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[高校野球]夏の決勝では10連敗中の旭川東を応援したい!

楊順行スポーツライター
2009年に訪れたスタルヒン球場。もう変わっているかなぁ(撮影/筆者)

 第104回全国高校野球選手権・北北海道大会で、帯広大谷を7対0のコールドで破った旭川東がベスト4に進出した。進学校であるが、北北海道大会(つまりベスト16)にはたびたびコマを進めてはいる。現に今回も、昨年に続いて2年連続だ。だが、なかなか勝てていない。それが今回、昨夏以降、練習試合も含めて4回対戦し、4連敗してきた旭川明成に4対1。なんと、21世紀に入って初めての北大会勝利を記録した。

 両チーム無得点の7回、均衡を破ったのは一番・今津慶介主将。2死三塁から、外のツーシームを左前にはじき返す先制適時打に、「あの場面で打つために練習してきた。自信はありました」

 なんでも今津の祖父・寛氏は元衆議院議員、父・寛介氏は現・旭川市長なのだとか。旭川東はさらに準々決勝も突破し、1987年以来35年ぶりのベスト4に進んでいる。

 調べてみるとこの旭川東、甲子園まであと一歩のところで、何度涙を流してきたことか。

 北北海道のメイン会場・旭川スタルヒン球場。84年、それまでの市営球場を改築したとき、旭川出身の伝説的な英雄、ヴィクトル・スタルヒンにちなんで名づけられた。

 その球場から直線距離にして真南に2キロほどにあるのが旭川東高校で、スタルヒンの母校でもある(当時は旭川中)。スタルヒンは、のちに巨人などで303勝した大投手。在学当時のチームは33、34年と全国中等学校優勝野球の北海道大会決勝まで進んだ。だが33年は北海中に、34年はスタルヒンが11三振、2安打に抑えながら、バックのエラーで札幌商に惜敗と、あと一歩で甲子園を逃していた。

秋も含めれば決勝で11連敗

 甲子園が遠いのはこれ以前からで、初めての決勝進出(26年)で同地区の旭川商に4対9で敗れてから、(北)北海道の決勝で敗れることがスタルヒンまでにつごう3回、それ以後も5回。つまり、スタルヒンの2回を合わせ、これに勝てば甲子園という地方大会の決勝で敗れたことが10回もあるわけだ。

 甲子園常連校なら、毎年のように決勝に進み、そこでは勝ったり負けたりだろうが、旭川東の場合、10回決勝に進みながら、一度も勝っていないのだ。0勝10敗。あと一歩で甲子園だったのに、という“惜敗度”では、全国ダントツではないか。

 東東京の二松学舎大付も、夏の決勝で10連敗していたが、それを2014年に打破したあとは常連になっている。また二松学舎の場合、そもそも82年の準優勝など、そこまでセンバツには4回出場していたから、甲子園に無縁というわけではなかった。

 じゃあ旭川東も、二松学舎のようになれるか? それはなかなかむずかしい。最後に北北海道の決勝に進出したのは69年の夏のこと(●1対2芦別工)だが、当時の旭川東はその地区では堂々の強豪だった。だがそれから半世紀以上の間に、旭川龍谷や旭川実、旭川大高といった私立が勃興し、屈指の進学校である旭川東は、旭川地区を勝ち抜くのすらむずかしくなっているのだ。

 それにしても……決勝10連敗。付け加えれば53年には、秋の全道大会決勝で0対1と北海に惜敗し、その北海は翌年センバツに出場しているのだから、ここに勝っていれば……という惜敗度は、11分の0になる。

 だから、ぜひ。旭川東には23日に予定されている滝川西との準決勝を突破し、さらに決勝でもミラクルを起こしてほしいのだが。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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