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百貨店がメイクサービスを中止? ~新型コロナウイルスで美容業界にも打撃~

米澤泉甲南女子大学教授
当たり前だった美容部員によるメイクサービスが中止になる動きも。(写真:ロイター/アフロ)

「口紅はご自身で」-百貨店がメイクサービスも中止に

 先日、伊勢丹新宿店で口紅を買おうとして驚いた。新型コロナウイルスの影響で客足が減っているのはわかっていたものの、あまりにも閑散としている。日本で一番化粧品が売れる場所であり、ついこの間まで銀行のように番号札を持って接客の順番を待つ人々で溢れていたのが嘘のようだ。美容部員も全員マスクを着用しており、異様な雰囲気を醸し出している。春の新色を使ったせっかくの最新メイクも顔半分が隠れていてはよくわからない。

 それだけではなかった。テスターで新色をチェックし、色を試そうといつも通り美容部員に声をかけた。「試してもいいですか?」普段なら、にこやかな笑顔とともにすぐさま鏡の前に案内されるのだが、彼女はためらいがちに言った。「申し訳ないのですが、お客様ご自身で塗っていただくことになります。」通常は、美容部員が懇切丁寧に塗ってくれる。ついでに崩れたメイク直しや場合によっては、スキンケアから行ってくれることもある。とにかく、コスメを通して客と親密なコミュニケーションを図るのが美容部員の仕事なのだ。

 しかし、今日は違った。彼女は私が選んだ色の口紅をリップブラシに付けると、今塗っている色をとるためのリムーバーとともに遠慮がちに差し出した。「これでお願いします。」

 確かに、客にメイクをするという行為は至近距離に近づくだけでなく、直接肌に触れるのだから、このご時世最も避けるべきことかもしれない。今まで当たり前のように受けていたメイクサービスがなくなるのはさみしいが、仕方がないのだろう。

コスメ売り場に春は来るのか

 だが、他の美容系サービス業はどうなるのだろうか。エステ、マッサージ、ネイル、ヘアケア。頭のてっぺんから爪先まで至近距離で、直接身体に触れるサービスばかりである。現在はまだ通常に行われているが、今後新型コロナウイルスがますます蔓延すれば、それらのサービスにも何らかの影響が及んでくるかもしれない。

 何よりも低迷する百貨店の救世主であったコスメ売り場が大変なことになってしまった。インバウンド需要だけでなく、本来ならば3月は新色や美白商品が発売されるまさにかき入れ時だ。それに合わせてコスメティックフェスティバルなどのイベントを開催したり、大規模な改装を行い新ブランドを投入する百貨店も多い。まさに百花繚乱、色とりどりなコスメとともに春はやってくるのだ。だが、今年はまだまだ春が遠いようだ。

 新型コロナウイルスは美容業界にも深刻な打撃を与えようとしているのである。

甲南女子大学教授

1970年京都生まれ、京都在住。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。扱うテーマは、コスメ、ブランド、雑誌からライフスタイル全般まで幅広い。新刊『小泉今日子と岡崎京子』『おしゃれ嫌いー私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』『筋肉女子』など多数。

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