大反響の「ゼルダの伝説」最新作にみる「クラフト」ゲームの新時代
人気ゲーム「ゼルダの伝説」の最新作「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が大きな話題になっています。
なんでも5月12日に発売されたのち、発売後3日間で世界販売本数1000万本を突破した模様。これは任天堂のタイトルとしては「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」に続いて半年ぶりのことだそうです。
さらに多くのゲームメディアのレビューで100点満点を連発。
気が早いことに今年のゲーム・オブ・ザ・イヤーは確実との声も多数聞かれます。
参考:『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』が世界中の主要メディアレビューで100点満点を連発。
もちろんゼルダの伝説シリーズは、1986年に初代が発売されてから累計販売本数が1億3000万本に達するなど、長らくファンに愛されてきたゲームですので、ある意味今回のヒットは約束されたヒットと感じる方も多いかもしれません。
ただ、今回の最新作においては、明らかに従来のゲームと異なる盛り上がりが、ヒットの一翼を担っているのが印象的。
それは「クラフト」です。
革新され続けているゼルダのゲームシステム
もともと「ゼルダの伝説」は、一般的にはアクションアドベンチャーやアクションロールプレイングゲームと呼ばれるジャンルに分類されるゲーム。
その中でも「ゼルダの伝説」はゲーム機の進化に合わせて、様々な新しい挑戦をし続けてきたことでも有名なゲームです。
特に2013年に「ゼルダのアタリマエを見直す」という開発方針を打ち出し、「シナリオに沿って進める」のが普通だったゲームシステムを大幅に変更。
2017年に発売された「ブレスオブザワイルド」ではゲーム序盤からプレイヤーが行きたいところに自由に行くことができる革新的なオープンワールドシステムを実現して大ヒットになったわけです。
今回の最新作である「ティアーズオブザキングダム」発売においては、あまりに前作の「ブレスオブザワイルド」が革新的であったため、前作を超える驚きは得られないのではないかと心配するプレイヤーが少なくないほどでした。
しかし任天堂開発スタッフは、今回の「ティアーズオブザキングダム」で空と陸と地下の三層構造など、複数の新しい要素を導入。
続編でありつつも、全く新しいゲーム体験をもたらす新作を作ってくれました。
その中でも、最も大きなインパクトを巻き起こしているのが「クラフト」要素です。
びっくりするほど様々な「クラフト」が可能に
「クラフト」要素とは文字通り「マインクラフト」などのゲームに象徴される、プレイヤーが自由にアイテムや建築物を作成することができる要素のことです。
前作の「ブレスオブザワイルド」でも、かなり自由に素材や道具を活用することができましたが、今回の「ティアーズオブザキングダム」では、「ウルトラハンド」や「スクラビルド」という明確なクラフトのための特殊能力や、モーター的なクラフト用アイテムが多数実装。
ゲーム内にある丸太や岩などを自由にくっつけたり動かしたり、機材と組み合わせて自動で動くアイテムも作ることができるため、ある意味「クラフトゲーム」と呼んでも良いレベルの自由度が生み出されているわけです。
「クラフト」ならネタバレ無しでSNSにシェア可能
実はこの「クラフト」要素は、SNSのシェアやゲーム実況と非常に相性が良いのがポイントです。
ストーリー進行型のゲームにおいては、新作の映画同様、SNSなどにネタバレを不用意に投稿することが嫌われる傾向にあります。そのため、今回も「ティアーズオブザキングダム」においても、多くの人はSNSにストーリーの内容やネタバレにつながるような投稿を控える傾向にあるようです。
ただ、一方で「クラフト」要素はストーリーとは直接関係ないため、様々な面白投稿が話題になっているのです。
そうした面白投稿がSNSで話題になると、それをまたネットメディアが記事化して、それがまたSNSで話題になるというサイクルが、今回の「ティアーズオブザキングダム」では多く発生しています。
参考:『ゼルダの伝説TotK』で“動くガンダム”を作ったプレイヤーあらわる
実際に、「ゼルダ」に関するツイッターの投稿数をグラフで見るとこうなります。
通常のゲームにおいては、発売日に大きく投稿数が跳ね上がった後、比較的跳ね上がったのと同じペースで、すぐに投稿数が落ち着くことが多いのですが、今回の「ティアーズオブザキングダム」では、発売後1週間経った本日の時点でも25000件以上のツイートがされています。
当然発売当日に比べれば数は減っては来ていますが、それでも相当な数の投稿がツイッターにされ続けているのが、今回の特徴と言えるでしょう。
ゲームにおいて重要な要素となりつつある「クラフト」
筆者は、従来型の与えられたストーリーをクリアするのが好きなゲーマーですので、正直な話としては、あまり「クラフト」自体に時間はかけずにプレイしています。
ただ、ゲーム業界的に明確に最近の傾向として出てきているのが「クラフト」要素の重要性です。
象徴的なのは、2023年までに最も売れたゲームは2億3800万本以上販売されている「マインクラフト」であるという点でしょう。
「マインクラフト」は文字通り「クラフト」要素がメインのゲームであり、通常のゲームモードでは、ストーリーをプレイするのではなく、ゲームの世界での素材集めやクラフトを楽しむゲームです。
ボス的な敵は存在しますが、エンディングを目指してプレイするわけではないというのが典型的な「クラフトゲーム」の特徴と言えるでしょう。
また、4億人の利用登録があると言われている「フォートナイト」も、バトルロワイヤル型の対戦ゲームがメインになっていますが、いわゆるシューティング要素だけでなく建築という「クラフト」要素があるのが大きな特徴です。
さらに、「フォートナイト」は対戦だけでなく、自分だけの島やゲームを作ることができる「クリエイティブ」のモードがあり、多くのクリエイターが日々新しいゲームを生み出しているのです。
こうした「クラフト」要素があるゲームというのは、様々な領域で増え続けています。
今回の「ゼルダの伝説」シリーズに、本格的に「クラフト」要素が取り入れられたのは、そうした世界的なトレンドを受けたものであることは間違いないでしょう。
ただ、ゲームの自由度が高ければ高いほど、そのゲームの構造上、ストーリーが存在しなかったり、中途半端なものになりがちです。
「ティアーズオブザキングダム」の真の凄さは、従来型のストーリーを重視したロールプレイングゲームと、自由度が高い「クラフトゲーム」の両方の良いところを組み合わせ、悪いところが顔を出さないように丁寧に作られている点でしょう。
今回「ティアーズオブザキングダム」は、「クラフトゲーム」と従来のロールプレイングゲームの境界線を明確に壊してしまったように感じます。
プレイヤーの自由なゲームへのシフト
SNSの普及によって、従来はメディア企業が視聴者や読者に対して情報発信を一方通行でしていたのに対して、全ての人が情報発信が可能な時代になりました。
実はゲームの世界においても、単純にゲーム開発企業がプレイヤーに対してゲームのシナリオやプレイの仕方を提示するだけでなく、プレイヤー自身が自由に「クラフト」したり、自らがゲーム開発に関わるような形にシフトがはじまっているようにも感じます。
今回の「ゼルダの伝説」における「クラフト」への挑戦は、そうした時代のシフトを象徴したシンボルとして歴史に刻まれるのかもしれません。
前作の「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は累計販売本数が2981万本で、「マリオカート8」や「あつまれ どうぶつの森」に続き、任天堂のタイトルとして歴代4位の記録を持っています。
現在の勢いを考えれば、「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」は、前作を超える勢いで販売本数を伸ばすことになりそうです。
はたして、今回の最新作がどこまで記録を伸ばすのか。
引き続きハイラルの地を旅しながら、楽しみにしたいと思います。