のシャー党首が2002年に北西部グジャラート州で発生した地域紛争の共謀者だったと書いた。インドの下層カーストに属する人々や少数民族に対する暴力についても多くの記事を書き、モディ首相がこうした暴力に対し十分な対応をしていないと批判した。アヤブ氏は「反体制的な記事を書くこと、女性であること、ヒンドゥー教徒が大多数を占めるインドでイスラム教徒であること」などの理由から、ソーシャルメディア上で攻撃を受けてきたという。

 

 今年4月、アヤブ氏についての間違った情報がツイッター上で広がった。同氏が児童レイプを支持したという誤情報だ。これを受けて同氏への批判が殺到した。メッセージアプリ「ワッツアップ」では自分の顔と裸の女性の身体が合成された画像が流布し、ツイッターではアヤブ氏の電話番号や住所などの個人情報が拡散された。男性たちが裸の写真画像や「レイプするぞ」などのメッセージを同氏に大量に送ってきた。超過熱状態は約2週間、続いた。「心身ともにボロボロになった」という。

 アヤブ氏は一連の攻撃の背後には「政治的意図があった」と指摘する。政権を批判する複数の女性ジャーナリストたちが、同様の扱いを受けたからだ。国外で活動をしたほうがいいのではないか、とよく言われることがあるが、アヤブ氏はインドを去るつもりはない。「私を黙らせるのが攻撃の目的だから。その目的を叶えさせたくない。これからもインドに住み続ける」。勇気ある発言に対し、会場内の参加者全員が総立ちとなり、アヤブ氏に拍手を送った。

 サミットは42のテクノロジー企業がスポンサーとなって開催された。来年は今年同様リスボンで、6月19日から21日まで開催予定だ。

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 以下のブロックチェーン(「現代ビジネス」より)についての記事もご参考に。

シリア難民支援で最先端のブロックチェーンが使われている深い理由

蔓延する「ブロックチェーンは善」という空気を鵜呑みにできない理由

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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