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「他人の人生を生きない」ためのヒント(後編)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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世の中、「やりたことを見つけなさい」ということが盛んに言われています。しかし、「本当にやりたいことをしている」「やりたいことが見つかっている」と胸を張って言える人は少ないかもしれません。多くの人の「Being=ありたい姿」を見つけるサポートをライフワークにしている澤円さんに、自分の理想の見つけ方や、行動するためのヒントを教えて頂きました。

<ポイント>

・「こうなりたい」より「こう在りたい」

・人生をスポットではなくロングショットで見る

・「それ面白いですね」は相手を肯定する魔法の言葉

・キャリアタグのつくりかた、育て方

・「他人は変えられない」というのが原理原則

・自分がどれだけダメかという自己開示をする

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■「なりたい自分の見つけ方」

倉重:「やりたいことを見つけよう」といろいろなところで言われますが、「そのようなものはないです」という人もいます。「今の仕事も面白いのか面白くないのかよく分からない。でも転職も怖い、起業もなかなか簡単ではないし」と言いますよね。

澤:できない理由はいくらでも思い付きます。無理してやることはないのですが、自分が「こう在りたい」ということを言葉にしておけば、すごくいろいろなことがクリアに見えてくると思うのです。それを言葉にするとつながってくると思います。よく言っているのが、「時計が欲しい」と漠然と考えるのではなく、「オメガが欲しい」「グランドセイコーが欲しい」と口にすることです。そうすると多分歩いているときに目に入ります。

倉重:意識するからですね。

澤:マーケットの中で流通量が増えたわけでもないのに「あれはオメガだ」と気付くのは、自分の中にビットが立っているからです。自分の中にビットが立つかどうかが非常に重要です。ビットが立ったら、今度は行動をどのように紐づけていくかという思考を持てばいいと思います。

倉重:いいですね。澤さんの本でもいいなと思ったのは、「それは面白いですね」という魔法の言葉をどんどん言っていけということです。いろいろ関わっていくうちに、ビットがどこかに立つことがあるのですね。

澤:「それは面白いですね」というのは相手をすごく肯定している話なのです。これは実はD&I、ダイバーシティー&インクルージョンの一番根本の部分なのです。何でもかんでも「それは面白いですね」と言うと相手を受け入れている状態になります。

倉重:いったん受け入れていますね。

澤:相手を受け入れるということがD&Iの中で最も重要だと考えたときに、面白がってあげるというのは一つの表現だと思います。

倉重:確かに、上司が話しているときに若手が面白がってくれたらうれしいし、いろいろ教えたくなりますね。

澤:そういう考え方でいると、事がスムーズに進む感じがします。

倉重:でも、キャリアに迷うときもあると思うのです。転職しようか、起業しようか、あるいは留学しようかなど多様な選択肢がある時代なので、「どうしたらいいですか」という相談を受けることもあると思います。それにどのように答えていますか。

澤:全く装飾を取った状態で、一言で表すのであれば「知らん」です。どのような意味で言っているかというと、それを成功にするのも失敗にするのもあなたが決めればいいだけという話なのです。あとは「どれくらいの時間軸で考えているのか」というのがポイントになると思います。チャップリンの名言で「人生というのはスポットで見ると悲劇だけれども、ロングショットで見ると喜劇だ」という言葉があります。

倉重:いい言葉ですね。個々の出来事で悲しいことはあるかもしれないけれど、人生というロングタームで見たときにそれをどう解釈するかはまた別の話ですもんね。

澤:短くスポットで見ると本当につらくしんどいことでも、ロングで見ると、「あんなことがあったよね」という思い出話になるという考え方です。短い間で確実に成功を収めたいのであれば、自分の能力をしっかりと見極めて、絶対にうまくいくというポイントの少し上を目指すと、成長もできて成功もするベストな状態になっていきます。これを積み重ねていくというアプローチはありだと思います。

倉重:自分なりにちょっとストレッチさせるということですね。

澤:全く別のアプローチとして「ロングショットで面白いことをする」という方法もあります。すごく遠いものをぽんぽんと置いておいていけば全部布石になるのです。僕はそれを3Dの空間と言っています。3Dの空間にポイントを置いて、それをつなぐとすごく大きな球体ができるわけです。その球体にあるのは、あなたにとっての全ての世界ということです。

倉重:その範囲で考えたらいいのではないかと。

澤:つなぐのにそれなりに時間がかかるから、待っていられないのであれば、小さな玉をいくつも用意するという考え方で、最終的につながればいいのです。

倉重:なるほど。よくスティーブジョブズの「コネクティング・ザ・ドッツ」と言われますけれども、そもそもドットを打つ数が少ないと意味が無いという話ですね。

澤:なぜ3Dという言い方をするかというと、若い人たちにありがちなのですが、キャリアを考えるときに2次元の図を書く人がよくいます。矢印の上に年齢や役職を書いていく感じです。

例えば半沢直樹の世界観では、「お前は出向だ」となるとスタート地点に戻されるから「冗談じゃない」と言って騒ぐわけです。「あいつは自分と同い年なのになぜ上なんだ」「なぜあいつは自分よりも若いのに同じポジションなんだ」というのが嫉妬になるのです。

嫉妬はパワーにすることもできますが、だいたい思考を濁らせるというのが僕の持論です。嫉妬をコントロールできる人は結構レアで、だいたいそれで頭がいっぱいになってしまいます。

倉重:私も司法試験の勉強をしているときに、「彼女がいるやつは全員死ね」と思っていました。

澤:例えば司法試験の世界だと「自分より若いのにあいつが先に通った」となると嫉妬になってしまいます。気持ちは分からなくはありませんが、1年のずれというのは30年後には多分関係ありません。その間にはずれの案件をその人が引いてしまえば、一気に10年くらいがビハインドになる可能性もあります。ロングショットで考えるというのはすごく重要です。人間はなかなかロングショットでものが考えられないというのも事実なので、僕みたいに外からロングショットで評価してあげる人、褒めてくれる人がいると結構勇気付けられるのではないかと思います。

倉重:キャリアを考えるのは、なぜ3Dのほうがいいのですか。

澤:宇宙空間は上下がありませんよね。『「やめる」という選択』という本にも書いたのですが、カシオペア座の中の星が他の星をディスるわけがないのです。「俺のほうが右上だよ」「俺なんかセンターだぜ」などと言いません。そもそも「W」の形に見えているのは人間だけです。

倉重:確かに地球から見たらそう見えるというだけの話ですからね。

澤:「俺らはカシオペアというグループらしいよ」という概念もなければ、何万光年も離れているので上下もありません。3Dで考えるというのはそういうことです。

倉重:会社を移ったり仕事が全く変わったりするのは、本当に3Dですね。前の会社での序列などはどうでもいいですから。

澤:3Dでものを考えるためにはやはり外部からの物差しを持っておくことがすごく重要です。それから複数のタグです。

倉重:澤さんがいつも言われている言葉で私が好きなのは「他人の人生を生きるな」という言葉です。これをぜひ話してほしいと思っています。

澤:世の中にはいろいろな軸のようなものがあります。あるいはルールや評価のためのポイントがあり、それに振り回される人は結構いるわけです。

倉重:やはり他者評価は気になりますから。

澤:そちらに合わせて生きようとすると、結局自分の生きたい人生とは違うものになりかねません。完全に一致する人もいるかもしれませんが、僕は割と少数派だと思っています。

かつ、今定義されている素晴らしいものが、将来もずっと高評価かというと微妙なのです。例えば、かつては「ちょんまげを結うのが侍のたしなみである」と思われていました。今それをしたらただの変態コスプレ野郎です。時代とともに価値観は変わります。ざんばら髪のほうが好きならば、そのとおりに生きてもいいのです。

江戸時代の人は、世の中に複数の価値観があるということを知りませんでした。情報網がないからです。現代人は「世の中には多様な価値観がある」ということをSNSなどを通して知っています。だとしたら、無理やり他者の価値観に合わせて生きるのがくだらないことだと、もう言わなくても分かりますね。

倉重:本当はみんな分かっているはずです。

澤:不安なのであれば、自分を肯定してくれる仲間を作ればいいのです。作り方はどうするかというと、まずは自分が仲間になることです。「あなたはいいね」と面白がってあげることを自分からやればいいのです。

倉重:それがコミュニティーを作るということにつながるわけですね。

澤:「私は正しい」「私のやり方をまねすべきである」というのは、なかなか受け入れられません。「あなたは面白いね」と言っていると、自然と人が集まってくるのではないかなと思います。

倉重:誰でも「面白いね、教えてください」と言われれば、「いいよ」となりますね。「小さくてもいいからコミュニティーを作れ」というお話も本に書いてあったと思います。それは別にSNSのつながりでもいいし、リアルでもいいし、同じ価値観を持つグループを作っていくという感じですか。

澤:そういうことです。よく言っているのが、外の物差しを持つということです。世の中にはいろいろな単位があることを知りましょうと繰り返し言っています。

 例えば、100メートル走で全然芽が出なくて「私は駄目人間である」と思っているかもしれません。100メートル走以外のスポーツがこの世にあると知らないとそうなってしまうのです。だけど、外には柔道という競技もあります。100メートルを短時間で走った人が勝ちというルールから、相手の襟首をつかんで投げ飛ばしたら勝ちというルールになります。「あれ、俺は結構握力が強い」「なぜか背筋力はすごくある」ということが武器になるのです。ルールや単位が違うものに触れて初めて自分の強みを生かせます。「自分はもともと柔道のほうが向いていたのだ。今まで向いていないことを頑張っていただけなんだ」と気づくと、過去の清算が非常に楽になるわけです。

倉重:後で笑えるようになりますね。

澤:「全然向いていなかったのに、めちゃくちゃ100メートル走を続けてしまったんだよね。だけどそこで得られたものはこうですよ」と言うと、無駄にはならないわけです。

倉重:自分の心をアップデートせよということですね。ついだらけてしまうこともありますし、意識してやるのは難しくないですか?

澤:だらけるのが駄目とは全然思いません。僕はだらけまくっています。何もない日は平気で昼まで寝ています。それも自分のルールの中でオーケーならば別にいいのです。だらけるという定義は何かという話で、「9時までに遅刻をせずに会社に行く」という価値観の中では、僕の生活はだらけているかもしれません。しかし「短い時間の中で多くの価値を提供する」というふうに言い方を変えると、生産性が高いとも言えるわけです。

倉重:そう考えると今の時代にぴったりです。

澤:一番力を発揮できるポジションに自分を置けるかどうかが非常に大事です。自分はどのようにしたら力が発揮できるのかが自分で分かっていないといけません。

倉重:「何か打ち込めるものを探したいのですが、時間がなくて」という人もいませんか。

澤:時間がないのはなぜかということを、きちんと自分で説明できる状態ですか。1日が24時間なのはみんな同じです。割り振りがおかしいのではありませんか。「自分以外の人間がやったほうが価値のあることをしていないか?」と自分に問いかけ、棚卸しをきちんとしましょう。「部屋が狭い」と言う人も同じです。部屋が狭いのではなくて、物が多いのではないのか、レイアウトがまずいのではないのかという話で、視点を変えていくということが重要だと思います。

倉重:何事も、全体を通じて解像度を上げることが大事ですね。

澤:言葉に落としていき、他の人に説明できる状態をいかに作るのかがすごく大事なマインドセットだと思います。

倉重:私も「時間がない」と言っていましたが、コロナ後の働き方になってみると、非常に移動に時間を使っていたなと思いますね。

澤:僕は「忙しいところすみません」と言われても「いや、暇ですよ」と返します。やることはおかげさまでたくさん与えられていますが、それと忙しいは別問題だと思っています。

■「べき」を使わない理由

倉重:言葉も意識して変えられているのですか。

澤:「難しい」「忙しい」ということは言いません。昔からずっと続けているのですが、基本的には全員「さん」付けにして、カジュアルな敬語で、フラットに接することを心がけています。

倉重:どのような立場の人でも?

澤:変えるのが面倒くさいというだけですけれども。大変偉い人であっても、すごく丁寧な言葉で話そうというのは最初から諦めてしまっています。新卒であろうと何だろうと、中学生以上は基本的に「さん」付けで呼んでいます。上から目線で話していても、ろくなことにはなりません。他責思考も絶対にいいことはないです。

それから主語を大きくしないということです。話し始めるときには「僕は」と付けます。それから「べき」という言葉も使いません。なぜかというと「べき」は思考が排他的になるからです。「こうすべき」というと、他の選択肢が急激に価値を失ったり、選びづらくなったりします。「こうすべき」から解放されると、実はすごく人生が楽になるのです。

 これにはエピソードがありまして、十数年前に「メンタートレーニング」という研修を受けました。新卒の社員が入ってきたときにメンターとしてどのような振る舞いをするのかを学ぶ研修です。1Dayの研修でしたが、僕は一番に会場に着きました。

当時はジーパンか何かを穿いて、今と同様に長髪で、派手なシャツを着ていたのです。外部からの講師が僕を見てあぜんとしていました。研修が始まったときに、1ページ目は飛ばされたのです。1ページ目は何だろうと見たら、身だしなみでした。

倉重:講師が「まずい」と思ったのですね。

澤:最初にエラーが来てしまったのです。「メンターたるもの、新卒の社員のお手本でなくてはならない」というべき論がそこには書かれていました。その人は2ページ目から紹介してくれましたが、やっているうちに面白がってくれて、最終的に「やはり自分は思考が偏っていた」と言ってくれました。

研修講師の人は「こうあるべき」ということを教えに来たのだけれども、「べき論」がそもそも違ったというエピソードです。

倉重:講師に教えてしまったのですね。これも当たり前を疑えということですね。

澤:長髪で好きに生きているというのは、特に迷惑をかけることはないのです。「自由に生きやがって、ずるい」という人はいるかもしれませんが、僕はそう選択しただけですから、知りません。

■「夢の中で生きている」

倉重:私からは最後の質問ですが、澤さんの夢をお伺いしたいと思います。

澤:意外に思われるのですが、将来の夢は別にありません。なぜかと言うと、ほぼ夢を見ながら生きていて、毎秒何かしら夢がかなっているような感覚なのです。

倉重:今、夢の中にいるということですね。

澤:やっていることは、全部夢を実現するためのものです。要するにゴールに向かって歯を食いしばって何かをやるタイプではないのです。非常に刹那的な人間なので、秒単位で夢をかなえています。「あれを食べたい」「この人に会いたい」「あれを見たい」と思ったときに、すぐにできるのであれば即座に行動します。すぐにできないのであればできる時間を捻出するという考え方です。やりたいことが大きくなったり、少し遠くなったりすることはありますが、何か壮大な目標に向かっていくというタイプではありません。これはタイプの問題だと思います。

倉重:どちらが良いか悪いかではなく、「今夢の中にいます」と言える人はかっこいいです。自分の人生を生きていますね。ありがとうございます。

■リスナーからの質問タイム

倉重:ここからは2人の質問に答えていただきます。Aさんからお願いします。

A:澤さん、貴重なお話をありがとうございました。キャリアタグを増やすというところで伺いたいことがあります。私も自分のブランディングが大事なことは分かっていて、どのようなタグを足していこうかと考えています。タグとは自分がやりたいものを足していき、仕上げていくものでしょうか。

澤:アプローチはいろいろとあると思うのですが、なりたいものより大事なのは「どう在りたいか」ということです。これをよくBeingと僕は言っています。なりたいものというのは、ある定義体があったり、名前が与えられていたり、ポジションが保証されていたりするものです。

なくなった途端に自我が崩壊する可能性があります。よくあるのが、部長になりたいと言う人です。その人は定年退職した途端にアイデンティティーがなくなってしまいます。本当に冗談抜きで痴呆(ちほう)になったり、現役時代の名刺を持ち歩いてあいさつをしたりする人生が待っているわけです。そうなりたいですか?

A:嫌です。

澤:嫌ですよね。「在りたい自分」となると、例えば他の人に優しくありたいとか、いつも陽気でありたいとか、「こういう存在でありたい」という派生を作っていくと、どのようなものでもタグになり得ると思います。

A:例えば、人を中心に物事を考えられて、好かれるような人になりたいとしたら?

澤:先ほど言った欲しい時計があると目に飛び込んでくるのと同じ理屈で、強く意識していると、そういうタグを持っている人に出会ったときに「私はこの人の在り方に憧れていたのだ」ということがすぐに言語化できます。そうなると行動が変わってきます。

倉重:多分行くイベントや付き合う人なども変わってくるでしょうね。

澤:そうですね、どんどん変わるでしょう。付き合う人もそうです。大前研一さんも、「人生を良くするためには3つのことを変えるしかない」と言っています。まず時間配分を変えること。住む場所を変えること。付き合う人を変えることという3つです。一番無意味なことは決意を新たにすることです。アクションを伴わないものは意味がないのです。意識をしてアンテナを立て、行動をする前提で初めてこれが生きてくるのです。

A:行動が見えている思いを新たにですね。

澤:あるいは行動につながる思いを持つという感じでしょうか。

A:ありがとうございます。

倉重:それではBさんお願いします。

B:初めまして。よろしくお願いします。「言いにくい」という理由で、お互いに直接話し合うということがなかなかできないスタッフに課題を感じております。どのような言葉で伝えるのが効果的でしょうか。

澤:まず、人間関係の原理原則に「他人は変えられない」というのがまずあるわけです。他人に直接「こう変わったほうがいいよ」と言っても、大概大きなお世話というふうになるので、残念ながらなかなか伝わらないというのが大前提としてあります。 

もう少し踏み込んで考えると、まず自分がロールモデルになるということです。もう一つ、すごく重要なことは自己開示です。自己開示はされていますか?

B:しているつもりです。

澤:どれだけ自分が駄目な人間で、何ができないかとか、どれだけポンコツかというのを、毎日繰り返し言っていますか?

B:それはできていません。もちろん「自分ができない」「私もこうだったよ」と伝えてはいますが、毎日はできていません。

澤:現在進行形でなくてトホホなものを、どんどんオープンにしていくのは、結局のところ身を助ける気がします。僕は少なくともそうだし、僕の周りもそういう成功体験を持っている人が多いです。僕が付き合っている連中はだいたいそうです。どいつもこいつもポンコツなのですが、面白いのです。できないことは極端にできないのだけれども、その人が得意なことやその人が在りたいと思っている行動は素晴らしく、何か事を成している人間がすごく多いのです。

自分がポンコツであることをカミングアウトするのは、評判が落ちるように感じるのですが、それをディスってくる人はそこまでの連中なので放っておけばいいです。

倉重:澤さんも、飛行機のチケットを取れないという話をよくされていますね。

澤:僕はひどいです。まず、予定調整が全くできないのです。僕はカレンダーが読めないので、自分で予定調整を絶対にしません。僕に直接連絡して「いいですよ」と言ってもうそだと思ってください。本当に冗談抜きで1年後のカレンダーに登録をしますから。来年の同じ日に予定が入っていたということがありました。そういうことを言っておけば、諦めてもらえるわけです。それで倉重さんが「本当にこいつは役に立たないやつだ」と思ったら、多分ここには呼んでいません。それはそれなのです。

倉重:得意で勝負をしろということですね。

澤:そうです。特に運営をしているということは、責任をお持ちの方ではありませんか。そういう人は、いかに自分が弱いかをカミングアウトしていくほうが勇気はいりますね。「自分はこれができないのだ」と。

B:以前、上司にそれはするなと言われたのです。逆に自分を大きく見せたほうがいいという価値観の上司がいました。

澤:その人は面白かったですか。

B:面白くなかったです。

澤:なぜそのような人の言うことを聞くのですか?

B:自分だけ違う価値観なのかなと思っていて。今この話を聞いていて、間違っていなかったと心が軽くなりました。

澤:正解があるわけではないのですが、少なくともその人がつまらないのであれば、その人のまねをしてもつまらなくなるだけです。だから、面白い人のまねをしたほうがいいです。面白い人たちはほぼ例外なく自己開示をしています。心理的な安全性を感じていない職場では、自己開示を部下からするのは無理ですから。

倉重:やはり上から自己開示しないと駄目なのですよね。

澤:僕が勤めていたマイクロソフトという会社で、Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)という本が出ています。これはサティア・ナデラというCEOが出している本なのですが、自己開示だらけです。本人がどれだけつらいことがあったか、難しい判断をしてきたかということが自慢話には全然見えないような形で書いてあります。彼がよく言っているのは、テクノロジーは人類を幸せにするということです。彼の息子さんは非常に重度の障害者なのです。へその緒が首に絡まってしまい、脳に酸素が足りず、障害が残った状態で生まれてきました。一生来ずっと機械につながれた状態でないと呼吸すらできないという重度障害者なのです。そういうこともカミングアウトしています。それによって自分は妻のキャリアをつぶしてしまっている人間だという言い方をしているのです。奥さんは大変優秀な弁護士さんですが、「私はキャリアを諦める。あなたは外で頑張ってくれ。役割分担をしよう」と言ってくれたから自分はここにある。自分は人生を懸けて人類をハッピーにするという職務を全うしなければならないという大変な決意をしています。

 それからもう一つ、彼が言っている素晴らしいことは、ビジネスを進めていく上で成功要因となるのは、知識や経験というものではなく共感力だと言っています。共感する力があるということは、すなわちビジネスの発展の確率が上がっていくのです。だから共感力を磨くことはすごく大事です。

どちらかと言うと強い人よりも、困っていたり助けを求めていたりする人に対して、人はシンパシーを感じるのではないかと思います。そうであれば先回りしてその人たちを助けてあげればいいのです。

困っているなと思っていたら、「何かあった?」「何が助けられる?」というふうに言って先回りして助けてあげるような形にしていきます。自分も困っていることがあるとどんどん言い続けると、付き合いやすくなるかなと思います。

 ちなみに僕がマイクロソフト時代に率いていたチームは、僕よりも年上の人間もごろごろいて、みんなにスーパーチームと言われていた、大変経験豊かな変態ばかりが集まったチームでした。みんなリスペクトし合い非常に仲の良いチームだったのです。みんな優秀なのですが、僕も含めて事務作業はぐちゃぐちゃなのです。申請作業などがみんなできなくて、結局ヒエラルキーのトップに君臨していたのが派遣の女性でした。「みんな、彼女の言うことを聞くんだぞ」という感じで。

倉重:「経費の申請をお願いします」とか?

澤:そうです。フラットに役割分担という意味で見ているので、派遣ということを僕は全然気にしません。今は便宜上言いましたけれども、派遣であろうと何だろうとチームメンバーであるという前提で、なおかつ依存度という意味ではその人がヒエラルキートップでした。

倉重:その人がいなくなったら終わりだと。

澤:何があっても、「はい」か「イエス」しか言ってはならないのです。

倉重:Yes or Certainly Yesですね。

澤:そうです。このような関係を築くと非常にうまくいきます。

オバラ:勉強になります。共感をするにも、自分がどんどん失敗をしていかないと分からないですね。

倉重:やらかした話ですね。私も日付を入れるのが苦手で、最初の頃は必ず訴状の日付や事件番号を間違って出しました。一番駄目なことなのですが。

澤:未来の事件を解決したのですかと。

倉重:お前は予知能力者かみたいな。

澤:僕は金額をよく間違えていました。ドルと円の換算などがあるから、計算が非常にややこしいのです。100K Dollarとか書かれると、その時点で思考が止まるのです。100Kとは何だよと。100にKだから1,000だろうと。100に1,000とか難しいです。桁が大きいです。そう言っている間に話題がずっと先のほうに進んでしまいます。しまいには渡されたExcelの表で遊び始めてしまうのです。

倉重:そういうことを開示するのですね。

B:全然開示が足りませんでした。すごく参考になりました。ありがとうございます。

倉重:ありがとうございます。非常に具体的で、面白かったです。

(おわり)

対談協力:澤 円(さわ まどか)

(株)圓窓の代表取締役。

元・日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。マイクロソフトテクノロジーセンターのセンター長を2020年8月まで務めた。

DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングなどを行っている。

複数の会社の顧問や大学教員、Voicyパーソナリティなどの肩書を持ち、「複業」のロールモデルとしても情報発信している。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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